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“何もしない”って言ったのに、触れてきたくせに

【“信じてた”なんて言えないくせに】

「何もしないから」

って言われたとき、ほんの少しだけ、安心した。

それでも、ほんとはわかってた。
“何もしない”なんて言葉を信じたくて、信じたフリをしてた。

その夜は、雨が降りそうで降らなかった。
湿った空気の中で、彼の手が一瞬だけ私の肘に触れた。

偶然を装った指先。
わたしはその感触を、忘れようとした。

「寒くない?」

そう聞かれたときにはもう、
わたしの心は、半分くらい傾いてた。


【優しさが欲しかったわけじゃない】

ホテルの鍵を受け取る彼の手元を、盗み見るように見てた。

わたしはただ、そこにいる“意味”が欲しかった。
特別になりたいわけじゃない。
ただ、いないことにされたくなかった。

部屋に入っても、すぐには何も起きなかった。

彼はコートを脱いで、ベッドじゃなくて、壁にもたれて座った。

「テレビつけていい?」

そんな他愛ないやりとりが、やけに愛しかった。

何もしないって言ってたくせに、
私の指に触れたとき、彼の目はちゃんと欲しがってた。

でも、それが嬉しかった。

わたしの中の“女の部分”が、
彼の目に映ってるのを感じた。

それだけで、ちょっと報われた気がした。


【期待しないふりをしてたけど──】

彼が手を伸ばしてきたとき、
わたしはほんの少し、脚を組み替えた。

誘うように、って思われてもよかった。
むしろ、そう思ってほしかったのかもしれない。

「触れても、いい?」

その問いかけがあっただけで、
わたしの中の“いい女でいたい自分”が崩れた。

ほんとは、触れられたくて仕方なかったくせに。

触れられた瞬間に、
「それでもよかった」って思ってしまった自分が、
今でも、少しだけ恥ずかしい。


【わたしが自分から、ほどけていく夜】

求められたことが、嬉しくて。
でも、優しくされるほど、
自分の価値がどんどん軽くなっていく気がした。

それでも、身体の奥はちゃんと熱くなってた。
わたしは、“わたし”を抱かせるためにそこにいたのかもしれない——。

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“何もしない”って、どこまでが“しない”なの?

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