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地テシ:472 「明朝体」展に行ってきました

 この夏に劇団☆新感線がお送りする「アケチコ!」東京公演の一般発売が開始されましたよ!

 宮野真守さんや神山智洋さんなどの多彩なゲストをお迎えしてお送りする怪奇骨董音楽劇。ネタもののオポンチな感じもありながらアングラな空気も纏った不思議な作品になりそうです。久しぶりの生バンドも従えた布陣でぶちかましますよ!


 さて、以前に印刷大手の凸版印刷(現TOPPANホールディングス)さんが開いた、印刷に関する博物館である「印刷博物館」に行った話は書きましたよね。

 同様に印刷大手の大日本印刷(略称DNP)さんも印刷に関する博物館を開いておりまして、それが「市谷の杜 本と活字館」なのです。2020年に開館したばかりの新しい博物館ですが、一度行ってみたかったんですよね。

 その本と活字館で現在「明朝体」展が開かれていると知り、多少なりともグラフィックデザインに携わっている者としては行かなければならないような気がしちゃったんですよ。で、行ったんですよという話を書きますよ。

 この博物館は大日本印刷さんの敷地内にありまして、周りもちょっとした緑地になっています。台地の上なのにちょっと凹んだ不思議な場所にありまして、おそらく川跡だと思われます。

ちょっと凹んでいるから渡り廊下のような通路もあります
その渡り廊下の上から「本と活字館」の全体図を。時計塔がシンボルです

 こちらの建物は大正15年(1926年ですから丁度100年前!)に建てられて平成28年まで90年に渡って営業所として使用されてきました。資料館として保存されることが決まってから、長年に渡って改装されてきた壁や天井を剥がしてみると創建当時の意匠が出てきたのでそれを補修した、というのは、以前に山形旅日記で書いた「旧山形県庁を山形県郷土館(文翔館)にする時に創建当時の意匠が出てきたのでそれを補修した」というのと同じですね。
 しかも営業所として使い続けているうちに三階建てになったりしていたのも修復され、さらに一時的に曳家(ひきや。建物をまるごと移動させること)までして保存したってんですから相当に気合いが入っています。その辺りの経緯は公式HPの「本と活字館について」から「建物の復元」のページを見て頂くとよく判ります。

 では館内に入ってみましょう。まずは二階の展示室から。

エントランスからしてオシャレ。もちろん復元だとは思うのですが端正ですよね
階段のこの感じがレトロで美しい

 現在開かれている企画展は「明朝体」展。明朝体ってのは書体ですよ。ゴシック体とかポップ体とか色々あるじゃないですか。その代表的な書体が明朝体。特徴としましては直線的で、横線が細く縦線が太い。そして横線の右端に三角形のウロコが付きます。書籍や新聞の本文によく使われるので、日常的に一番よく見る書体かもしれません。

こちらが展示室の入口。ちなみに展示室はかなり狭いです

 字形が正方形になるので活字として使いやすく、活字印刷が始まった頃から中心的存在になりました。それがいまだに続いているので印刷物のほとんどは明朝体になるというワケです。ですので、エディトリアルデザインがデジタルに移った現代でもフォントメーカーは明朝体を大事にしているのです。
 そんな明朝体活字の歴史について、西洋印刷が日本に伝わった明治初頭から現代に至るまでの年表にして壁一面、いや二面に渡って展示されています。

奥で折り曲がってもう一面あります。長っ!

 活版印刷の頃から写植、そしてDTPへと至る変遷の中での明朝体の歴史が事細かに描かれています。活版・写植・DTPの意味が判らない方は、そういうのがあるんだなという認識で大丈夫です。ですが、このように印刷技法が変化していく中でも明朝体という書体は中心となり、様々な書体が作られてきたというのが重要なのです。
 中でも明治時代にデザインされた「築地体」「秀英体」はその後の明朝体のデザインに大きな影響を与えた書体ですので詳しく解説されていました。

共通で使われている「体」の形を見れば違いが分かりやすい

 何しろ秀英体は大日本印刷の前身である秀英舎が作った書体ですからね、そりゃ推したくなるでしょうよ。

 ひとくちに明朝体といっても様々なデザインがあります。線の太さや曲線の膨らみ方、バランスや重さが異なり、それぞれの特徴があるのです。本文用か見出し用か、縦組み用か横組み用か、カチッとしているのかユルッとしているのか。それぞれの用途に合わせて書体を選ぶことができるのです。
 そんな様々な書体を体感するために明朝体パズルも用意されていました。パッと見は同じに見える明朝体も微妙に異なるので、同じ書体でないとピッタリとハマりません。これが難しくてねえ。

黒ベースの字体に白い枠をハメるんだけど、字体が違うとハマりません
展示台がDNPの物流パレットだってのも良いよね

 そんなこんなの明朝体展。狭いエリアではありましたが明朝体について色々と学ぶことができました。


 二階には展示室以外にも様々な特殊な印刷機が展示されており、またそれらを使用する色んなワークショップも開催されているようです。事前予約が必要なものもあるようですが、名刺や栞を作ったり製本したりといった体験ができます。
 また物販も充実していて、書籍や資料だけでなく、可愛いピンバッチや栞などもあります。そして数多くのキッチュな千代紙なども販売されていて、クラフト好きな方にはたまらないであろうモノがいっぱいありましたよ。

物販コーナー。棚の壁に見本が展示してある千代紙が可愛いのよ!

 では一階に下りてみましょう。一階では金属活字を使用した活版印刷が学べるようになっています。金属活字? ええ、かつての印刷では、3cm程の細い金属棒に一文字ずつ文字が左右反転で凸彫りされており、それを並べることで版を作っていたのです。

これが金属活字を集めた版。文字が左右反転しているのが判りますでしょうか
版を作る作業台の再現。ここで活字を並べて版を作ります
母型から様々なサイズの金属活字を彫り出す活字パントグラフの実物

 印刷所の壁にはそれらの金属活字が何万個と用意されており、一文字ずつ拾っては並べていたのです。その作業を文選というのですが、巨大な透明タッチパネルを使用して文選を体験できる展示もありました。
 宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」にも、冒頭でジョバンニが活版処で文字拾いのバイトをする様子が描かれていますよね。膨大な金属活字の中から必要な文字を的確に拾っていくのはそれはそれは大変な作業なのです。

文選のエリア。右側の巨大透明ディスプレイで文選体験ができます


 いや、こういった様々な展示も面白いし勉強になるのですが、何しろ建物がいい。無骨ながら美しく、天井の高いゆとりのある空間が広がっています。実際に使われていた作業棚や作業机が展示に利用されているのも嬉しいところ。まあとにかくオシャレで綺麗なんですよ。また、係員の皆さんも丁寧で心配りが行き届いています。
 館内では実際に活版印刷による作業が行われており、それを見るコトもできます。コンセプト通りの「リアルファクトリー」として楽しめるのです。
 活版印刷というとなにやら堅苦しくて難しそうな印象がありますが、それらをオシャレで綺麗な展示を通して学ぶことができるのです。実際に来場者の殆どが女性でしたので、クラフト女子にはお勧めできる博物館だと思います。入場も展示も無料で見られますよ!

質実剛健な館内。窓から見える中庭の緑も美しい
活版印刷の工場エリア。左手前に見えるのは実稼働する印刷機
トイレなどの案内板も金属活字風のデザインなのがオシャレ
そしてベンチまでもが金属活字風
中庭のDNPのロゴまでもが左右反転しているのが粋ですね
右側のアクリルキューブを中央に置くと画像で解説してくれるのもクール


 「明朝体」展は5/31(日)までですが、常設展や建物を見に行くだけでも価値があると思います。先日の「アケチコ!」製作発表が行われた代官山鳳鳴館では大正ロマン風に作られた新築建物で「新しいのに古い」という体験をしましたが、この「本と活字館」では大正15年に建てられた建築を復元した「古いのに新しい」という体験ができました。
 「市谷の杜 本と活字館」はJRと東京メトロ南北線・有楽町線と都営新宿線の市ヶ谷駅から北へ10分ほど歩いた台地の上にあります。ただ、途中では左内坂という長くてキツイ坂を登らなくてはならないので、登るのが面倒な方は都営大江戸線の牛込神楽坂駅か牛込柳町駅から向かった方が良いかもしれません。
 ただ、周りにはオフィスや民家以外は何も無いけれどもさ。ちなみに市ヶ谷のこの辺りには「納戸町」とか「二十騎町」とか「市谷鷹匠町」などの江戸時代から続く変わった町名がたくさんありますので、ブラッと散策してみるのも楽しいモノですよ。アップダウンが激しいけれどもな!

外壁には謎の階段が。かつてはこの左側にも建物が続いていた様なのでその名残かも

 あとさ、今回のネタを書いていてふと思ったんだけど、「本と活字館」の「本と」の部分って「フォント」と懸かっているのかな? そんなこたぁねえか…。