「チロのゆっくりの春」詩―#風まかせ文芸部#途中
老犬のチロ
茶色だった顔は
すっかり 白毛に
変わってしまった
テラスのひなたで
幸せそうに ひたすら 終日眠る
小さないびきが
部屋まで 聞こえてきて
家人の 口元もふわりと 緩む
元気が 有り余っていたころは
子どもと 散歩すると
「ヨーイーー ドーーン」の
かけ声の下で 一直線に走る
長い耳が リボンのように 後ろに流れる
とても 小さな子は 追いつけず
べそをかく
―ねぇ チロ
よーいドン しようか??
ちょっと 頭を上げて
こちらを見て
また まぶたを閉じる
まるで 春の夢と
競争するかのようだ
でも 唯一 起き上がり
外出したがる 言葉がある
―チロ お参り行くよ・・
「お参り」の言葉を聞くと
むくっと 起き上がり
大きく 伸びをして
「ワン ワン」と
嬉しそうに 吠える
久しぶりに 赤い首輪つけて外出
尻尾を ユルユル振りながら
そろそろと ついてくる
チロの 子供のお墓は
川沿いの 古いお寺の中にある
でも チロの歩みは
途中で 止まってしまう
―ほら もう少しだよ
頑張って 行こうよ
悲しそうな つぶらな瞳で
飼い主の顔を 見上げたまま
道の 真ん中に 座り込んでしまう
―まだ お参りの途中だよ
いつも 最後は
飼い主の腕に 抱かれて
お墓詣りは つづく
―チロ いつも 途中までしか
歩けなくなって 寂しいねぇ
チロの耳元に 春風と一緒に
話しかけると
飼い主の頬を ざらりとした
愛しい舌で
何度も 舐めてくれる
犬との 心の言葉の やり取りは
お墓に着くまで 続く
墓の横に咲く菜の花が 揺れて
一人と一匹を 歓迎してくれる
―チロ 途中で諦めなくて
よかったねぇ。。
菜の花の黄色が
二人の影を 染めていた
iさん企画の「風任せ文芸部」「途中」の
企画に 参加させて いただきます
iさんどうぞよろしくお願いします
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