【しくじり現場部長 | 現場DX実践録 #4】 海外に売れた。でも、なぜ続かない?
第1章 「売れた」という喜びの後に、現場が止まる
「海外のバイヤーから注文が入った。」
海外展開を目指してきた企業にとって、これほど嬉しい知らせはない。展示会や商談会で商品を紹介し、試食やサンプル提供を重ね、ようやく海外から評価された。担当者も経営者も、「これで海外展開が始まる」と期待する。
しかし、国際ビジネスの現場では、受注した瞬間が成功ではない。むしろ、そこから本当の仕事が始まる。
商品名を英語でどう記載するのか。内容品の材質や用途は何か。重量は正確か。どのHSコードを使うのか。輸出先の規制に抵触しないか。食品であれば、製造施設や表示、成分、賞味期限、温度管理について確認が必要になる場合もある。
さらに、輸送方法を決めなければならない。航空便か船便か。国際郵便で送れる量なのか。破損や液漏れの恐れはないか。送料を商品価格へどう反映するのか。関税や現地税を誰が負担するのか。
ここで多くの企業が初めて気づく。
「商品を売る準備」と「商品を海外へ届け続ける準備」は、まったく別の仕事なのである。
私は、地域産品の国際ビジネスに長く関わる中で、商品そのものは高く評価されているのに、実務が整わず取引が止まる場面を多く目にしてきた。
初回の数箱なら、担当者が残業し、英語を調べ、書類を手入力し、何とか発送できる。しかし注文が十件、二十件と増えれば、その方法は続かない。
国際郵便では、物品を送る際に通関電子データを事前送信する必要があり、手書きラベルでは発送できない。住所、品名、価格、重量などをシステムへ正確に入力しなければならない。
一件ならできる。
しかし、毎日何十件も同じ情報を転記するとなれば、担当者は疲弊する。入力ミスが起き、発送が遅れ、問い合わせが増える。売上が増えるほど現場の負担も増えるという逆転が起きる。
私は、海外から注文が入ったという知らせを聞くと、喜びと同時に一つの疑問を持つ。
「二回目の注文にも、同じ品質と速度で対応できるだろうか。」
海外展開の成否は、最初に売れたかどうかではなく、売れた後を仕組みとして回せるかどうかで決まる。

第2章 なぜ企業は「売れた後」を準備しないのか
では、なぜ多くの企業は、売れた後の準備を後回しにするのだろうか。
私は、企業の努力不足だけが原因ではないと考えている。海外展開を取り巻く支援や情報の構造そのものが、「売ること」へ偏りやすいからである。
展示会への出展、商談会への参加、海外バイヤーとのマッチング、翻訳、商品PR。これらは成果が見えやすい。名刺交換数、商談件数、成約候補数という数字で報告できる。
一方、物流設計、規制確認、決済条件、継続供給、返品対応、通関データ作成といった仕事は目立たない。受注前には費用だけがかかる準備に見えやすく、後回しにされる。
また、制度は国や商品によって異なる。
米国(Registration Number)や中国(Single Window)向け食品では、加工施設等を含めて事前登録制度を設けている。また、米国においては対象となる製造・加工・包装・保管施設にFDAへの登録が必要となる場合がある。中国を含む各国でも、商品や取引形態によって事前登録、申告、表示、検査などの条件が異なる。
ここで重要なのは、「海外へ売るには一つの共通手続がある」と考えないことである。
送り先、商品、用途、数量、販売方法が変われば、必要な確認も変わる。インターネットで見つけた一般情報だけを信じて進めれば、出荷直前に条件不足が判明することもある。
さらに、中小零細企業では、海外営業、書類作成、梱包、発送、問い合わせ対応を一人が兼務している場合がある。
その担当者の経験と努力によって初回出荷を乗り切ると、会社は「海外発送ができるようになった」と判断する。しかし実態は、仕組みではなく一人の無理によって成立しているだけかもしれない。
注文が増えたとき、担当者が休んだとき、制度が変わったとき、その脆さが表面化する。
海外展開を阻むものは、英語力だけではない。
私は、次の三つの壁が重なっていると考える。
第一は、言語の壁である。住所、品名、材質、用途、取引条件を相手と制度の双方に通じる表現へ変える必要がある。
第二は、制度の壁である。通関、食品・化粧品などの規制、表示、登録、禁制品、税などを確認しなければならない。
第三は、通貨と採算の壁である。為替、国際送料、決済手数料、返品リスクを含めても利益が残る価格を設計する必要がある。
これらを別々に考えると、現場は何度も同じ情報を入力し、判断し直すことになる。
問題の本質は、海外展開の知識がまったくないことではない。
営業、物流、制度、決済、供給が、一つの業務フローとしてつながっていないことである。

第3章 私も「注文が増えれば売上が増える」と考えていた
海外から注文が増えれば、売上も増える。
理論上は、そのとおりである。
私自身も、海外展開を考えるとき、まず販路や受注機会に目が向きやすかった。売れる商品を見つけ、買い手とつながり、注文を取る。それが国際ビジネスの中心だと考えたくなる。
しかし、現場へ入ると、その考えだけでは足りないことが分かる。
売上が一件増えるたびに、住所、商品名、数量、価格、重量、原産国を別々の書類やシステムへ入力する。送り先ごとに禁制品や条件を確認する。ラベルを作り、梱包し、追跡番号を知らせる。
一件の売上が、現場では十数個の作業を生む。
その作業が人の頭と手入力だけに依存していれば、売上の増加は利益の増加ではなく、残業とミスの増加につながる。
ここに、私自身が大切にしてきた主張との共通点がある。
作っただけでは価値にならない。使われ、実際に役立ち、使われ続けて初めて価値になる。
海外展開も同じである。
売っただけでは事業にならない。届けられ、代金を回収し、利益を残し、次の注文にも対応できて初めて事業になる。
私は、海外展開で苦労する企業を見て、「もっと営業力が必要だ」と考えるだけでは問題を解決できないと思うようになった。
必要なのは、売れた後の仕事を先に設計することである。
誰が注文を受けるのか。どの情報を一度だけ入力するのか。どの書類へ自動転記するのか。規制を誰が確認するのか。送料と手数料をどのように価格へ反映するのか。担当者が不在でも発送できるのか。
ここまで決めて初めて、海外販売は「偶然の一件」から「続けられる事業」へ変わる。
ここから先では、受注前に確認すべき七つの設計項目と、Excelを使って国際郵便の入力負担を減らす具体的な業務フローを整理する。
第4章 海外販売を始める前に決める七つの事業設計
第5章 Excelで海外発送を続けられる仕組みに変える実務手順
次に読むなら
第5話「なぜ、利益は消えるのか?」
なぜ、読んだほうがいいのか:
第4話では、海外から注文を受けても、物流・制度・決済・供給がつながらなければ事業にならないことを整理しました。第5話では、その課題を地域企業の想いと実際の貿易実務へどう結び付けるかを、さらに深く考えられます。
関連記事
第6話「「買いたい」の先で、なぜ、止まる?」
第1話「AI時代に、あえてExcel VBAを選ぶ理由」
【BOOTH】
【簡易システム(無料配布中)】
「トイレ清掃チェック表」
年月を変更すると自動的に曜日が変更される
「月次売上一覧表」
日次のカード売上&現金売上を入力すると当月売上一覧表が自動的に作成
「レンタカー配車早見システム」
異なる車両保管場所にある車両について、翌日出庫車両を教えてくれる
「かんたんJAN作成&管理」
JANコード自動作成
"Opening Movie"
超有名な映画会社米国ハリウッドのオープニングムービー全集
"FAX Database System"
業者毎のFAX送信のためのデータベースシステム
【簡易システム(有料)】
「かんたんメール一斉送信システム」\480
メールアドレス管理&メール送信機
「かんたんシフト管理」\480
観光施設やレンタカー会社、中小・零細企業用
「かんたん英文法」\480
中学生から社会人まで
「かんたん英単語ExcelPerfect」\980
幼稚園から社会人までの英単語を幅広くゲーム感覚で学習
「国際ビジネス受発注システム」(簡易版)\0
数値・数字を入力するだけで発注書や請求書等9つの書類作成
「国際ビジネス受発注システム」(完全版)\980
数値・数字を入力するだけで発注書や請求書等11もの書類作成
「海外発送スターターキット」\0
バーコードをスキャンするだけで、通関電子データ用のソース情報を成型
ここから先は

後編
15話セット後編を作りました。 収録は第2話・第4話・第6話・第8話・第10話・第12話・第14話・第16話・第18話・第20話・第22…

上巻
10話セット上巻を作りました。 収録は第1話・第4話・第7話・第10話・第13話・第16話・第19話・第22話・第25話・第28話です。…

全集・完全版
30話完全パックを作りました。 AI、Excel VBA、Access、海外展開、商談後フォロー、粗利、在庫、帳票、経理負担、FAX注文…
第4巻「海外展開と商談後フォローの現実」
noteマガジン第4巻を作りました。 収録は第4話・第9話・第14話・第19話・第24話です。 海外に売れたあとの壁、机上の理論と現場…
この記事は noteマネー にピックアップされました
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?

