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【小説・ヴィーナス症候群】(319)事故からの復帰

第1章 西川口の高校

埼玉・川口西高の朝。
ざわつく教室の一角で、生徒たちがひそひそと話していた。

「今日、史那ちゃん学校来るんでしょ?」
「交通事故で両足切断って……かわいそうだよね」
「弾いた男ってかなりクズだよね。週刊誌に出てた」(287
「何て声かければいいのか分からないよ……」

後ろの席の男子が腕を組んでぼそり。
「バカでうるせー女だけど……両足切断って、さすがにかわいそうだよな……」

その時、ガラッとドアが開いた。
車椅子に乗った史那が姿を現す。「おはよう!」

「史那……!」
教室が一気に湧き立つ。だが次の瞬間、スカートの裾から覗いた青緑の尾びれに、全員が絶句した。

「……え?」

史那はにっこり笑って言い放つ。
「私人魚になることにしたわ」

静寂を破ったのは、多国籍のクラスメートたちの声だった。

ベトナム人の女子が目を丸くして、片言で言う。
「人魚はベトナムにもいるだよね」

クルド系の男子は眉をひそめて低くつぶやいた。
「セイレーンだ。危ない女だ」

ネパール系の男子は両手を合わせて拝みながら叫ぶ。
「神様!?」

――川口西高はまた、日本でも有数の多国籍高校だった。

そこへ担任がやってきた。
「お、定平、来てたのか……え?」

史那がすかさず尾びれを揺らす。
「先生、人魚は校則違反ですか?」

担任は頭を抱えて呻いた。
「……どう突っ込んでいいか分からん……」

クラスの女子はヒソヒソ話す。
「史那、なんだかんだでメンタル強いよね……」

第2章 サイセイ義肢にて

サイセイ義肢のリハビリ室。
鏡の前で、定平史那は支柱付きの最新型義足を装着していた。骨盤のあたりに埋め込まれた筋電センサーが残存筋の信号を読み取り、人工の関節を動かす――仕組みは理屈の上では完璧だ。

だが、問題は重さとバランスだった。
「よっ……と」
一歩踏み出すだけで全身が大きく揺れ、次の瞬間ガシャンと松葉杖が床を叩く。

「……これじゃスポ根だわ」
尻もちをつきながら、史那はブツクサ文句を言う。

「苦しくったって〜♪ 悲しくったって〜♪」

理学療法士は思わず吹き出しそうになるのをこらえて、淡々と声をかける。
「はい、もう一回立って」

史那はむくれ顔で立ち上がり、汗を拭くこともできずに息をついた。

「……私、一生人魚で生きてくわ」

「アホか」

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#定平史那 #サイセイ義肢

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