幸福な王子
むかし、ある街の広場に「幸福な王子」と呼ばれる美しい銅像が立っていました。
ある日旅のツバメが王子の肩に止まって一休みしていると、王子が話しかけてきました。
「ねえねえ、ツバメちゃん、この街ってどんなかんじ?」
「うーん、ざっくり言うと不幸そうよ。あそこに貧乏で可哀想な子が見えるわ」
「え!助けてあげたい…。でも、あの子だけ助けてもなあ。今回は見送るわ」
「あー、あっちにも病気がなかなか治らない、気の毒な奥さんが…」
「ええ!じゃあ僕のこの宝石を…、いや、誰かを選ぶってことは誰かを選ばないことだし…」
「そうよね。あー!あっちに仕事が見つからなくて困ってるお年寄りが!」
「うわっ!助けたい…。でも、あの人だけを助けることは、あの人のためになるのかどうか。世界は平等であるべきだし、根本的な解決にはつながらない気がしてきた…」
王子は全パーツ揃ったまま、心の中だけでずっと憂いています。
「あんたって優しいのに、なんか大変ね」
その夜、ツバメは葉っぱのついた木の枝で、王子が寝ている間に体を拭いてあげました。翌朝、お日様に照らされた王子は見違えるほどピカピカになっていました。
見回りをしていた街の役人が、ふと王子に目を止めました。
「あれ?これ、この銅像、こんなにキラキラだったっけ?これ売ったら、そのお金で街のみんなを助けられるんじゃね?」
王子の売却は街の議会で可及的速やかに承認され、早速王子の撤去作業が始まりました。申し訳なく思ったツバメは王子に「マジごめーん、なんか、あたしのせいで」と謝りますが、王子はにっこり笑いました。
「僕を売ったお金は、赤ちゃんからおじいちゃんまで、平等に配られるんでしょ?大満足だよ」
一年後。ツバメが街に戻ってくると、誰かが話しかけてきます。
「おーい、ツバメちゃん、僕だよ」
「あら!あんた、王子?ビジュ変した?」
王子があった場所には、赤いランプがついた鉛のポールが建てられていました。ポールにはポストのような箱が付けられています。
「役人たちがさ、売れない鉛の部分を溶かして目安箱を作ったんだ。てっぺんのランプは警告灯。これからは街で困った人がいたら、ビカビカ光って知らせてやるんだ」
ツバメは箱に止まってランプを見上げると、ふふんと笑いました。
「へー。まあ、なんか、向いてそうでよかったじゃん」
「ツバメちゃん、この街はどんなかんじ?」
「そうねえ」
ツバメは高く飛んで一回りすると、戻ってきて言いました。
「ざっくり言うと、悪くなさそうよ、今はね」
(おしまい)
