#07「4+9」が解けない
♦ 奪われた「当たり前」への絶望
♦ あまりにも残酷な「現実」の再確認
検査の嵐。CT、血液検査、心電図……。

移動は常に車いす。トイレに行くことさえ、看護師さんの付き添いなしでは許されない。自由を奪われたこと以上に辛かったのは、視界に入る世界が変貌してしまったことだった。
意識を保とうとしても、頭の中は常にフワフワと浮いているような激しいふらつきに襲われる。見上げる天井は「グワングワン」と歪んで回転し、正気を保つのに必死だった。かつて当たり前にこなしていた「歩く」「座る」「見る」という行為が、途方もなく遠い贅沢に感じられた。
検査の合間、息子が100円ショップで買ってきてくれたドリルを手に取った。計算ドリルと、美文字練習帳。リハビリのつもりで、軽い気持ちでペンを握った。
だが、現実は想像を絶するほど残酷だった。
検査の合間、息子が100円ショップで買ってきてくれたドリルを手に取った。計算ドリルと、美文字練習帳。リハビリのつもりで、軽い気持ちでペンを握った。
まず、文字が書けない。
必死に動かそうとするペン先は、意に反して「鏡文字」を綴っていく。
脳が指令を出しているはずなのに、出力される形が根本から狂っている。

指を使ってやっと数が数えられる
追い打ちをかけたのは、一桁の計算だった。
「3+5」は何とかクリアできる。
しかし、「4+9」という、たった一つの繰り上がりがどうしても解けない。指を一本ずつ折って数えなければ、答えに辿り着けない。
その事実を突きつけられた瞬間、私は本当の意味で、自分の身に起きたことの重大さを理解し、深い絶望の淵に立たされた。
つづく
