婚活全敗男
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「ええー?断っちゃうんですか?山内夏美さん、すごく条件いいのに。次のステップに進みたいって、すぐ連絡が来たんですよ?」
結婚相談所の担当者は言葉を尽くすが、西田は頑として首を縦に振らない。
「学歴も職歴も申し分ないし、先方さんも太鼓判を押すお人柄だし。お顔だって、美人さんじゃないですか。正直、山内さん以上の女性はこの先出てこないかもしれませんよ?」
「はい、でも…。この人とは話が合わないと思います。良い方ですけど」
「うーん、もう一度だけ会ってみません?西田さんのこと、優しそうで話しやすいっておっしゃってるみたいですし」
西田は癖毛頭を振りながら、ため息をつく。
「優しそう、話しやすい…それってほんとに『僕』なんですかね?」
担当者は返事を濁すように笑う。西田は言葉を続けた。
「僕は、ありのままの僕を好きになってくれる人を探したい。それ以外の条件なんて、どうでもいいんです。山内さんはそういう女性には見えなかった」
「はあ、なるほど……。わかりました」
担当者は広げられた資料を机の上でトントンと整えると、口角をクイッと上げた。
「じゃあ、次の方、探してみましょうか」
♡♡♡♡♡
数日後、西田は婚活面談のために相談所を訪れていた。
「西田さん、今回もお断りなさるんですか?」
「ああ……、はい」
担当者はノートPCの画面を見た後、首を傾げながら西田に微笑みかける。
「お相手は西田さんのこと気に入られたみたいなんですが。お断りのご理由、お伺いできます?」
「気に入るって……。僕のどこを?」
「えー、優しそう。癒し系。誠実そう、とのことです」
西田はため息をつきながら首を横に振る。
「だめです、ぜんぜんわかってない。僕なんて優しくないし、癒さないし、不誠実だ。お付き合いが進んで本当の僕が見えたら、きっと僕を嫌いになる」
担当者はぐっと身を乗り出す。
「いや、西田さんは、ご自身で思われているより、お優しくて誠実なんですよ、きっと。セルフイメージより、他人から見た像の方が真実ってこともありますから」
西田は片眉を上げて担当者の目をじっと見る。
「本当にそう思ってます?今だって『こいつめんどくさいな』と思ってません?」
「な……!そんなこと思ってませんよ。ただ、ご自身の魅力をお分かりでないなら、もったいないなと思っただけで…」
西田はふん、と鼻で息をすると、膝の上で組んだ手に視線を落とし、力のない声で言う。
「僕はただ、納得できる理由が欲しいだけです。相手の女性が僕を気に入ってくれる理由が。『ああ、この人の前でなら——』って思えたら……」
担当者は目を細めると、少し優しい声で話す。
「お気持ちは分かります。ただ、相談所の場合、お会いしていくうちに気持ちが育っていくものですので。最初の段階ではもう少しだけ肩の力を抜いていただいて……」
「そんなこと言って、僕だけがどんどん相手のこと好きになっちゃって、女性の方が『やっぱり違った』って断ってきたら、どうするんですか!」
「うーん……、もしそうなれば、次の方をご紹介するかと思います……」
「ああ…!」
西田はガックリと頭を垂れた。
♡♡♡♡♡
西田はその後も何度かお見合いをしては、同じような理由で断っていた。相手の女性には気に入られるのだが、どうしても次のステップへ踏み出す気になれなかった。
最近は、担当者も前ほど親身に話を聞いてくれていないように見えた。
「あ、ですよね。先方のお気持ちが見えない……っと。じゃ、次の方いきましょうか」
担当者の説明を上の空で聞きながら、自分はそもそも結婚相談所というシステムが向いていないのかもしれない、と思い始めるのだった。
その日も西田はとあるホテルのラウンジでお見合いを済ませた。
初対面の女性と向かい合って座り、お茶をすすり、仕事、趣味、休日の話をして1時間程度で解散する。心がけている最低限の社交的マナーで対峙すれば、なぜか女性たちは自分を気に入る。
でもそこで見せているのは本当の自分ではない。
このまま会費を払って婚活を続ける意味はあるのだろうか。ラウンジの前で見合い相手を見送りながら、西田は暗い気持ちでいた。
ふと、西田は席にハンカチを忘れたことに気づいた。スタッフに声をかけ、さっき座っていた席に戻ろうとする。その時、背後の会話が耳に刺さった。
「わたし、あの海岸って絶対繋がってると思うんですよ、アスカとアスカが」
思わず声の方を見ると、見覚えのある女性が早口で相手の男性を捲し立てている——いや、よく見ると捲し立てているのではない。とても熱中して、楽しそうに話しているのだ。
「だから、海岸って、全シリーズで象徴だと思ってて、ポスターだってそうじゃないですか。あ、あれ一周すると繋がるって知ってました?」
男性は少し困ったように笑って話を聞いている。熱弁を振るう顔を見ているうちに、西田は彼女が誰なのかを思い出した。初めてのお見合い相手の山内夏美だ。何の話をしたか覚えていないが、押しが強すぎる印象で断りを入れた気がする。
「お客様?何かお困りですか?」
スタッフに声をかけられて我に返った西田は、急いでハンカチを取ると出口に向かって歩き出す。背後からは朗らかな夏美の声が聞こえていた。
「あの桜吹雪、シリーズの集大成に相応しくて最高でしたよね!」
西田はラウンジを出て少し歩くと、相談所に電話をかけた。担当者はすぐに電話に出た。
「西田さん、お疲れ様でした!本日のお見合いはいかがでしたか?」
「あ、お見合い…。いつもどおりでした、それよりも…」
「何かございましたか?」
西田は小さく息を吸い込むと、意を決したように言った。
「前にお見合いしてお断りした方と、もう一度お会いすることってできますか?」
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