【しくじり現場部長|現場DX実践録 #14】システムを買った。それでも、なぜ現場は楽ではないのか?
第1章 「仕方ない」で終わる現場を、私は何度も見てきた
「システムを入れれば、仕事は楽になる」。そう期待するのは当然である。入力が自動化され、情報が一元化され、担当者の負担も減る。導入前の説明資料には、そのような未来が描かれている。ところが、実際の現場では、システムを買った後も紙が残り、Excelが残り、口頭確認が残ることがある。画面へ入力した数字を別の表へ転記し、例外案件だけは手書きで管理し、分からない時は結局、特定の担当者へ電話する。システムは入った。けれど、現場は思ったほど楽にならない。
私は、国際ビジネス、物流、経営改善、Excel VBA、Access、動画制作など、異なるように見える仕事に関わってきた。しかし、私の中では一つの問いでつながっている。目の前の面倒を、仕組みで少しでも軽くできないか、という問いである。だからこそ私は、システムを作れば問題は解決する、と考えた時期があった。機能を追加し、入力欄を整え、集計や帳票を自動化すれば、現場は自然に動くと思っていた。
だが、ここで私は判断を誤った。作る側には、完成した機能が見える。一方、使う側には、入力の手間、覚える時間、例外処理、責任の増加が見える。私は「何ができるか」を説明していたが、現場は「今より本当に楽になるのか」を見ていたのである。便利な機能を増やした結果、入力項目まで増え、説明なしでは使いにくくなることもあった。正しい計算ができても、誰がいつ入力するかが決まっていなければ、情報は更新されない。私はそこで初めて、システムの完成と、現場の改善は別物だと痛感した。
介護現場のシフト作成を考えても分かりやすい。希望休、資格、夜勤回数、連続勤務、配置人数など、複数の条件を調整しなければならない。結果だけを出すシステムがあっても、なぜその結果になったのか、担当者も同じ基準で扱われているのかが見えなければ、不信は残る。現場が求めるのは、表を埋める機械だけではない。判断の根拠が見え、担当者へ責任が集中せず、納得できる運用まで含む仕組みなのである。
新しいシステムを入れる時、現場は旧い方法をすぐには捨てられない。新しい画面の数字が正しいかを確かめるため、しばらく紙やExcelも残す。障害が起きた時に備え、手作業の控えも作る。この安全策は合理的である。しかし、終了時期を決めなければ、仮の二重管理が恒久化する。導入側は「移行期間」と呼び、現場は毎日二つの仕事を続ける。この負担を見落とすと、システムへの不満は単なる変化への抵抗として処理されてしまう。

第2章 なぜ、システムを買っても人の仕事は減らないのか
同じ問題が何度も起きると、入力した人、確認を忘れた人、引継ぎが苦手な人の責任にされやすい。しかし、繰り返す問題を個人の注意力だけで説明してはいけない。なぜ同じ情報を二度入力するのか。なぜ最新版の資料が分からないのか。なぜ例外のたびに責任者へ確認するのか。そこまで掘ると、人の問題に見えたものが、業務設計の問題へ変わって見える。
第一の原因は、システム化の範囲が一部の作業だけに限られていることである。申請画面だけを電子化しても、その前に紙で情報を集め、後ろでExcelへ転記するなら、仕事全体は短くならない。むしろ入口が一つ増えただけになる。
第二は、初期設定やマスタ管理の負担が見落とされることである。商品、顧客、職員、権限、料金、帳票条件などを誰が登録し、誰が更新するのか。ここが曖昧なままでは、導入後に現場へ作業が押しつけられる。自動化の裏で、見えない手作業が増えるのである。
第三は、例外処理が設計されていないことである。通常案件は流れても、欠品、急な変更、入力間違い、締切後の修正、担当者不在が起きた瞬間に止まる。例外は少数に見えるが、現場の負担は例外時に最大になる。
第四は、判断基準が人の頭の中に残ることである。システムが情報を表示しても、最終判断の条件が文書化されていなければ、担当者は休めない。周囲も「なぜその判断なのか」を説明できず、属人化は残る。
第五は、導入後の変更責任が決まっていないことである。現場の業務は変わる。制度、取引先、帳票、担当者も変わる。その時、誰が要望を集め、誰が優先順位を決め、誰が改修し、誰が検証するのか。変更の窓口がなければ、現場は不便を我慢するか、紙とExcelで迂回する。こうして二重管理が生まれる。
現場が新しい仕組みに慎重になるのは、必ずしも保守的だからではない。入力を間違えた時に誰が責任を負うのか、障害時に仕事が止まらないか、覚える時間を確保できるかが分からないからである。作る側には改善案が見えるが、使う側には失敗の危険が見える。したがって、反対意見を説得で押さえるのではなく、何を恐れているのかを聞き、元へ戻れる手順と支援を先に示す必要がある。

第3章 仕組みを作ることと、人を助けることは同じではない
私はこれまで、Excel VBAで入力や集計を自動化し、Accessで情報を一元管理し、動画で複雑な内容を伝え、物流や貿易の工程を整理してきた。だからこそ、仕組みを作る側の達成感も分かる。ボタンが動き、帳票が出て、計算が合う。その瞬間、問題を解決したような気持ちになる。
しかし、作った仕組みが理解されなければ使われない。使われても負担が増えるなら続かない。誰のための仕組みか分からなければ、反発が起きる。成果が見えなければ、元のやり方へ戻る。つまり、仕組みの正しさだけでは、人は助からないのである。
本当の改善は、システムを導入した日ではなく、現場の行動が変わった時に始まる。毎月三時間かかっていた集計が三十分になった。転記ミスが減った。担当者が休んでも仕事が止まらなくなった。判断理由を説明できるようになった。このような小さな変化が確認できて、初めて導入は価値になる。
ここで私は、自分が何度も書いてきた言葉へ戻る。作っただけでは価値にならない。相手に理解され、使われ、実際に役立って初めて価値になる。システムも同じである。買った事実、完成した機能、導入した画面ではなく、現場の負担がどう変わったかで評価しなければならない。
ここから先では、既に導入したシステムを「人を助ける仕組み」へ変えるための具体的な手順と、改善を一度で終わらせない運用方法を整理する。
第4章 人を助ける仕組みを作るための五つの実務手順
第5章 小さな改善を、続く価値へ変えるために
次に読むなら
第10話「『便利そう』では、現場は動かない」
なぜ、読んだほうがいいのか:
第14話で整理した「導入後も仕事が減らない構造」を、使いやすさ、入力負担、説明コスト、変化への不安という利用者側の視点からさらに掘り下げられます。
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第11話「私は、「高額システム信仰」に疑問を持っていた」
第9話「私は、机上の理論より「現場」を重視する」
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