【小説・ヴィーナス症候群】[309]女子会コインロッカー瞑想
生まれつき両腕のない女の子が一万人にひとりの割合で生まれるようになった「第2サリドマイド病」以降、社会は少しずつその事実に適応してきた。アパレルメーカーや義肢メーカーは「着用支援従事者」、通称「トルソーさん」という職業を制度化し、いまやファッション産業の一部を担っている。
ドレスブランド・Feliceに所属する「トルソーさん」武隈莉子、檜皮谷奈緒、夜久野由美の三人は特に仲がよかった。展示や撮影の合間、控室でのおしゃべりは、まるで毎日が女子会のようだ。
「やっぱり、モデルみたいなもんだから体型維持とか大事だよね」
奈緒がため息をまじえて言うと、由美が嬉しそうにうなずいた。
「近くで良いヨガ教室を見つけたの。瞑想すると本当にスッキリするんだよ」
「練馬だっけ?」莉子が尋ねる。
「そうそう」
「瞑想って……まさかコックリさんとか、そんなんじゃないでしょうね?」
莉子が茶化すと、由美は小さく笑った。
「違うってば。やってみればわかるよ。頭の中が空っぽになる感じ」
「世田谷にもそんな所あればいいのにね」奈緒が羨ましそうに言う。
そこで由美が少し声をひそめた。
「でもね、ひとつだけ不満があって……コインロッカーの100円が戻ってこないの」
「えっ、それって完全に返却式じゃないんだ?」奈緒が目を丸くする。
「うん。毎回取られる。チンケな小遣い稼ぎだよね」
三人は顔を見合わせて笑った。

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