見出し画像

Vol.49 睡眠時無呼吸は「太った人の病気」ではありません。痩せ型のあなたも。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)と聞いて、多くの人が思い浮かべる姿があります。恰幅のいい中年男性が、大きないびきをかきながら眠っている——そんなイメージです。

このイメージは、半分は正しく、もう半分は、とても危険な間違いです。

確かに、肥満はSASの大きな危険因子です。首回りに脂肪がつけば気道は狭くなりやすく、太ることでSASが悪化するのは事実です。

けれど、「だから痩せていれば大丈夫」という結論は、まったく成り立ちません。ここを誤解すると、命に関わる病気を、自分の中から勝手に除外してしまうことになります。

私自身が、その生きた反証です。

重症のSASと診断されたとき、私は20代で、体型はむしろ痩せ気味でした(このときの詳しい経緯は、【特別号】超重症の無呼吸と診断された睡眠専門医の願い|ドクターOに書きました)。なぜ、痩せた若者がそこまでの重症になるのか。鍵は、脂肪ではなく骨格にあります。

日本人を含む東アジア人は、欧米人と比べて、顎が小さく、後ろに引っ込んでいる傾向があります。顎が小さいということは、その奥にある喉の気道のスペースが、もともと狭いということです。

土台のスペースが狭いところに、加齢による喉の筋力の低下、わずかな体重増加、寝る前の飲酒といった要素が重なると、痩せている人でも気道は簡単に塞がってしまう。

欧米のSASが「肥満主導」であるのに対し、日本人のSASには「骨格主導」のタイプが相当数いるのです。これは、臨床の現場で強く実感することです。スリムな体型の方が、検査をすると重症だった、というケースは決して珍しくありません。

もうひとつ、肥満神話と並んで根強い誤解があります。「日中、耐えられないほど眠くなる病気だ」というものです。

確かに日中の強い眠気はSASの代表的な症状です。しかし、眠気をほとんど自覚しないSAS患者も、いくらでもいます。重症であってもです。

私自身、眠気はありましたが、当時は「仕事が忙しいせいだ」で片付けていました。本人は「自分は眠くないからSASではない」と判断してしまう。けれど、その夜のあいだ、脳と心臓には確実に負担がかかり続けている。眠気の有無は、SASを否定する根拠にはまったくならないのです。

では、私たちは何を手がかりにすればいいのでしょうか。

最も信頼できるサインは、皮肉なことに、自分では気づけないところにあります。家族やパートナーから指摘される、大きないびき。そしてもっと重要なのが、「いびきが急に止まり、しばらくの静寂のあと、あえぐように大きく息を吸う」という、呼吸の止まりです。

隣で寝ている人を、ひやりとさせるあの瞬間です。これを指摘されたことがあるなら、体型や眠気の自覚に関係なく、一度きちんと検査を受ける価値が十分にあります。

もうひとつ付け加えるなら、健診の数値も手がかりになります。若いのに血圧が高い、原因のはっきりしない多血(赤血球が多い)を指摘された——こうした所見が、夜間の低酸素を反映していることがあります。

健診結果を「異常なし/要観察」の一言で流さず、その背景に睡眠の問題がないかを考える視点を持つだけで、発見の確率は上がります。

ほかにも、間接的なサインがあります。薬を飲んでもなかなか下がらない高血圧。夜中に何度もトイレに起きる夜間頻尿。すっきりしない起床時の頭痛。これらが揃っているなら、その背景にSASが潜んでいる可能性を、頭の片隅に置いてほしいのです。

検査自体は、思うほど大げさではありません。多くの場合、まず自宅でできる簡易検査から始めます。指と鼻にセンサーをつけて一晩眠るだけです。そこで強く疑われれば、より詳しい検査に進む。

「入院していかめしい検査を受けなければ」と身構えて先延ばしにする方が多いのですが、入り口はずっと手軽です。気になるサインがあるなら、まずはかかりつけ医や睡眠を扱う医療機関に相談してみてください。

「痩せているから大丈夫」「眠くないから違う」。この二つの思い込みが、これまでどれだけ多くの人の発見を遅らせ、その間に高血圧や心疾患のリスクを積み上げさせてきたか。

専門医として、そして自らも痩せ型の重症患者だった当事者として、ここははっきりと書いておきたいのです。SASは、見た目で除外できる病気ではありません。

出典:

Gottlieb DJ, Punjabi NM. Diagnosis and Management of Obstructive Sleep Apnea: A Review. JAMA. 2020;323(14):1389-1400.


*noteの記事の内容は筆者の個人としての見解です。筆者所属の医療機関の見解とは一切関係ありません。内容の正確性には細心の注意を払っておりますが、万が一不適切な内容がございましたらご指摘いただけましたら幸いです。

いいなと思ったら応援しよう!

ドクターO 公益性も考え、私のnoteでの記事は、一部を除いて無料公開しております。 活動の原資は皆様からのご厚意・サポートとなりますので、応援しても良いよ、とお感じになられた方はよろしければサポートをお願いいたします!!