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掌編小説|ナンのはなしですか②(Amaz∞n)

リュック=サックの中には安心が入っている。
安心とは、つまりナンだ。
俺は給料日のまでの糧食の心配がなくなった。
しかも、ナンにディップするカレーも家に帰ればある。
そう思いながら俺は電車の中でナンを千切っては、こそこそと食べた。
なにしろ昨日の昼から何も食べていなかったのだ。

昨日、どうせ最期の食事だと思って普段は絶対に食べない海鮮丼を食べた。
三千五百円だった。
三千五百円稼ぐには三時間かかる。いや。俺は北海道最低時給千七十五円だから正確には三時間十六分だ。
朝八時から昼十二時まで働いて、昼休みにその金で海鮮丼を食べた。すると八百円残った。午後からまた別のところで四時間働いたら五千百円になった。帰りにコンビニでガス代を払うと、丁度千円残った。
丁度千円、という金額に魔力が宿っているような気がした。
だから俺は今日パチンコに行ったのだ。
まあ、一瞬で負けたけど。
ところで、そのパチンコ台に吸い込まれたお金はどこにいくのだろうか。一種のダストシュートのように俺の家の郵便受けに繋がっていればいいのに、と妄想した。
そんな期待を込めて俺は集合ポストの202号室のところを開けた。
何も書かれていない封筒がぽつんと入っていた。
それは封をされておらず、フタも折り返されていなかった。
指で封筒の両脇を挟み、ぱかりと開けて中を覗くとカードが一枚入っていた。それを出してみると、はたしてAmazonギフトカードだった。
金額は∞円と印字されていた。
部屋に戻ると、いつものようにカーテンはなくて、スーツ上下がその代りみたいにぶら下がっていた。
オシャレのつもりで買ったアンティークの小さなちゃぶ台が部屋の真ん中にぽつんと佇み、貧乏を強調した。所謂汚部屋系の貧乏の方が、モノがある分だけ心が豊かな気がした。
その小さなちゃぶ台の前に座り、スマート=フォンのAmazonアプリを開いた。
窓の外から差し込む街灯の明かりよりも、スマート=フォンが発する光の方が勝った。
独り暮らし用の2ドア冷蔵庫が唸った。
貧乏の家にしか湧かない特殊な虫(※)が、巾木と床の隙間を出入りした。

俺はリュック=サックからコンビニ袋を出して、中に入っているナンを取り出した。
そして、それを千切りながら食べつつ、ギフト券の番号面をスキャンした。

つづく

※初めて貧乏虫を見たときはどこにでも居る虫だと思っていた。ある日、俺はソイツのことが妙に気になり、Googleレンズで撮影してみると、貧乏の家にしか湧かない虫だと表示された。それからソイツを見る度に潰すようにしていたが、次第に湧く速さの方が勝って来て、しばらく前から俺は潰すのを諦めている。



#なんのはなしですか
#ナンのはなしでした

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