【連載小説】ダッチン! ~日本の寄付を文化に変える男~ ≪6≫
6 足立広之の談
こんにちは、足立広之です。
遅れてスミマセン。
はい。……僕もホットコーヒーを。
ええ、兄は、僕の3つ上でした。
中学や高校では一緒にならない、3つ上です。兄が卒業して、その後に僕が入学の、入れ違いですね。
かつおですか? 憶えてます、憶えてます。
なつかしいなぁ。
かつおは、とにかく可愛かった……。
半年かな、……僕が世話をしたのは。
あの半年間、僕は、とても幸せでした。
初めて、かつおをあずかった日、僕は、その可愛らしさにメロメロでした。まだ子ウサギで、めっちゃ小さかった。
あいつは、ベッドのマットレスが珍しかったみたいで、ピョンピョン、ピョンピョン、ず〜っと跳ね回っていました。
跳ね心地が良かったんですかね? 楽しそうに跳ね回ってたんです。
兄からは、「直射日光にさらされ少し前までグッタリしてたから、ちょっとマメに、気に掛けてくれ」って言われたんですけど、そんな心配、いらないくらいに、かつおは元気でした。
ピョンピョン跳ねて、キョロキョロして。
ピョンピョン跳ねて、鼻をヒクヒクさせて。
またピョンピョン跳ねて、たまに大きくジャンプして。
も〜お、……めっちゃカワイイんです。
エサを、僕の手から食べたか?
……どうだったかなぁ。憶えてないなぁ。
そもそも僕が、そういうことをしなかった、かな。
兄の指示通りに、チモシーという草を欠かさないようにして、ペレットは朝と夜に、少しだけ与えました。
あと兄が、たまにならイイよと言ったので、時々、キャベツやリンゴもあげました。
ネットで調べてみると、ウサギの好物はリンゴって出てきて、でも、かつおが1番好きなのは、キャベツでした。
あいつは、口の周りをキャベツの水分でベッチャベチャにしながら、一心不乱になって食べるんですよ。
あの仕草は、たまんなかったなぁ。可愛かった……。
愛おしい、っていう意味。……僕は、かつおで知った気がします。
高校から自宅へ、僕は、一目散に帰宅するようになりました。そんなのは、後にも先にも、あの半年だけです。
家に帰ったら、まず、かつおをゲージから出しました。あの狭いゲージの中じゃ、なんか、かわいそうだなって思って。床やベッドの上で、ピョンピョン跳ねて、自由に遊ばせてやりたかった。
世話して1週間もしないうちに、かつおは、僕の顔を見るとゲージから出せと催促するようになったんです。僕が、バッグを置いたり着替えたりしてると、遅いと言わんばかりに、ゲージの中で、ちょっと暴れました。
まるで僕は、ゲージから出す係員ですよ。……ふっ、本当に。
あれは間違いなく、催促でした。アハハ、思い出したら笑えてきた。
……へぇ〜。手からエサを食べるのは、兄からだけ、ですかぁ。
僕も、やってみれば良かったなぁ。でも、もしかしたら僕の手からじゃ、食べなかったのかもしれないですね。
兄だけの特権かぁ~。
ちなみに兄は、実家では、一度もエサをあげてませんよ。全て、僕でした。
兄は、かつおを実家に連れてきて、それから半年の間、一度も実家に帰ってきませんでした。
やっと顔を見せたと思ったら、1泊もせずに、かつおを連れて、すぐに出て行きました。
僕に、「ありがとう」と、さすがにその一言は、ありました。
「部屋を借りたんだ」とも言ってて、ちょっと嬉しそうに、ニヤッとしたんだ……。
そして、そのとき僕は、少し拗ねたんです。
兄は、僕の気持ちに気づいていなかったから……。
僕が、かつおにメロメロになっていたことも、突然かつおと別れることになって、激しく落ち込んいることも、なんにも気づいていない。
1ミリも気づいてないんです。
かつおのことは気にしても、僕のことは気にしてくれないのか。
……。
いや、違うな。それで面白くなかったワケじゃなくって……。
うん、そうだ。
……たぶん、あのとき僕は、かつおを奪われたくなかったんだ。
だから、「ありがとう」の一言じゃ、ぜんぜん足りなくて……。
少なくても、もっと、かつおのことを兄と話したかった。
そうか、広之も、かつおにメロメロかぁ~とか、ああいうときとかこいうときとか、メッチャ可愛いよな、とか。
でもゴメンな、かつおは連れてくけど、会いたくなったら連絡くれとか、せめてそんな会話が欲しかった。
かつおと別れる辛さを、少しは想像して欲しかったんだと思います。
そういう兄の配慮不足というか、マイペース過ぎるところを、姉はいつも叱ってたんですが、僕は初めて共感しました。
それまで僕は、逆に、そういう兄の天然さって、オモシロイなぁって思ってたんです。兄に悪気なんて100%無いことも知ってましたし。
ユニークな一面だなって、肯定的に捉えていました。
兄が、家族や兄弟に無礼を行なうときって、完全に天然なんですよ。無礼と思ってないんです。悪気ゼロ。家族だから許されると信じ切ってるんです。
それに、姉はイラっとして、僕はニヤッとする。
でも、あの時はじめて、姉の苛立ちが理解できたんだ。そうか、こういう気持ちになる人がいるから気をつけなさいって、姉は、そう言い続けてたのかって……。
かつおがいなくなって、だいぶ月日が経ってからですけど、なんとか僕は、あの時の兄のド天然を思い出して、ニヤニヤできるまでに回復しました。
結局僕は、兄の、他人の目を一切気にしない生き方が好きなんです。憧れてます。
気にしないように努力するのではなく、素で気にしない。そこに憧れます。
僕には、絶対にできない生き方ですから。
カッコイイ生き方だなぁって、憧れちゃうんですよ。
憧れつつ、僕には無理な生き方なんだよなぁ~、って思っちゃうんです。
幼い頃から、僕にとって兄は、ヒーローでした。
運動神経バツグンで、リーダーシップがあって、年下の僕らに優しくて。
それでいて、上級生や大人を怖がらない。
僕の同級生からも、かなり人気がありました。
他人や常識や、周りの目を気にしない生き方って、僕には絶対に出来ません。そんな生き方って、普通、できないですよね。
でも、兄はやっちゃう。
僕も、ムリヤリ真似すれば、できなくはないだろうけど、それはムリしてるワケで、兄のそれとはぜんぜん違う。
兄は、自然に、やっちゃってますから。
だから本当の意味では、僕は、真似さえできない。
無いものねだり、ですね。
僕にはできないから、どうしても憧れちゃう。
1番、影響を受けたのは、音楽ですね。
高校生の時、兄のライブを観に行きました。友達も誘って、名古屋まで観に行ったんです。
ステージの上で歌う兄は、めちゃくちゃカッコイイし、友達も絶賛するし、僕は、鼻高々でした。
ラップミュージックです。
ラップバトルではなく、ミュージックです。
影響を受けましたねぇ。兄が家に置いてったシャツやパンツは、僕には宝物で、New Eraのキャップなんかは、超ヘビロテしましたよ。
兄のファッションセンスは最高でしたね。
その自慢の、お下がりファッションで、兄のライブ会場にも行きました。
ちなみに、そのライブ会場で紹介される兄の友達って、ほぼ全員、怖いんです。見た目がメッチャ怖くて……。
でも、兄が紹介してくれると、「おお、雅樹の弟か! よろしくな!」とか、「楽しんでいけよ」って、メチャクチャ優しいんです。ドリンクも、いろんな人から奢ってもらったなぁ。
キレイなお姉さんが何人もいて、雅樹の弟とその友達って分かると、めっちゃフレンドリーになって、ボディタッチが多くなるんです。
「まるで竜宮城みたいだな」って、友達と一緒に鼻の下を伸ばしてました。
「春日井に戻ったらジジイになるかも」とか「絶対にお土産とか、箱とか、そういうのは貰っちゃアカンで」とか言って、大笑いしたんだ。
兄はラップで、頂点まで行くと思っていました。
才能があったと、今でも僕は、そう思っています。
音楽業界には「ファンは実力でできるが、ヒットするには運も必要」って、そういう感じの言葉があるみたいで、兄には、その運が無かったのかな。
あるいは、その運がめぐってくる前に、兄は音楽を辞めた、……かな。
それほど、兄のラップは最高でしたよ。
実家での兄、……ですか? 高校までの兄ってことですね。
実家には、当たり前ですが、父がいます。
その父が重要なんです。
父は、ものすごく怖かった……。
滅多に怒ることなんてないのに、圧倒的な迫力があって、口答えするなんて有り得ない。そんな気持ちにすらならない。
母も姉も、もちろん兄だって、父には一切、逆らったりしません。
でも兄の、根本的な性格は、権力に屈したくないタイプというか、権力に反抗したくなるタイプです。
革命家というか、上手く言えませんけど従うタイプの真逆です。
自由でありたい、かな?
失敗してもイイから、自分で考え自分で決めたい、って感じかな?
尾崎豊の影響だったのかなぁ。
兄は、尾崎豊にメッチャ嵌まっていまた時期があって……。
あ、違うなぁ。兄の反抗は、単なる反抗期だったのかも。
たまたま、その反抗期に尾崎豊を聞いたもんだから、思いっきり共感したんだと思います。
例えば、兄が大好きな『シェリー』は、夢と現実の間でもがく様が熱唱されてますよね。
多くの人から求められることを渇望し、しかし同時に、相反する深い孤独を受け入れる。矛盾が、哀しくシャウトされる……。
たぶん兄も、理想と現実の間で、もがいていたんですよ。
賞賛を求めつつ孤独を許容し、もがき、足掻くしかなかった。
兄の歌う尾崎豊は、切なさがリアル過ぎるほどリアルでした。
昔ばなしをしているせいか、思い出したことがあります。
僕の友だちが、「ヒロの兄貴って、北斗の拳の雲のジュウザに似てるよね」って言ったことがあったんですよ。
でも僕は、『北斗の拳』を読んだことがなくて、その友達からコミックを借りて、一気に読んでみたんです。
確かに、兄は、雲のジュウザにソックリでした。
顔が似てるんじゃなくって、自由を愛するキャラがソックリだったんです。モテるところとか、ちょっと淋しい影があるところとかも。
兄は、ジュウザと同じで、命令されるのが大っ嫌いなんです。
だから兄は、誰にも命令なんてしません。
家でも会社でも、命令って、きっとしたことないんじゃないかな……。
しかし、父は、良くも悪くも昭和の人間でした。
昭和を代表するような、強烈なカリスマ性を持ったワンマン社長です。呼吸するように、ごく自然に、命令を下します。
そんな父からすると、兄の望む【自由】なんて、単なるワガママなんです。
今では父も、孫に囲まれて、好々爺っていうんですかね。すっかり孫の前では、角だけじゃなく、爪も牙も無くなってますけど……。
僕は次男なので、何をすれば父が不機嫌になるのか、何をすれば怒られるのか、そういったことを目の前で学びました。
たいていの失敗は、兄が先にやらかしてくれたんです。
何をすれば、親が学校に呼ばれるのか。どんな時に母が泣くのか。そんなことも、兄のおかげで良く知っています。
兄のおかげで、僕は自然と、怒られない術をマスターしたんです。
僕は、家族からも、そして友達からも、「ヒロって、いつも冷静だよね」って言われます。「クールだよね」とかも、よく言われます。
なんってことはありません。物心ついたときには、ヤンチャして母や姉に怒られる兄を見てたんです。
自由な中学生の兄を見て、自由過ぎる高校生の兄を見て、そうして僕は育ったんです。
冷静にだってなっちゃいますよ。
子供の頃は言語化できなかったけど、あの頃すでに僕は、自由に生きるには自由に振舞ってはダメなんだと、そんなふうに感じてました。
自由に振舞うと、かえって不自由になるんだなって、そう思ってたんです。
逆らうことなく、目立つような言動を避け、その方が結果的には、自由に近づく。
そう思ってました。
自由と言えば、実は、父も自由人ですよ。
二代目社長ですから、自由奔放というワケにはいかなかったと思うけど、でも僕は父から、「自由人」の雰囲気を感じてます。
兄とは違うタイプの「自由人」です。
なんっていうか……、極端な言い方をすれば、父の「自由」は、「俺一人でも構わない」という感じの自由です。
むしろ、一人であることを望んでいるかのような自由です。仲間を、さほど欲しがってはいません。
兄は、明るく楽しい自由人です。
「オレのこの考え、面白くない? 面白いって思う人、一緒にやろうよ!」って感じの自由人です。
常に、仲間がいる感じです。
仲間を大切にする自由人、って感じで、もっと言うと「 自分ひとりで自由になっても意味ない」って、そう思ってるような感じです。
わかります?
なら良かった。
兄がそんなだからか、兄の同級生や音楽仲間も、みんな優しかったんですよね。
ああ。……優しいといえば、兄からあずかった、かつおも優しかった。
そう、かつおです。
かつおって、優しいんですよ。
たった半年だったけど、僕、かつおに、かなり癒やされましたから。
かつおと一緒にいると、なんか、かつおが、「広之は広之でイイんだよ」って、そう言っているように感じるんです。
僕は僕らしく、僕のままでイイ。
自分を、誰かと比べる必要なんて、ないんじゃないか。
僕は、ナンバーワンを目指したりしないし、熱く燃えるタイプではないけど、でも、だからこそ掴める幸せって、ありそうだし……。
オンリーワンなら、僕は、すでにオンリーワンだ。
僕は僕だ。
そう思えたのは、かつおがいたからなんです。
彼女と別れて、その彼女が男と2人で歩いているのを目撃して、高校生の僕はメチャクチャ凹みました。
高校生の僕は、恋は一度と信じてたんです。
そのとき、かつおは、僕にくっついて離れないんですよ。いつもなら部屋中を跳ね回って遊ぶのに。
ときどき、かつおと目が合って。
かつおが、
「広之は広之さ」「それでいいのさ」
って、言ってるみたいに感じて……。
「なに、相田みつをみたいなこと言ってんだよ」
って、思わず声に出たんです。するとね……。
これ、誰も信じないんだよなぁ。
友達も家族も、誰も信じないんですけど、僕には聞こえたんです。
「ウサギだもの」
って、かつおが言ったんですよ。
その顔です……。
このことを言うと、みんな、今の岡さんみたいな顔になるんです。
僕の脳内での、……創作だったのかなぁ。
ホント、聞こえたんですけどねぇ。
7 に続く
PS.
この記事は、小説です。
連載します。週1の投稿を目標とします。
でも、ときどき隔週になるかもしれません。ご容赦くださいませ。
おそらく、21話前後となります。
1話から読みたい方はコチラからどうぞ ↓
雅樹さん ⇓ が主人公の物語です。
雅樹さんに、Zoomインタビューを行ないました。
それを元に書いています。
あと、
雅樹さんのnote記事も参考にしました。
雅樹さんのkindle本も参考にしました。
ゆえに、雅樹さんのことはほぼ実話です。
それ以外の登場人物についての描写は、
インタビュー、note記事、kindle本、などの実話を元にして
僕が創作したものです。フィクションです。
登場人物には、一部、架空の人物もいます。
物語の案内役である小野寺未唯みいは、
ミイコさん ⇓ がモデルです。
モデルと言っても、描写は僕の創作です。
『かつおクラブ』はコチラです。
『宇宙兄弟』寄贈プロジェクトはコチラです。
このように、noteにはリンクも貼ります。
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テイルズはこちらです。
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