掌編小説|ナンのはなしですか①(細長くて平べったい物体)
二〇二六年六月三十日。
地上五メートルの位置に細長くて平べったい物体がたくさん浮いていた。
札幌駅南口にある白いモニュメントの近くの扉から外に出て、そこから駅前のパチンコ屋に行く途中で俺はそれを見た。
見える範囲のはなしで申し訳ないが、それは百個あった。
だが、誰もそれを気にしている様子はなかった。
地上五メートルというのは、誰にも気づかれない高さなのだろうか? いや。そんなことはないと思う。
前を歩いている細い顔で、細い胴体の大学生は下を向いている。彼の目には細長い影が時々視界に入っているはずだ。しかも時々頭が日陰になっている。
それは無印良品の袋を持ったおばさんにも、一か月前に金髪にした若い女にも、電設会社の作業服の男にも同じことが言えた。
虚飾に塗れたパチンコ屋の自動ドアが滑らかに開いた。
思わずズボンの上から財布を触った。
俺はこの千円を十万円にする予定だ。
給料日は、二〇二六年七月十日だった。
残り十日で千円では暮らせないことは、俺でも簡単にわかることだった。
最後にパチンコをしたのは二十年前だった。
台の選び方なんて知らない。適当に座った。
幸い、千円札を入れるところは相変わらず存在していた。
そこに千円札の先っぽを触れさせただけで、それはすぐに吸い飲まれた。
俺は言葉では言い表せない気持ちになった。
だが言葉にしてみるとそれは案外簡単で、所持金が0円になったということだった。
ちゃらら……、とパチンコ玉が予想の半分くらい出た。
ハンドルを回すと、とんでもない剛力で一番向こう側までパチンコ玉がすっ飛んだ。
その状態がしばらく続いた。
ハンドルの回し具合で剛力から適力になることに気づいたときには、既にハンドルの手応えはなかった。
店を出ると、細長くて平べったいそれが地上一メートルの位置に降りていた。全て。
俺はそのひとつを掴んだ。
ほっかほかだった。
黒い焼き目が所々付いていた。
俺はこれを食べたことがある、と思った。
手で千切って、食べた。
やはりそれだった。
家の台所のシンク下収納にレトルトカレーがあることを思い出した。
俺はそれを取れる限り取って、リュック=サックからコンビニ袋を取り出し、そこに全て突っ込み、リュック=サックに収納した。
俺の他にそれを取る人間はおらず、それが見えるのは俺だけのようだった。
俺は今まで世間一般の人間と同じ空間でせいかつしているつもりでいたが、全く違うところにいることに気がついた。
#ナンのはなしでした
(終わり)(つづく)
#なんのはなしですか
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