【小説・ヴィーナス症候群】[405]誕生日のショーに向けて
誕生日――。
浅草六区のショーパブ〈夢見座〉では、一人の踊り子が年を重ねようとしていた。
真城レナ、三十九歳。
若い頃はレビュー団の看板だった彼女も、今は浅草の片隅で静かに踊り続けている。
そのレナが誕生日ショーのために新しく誂えた衣装を、ダンスウェアメーカー《Confeito》が請け負った。
注文は「照明に負けない、一点もののレオタード」。
そしてその試着を担当する「トルソーさん」は、美恵が担当した。
生まれつき両腕のないヴィーナス児に多い職業として、アパレル産業で着用モデルを務める者を、人々は「トルソーさん」と呼ぶ。
吉祥寺から中央線で神田へ、そして銀座線に乗り換えて浅草へ。
午前中の〈夢見座〉は、観光客もいない。
照明だけが昼間の埃を切り裂き、舞台の上を光の粒が滑っていく。
「動いてみて」
客席の奥で、レナが腕を組んで見ていた。
美恵は、舞台の上でゆっくりと数ポーズを取る。
銀のスパンコールが反射して、足元に七色の光が散った。

「……悪くないわね」
レナは短く言った。
「私の誕生日の光に、負けてない」
その声には、年を重ねる人間だけが持つ落ち着いた余韻があった。
美恵は胸の奥が熱くなるのを感じながら、静かに一礼した。
照明が落ち、舞台が闇に沈む。
光の残像が、まだ肌の奥に残っている。
(いっそこのままスカウトしてくれないもんだっぺか)
外に出ると、浅草の空はまだ昼のままだった。
けれど、美恵の心の中では、もう夜が始まっていた。
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