【小説】閉架書庫に眠るイーサン 2
***この小説は「遠い銃声シリーズ」の「ココニ イルヨ」章から3年後の時間軸になります。***
過去作の時系列・設定など
「遠い銃声」シリーズ用語集
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【小説】閉架書庫に眠るイーサン キャラクタービジュアル&設定資料
【小説】閉架書庫に眠るイーサン 1
02 予兆の頭痛

翌日、青竜と白夜は成田空港からアメリカ・ダラス・フォートワース空港行きの飛行機に乗り込んだ。
日本の航空会社の便のビジネスクラスに二人座っていた。
白夜の父と一緒の仕事での海外出張では社長はファーストクラス、青竜はビジネスクラスで、到着するまで、ほんの少し雇用主から解放された気分を味わえていたが、今回は白夜の要望で、ビジネスクラスの、しかも白夜の横ということで、青竜は緊張していた。
シャーロット・ダグラス国際空港まで直行便がないので、ダラス経由、最短でも15時間の長時間の搭乗で、アニカに関する資料を改めて見たり、インターネットを見ていたりしていた。
「青…やっぱり、席は別々にした方がよかったのかなあ……」
小さく白夜はつぶやく。
「いえ、大丈夫です」
白夜が気をつかわないように、言ってほほえむ。
(本当は……してもらった方がよかった…)
青竜は後悔しながらスーツのネクタイを少し緩めた。
成田から飛び立った飛行機が、太平洋の海上を飛んでいるあたりで、青竜の体に異変が起きた。
ひどい頭痛がしたのだ。
気圧の関係で飛行機内で頭痛がすることはある。しかし、今回は違った。
死にそうなほどの頭痛と吐き気がしたのだ。
痛みに関しては、青竜はかなり耐性があったが、今回は耐えられなかった。
苦しむ青竜にすぐに白夜は気がついて、フライトアテンダントを呼んだ。
白夜が日本人のアテンダントに丁寧に説明すると、彼女は声をかけ、白人の女医を連れてきた。
乗客だった彼女は、青竜の様子を見て、解熱鎮痛剤を渡してくれた。
彼女は青竜の額の傷跡と、髪の毛に隠れた古い頭の手術痕を発見して、できれば、飛行機を降りたら、すぐに脳神経外科を受診することを英語で勧めた。
青竜は解熱鎮痛剤を飲んだ後、体を丸めてできるだけ動かないようにしていたら、頭痛はひいてきた。
白夜は青竜の腕を握り、手でホコリをはらう動作に似た何かを祓うような行為をしていた。目に見えない、幽霊のようなものが見える白夜は時々そのようなことを青竜にした。だが、今回は霊感のない彼でも黒い煙のようなものが飛び散っていくのがわかった。
「ありがとうございます、白夜様」
「ごめん、青竜……なにか…大きな…すごい黒いものがついてた……」
白夜は座席前のテーブルに頭を乗せ、ゆっくりと呼吸を整えている青竜の背をさすりながら、彼の背中にただよう黒いものを散らした。
(何者かが、アメリカに行くことを妨害しているのか?いや…なんだろう…)
白夜は飛行機の天井をぐるぐると漂い、また青竜の元に戻ってこようとする黒い煙のようなものを「気」を飛ばして散らした。
(たいしたもんだ)
背後から結城の声が聞こえた。
(手伝ってくれたらよかったのに)
白夜は守護霊の結城に言ったが、彼は返した。
(私が手伝っては意味がなかろう、お前が受ける試練なのだから…)
(試練……ね……)
白夜はつぶやいた。
「コワクナイ?」
ふと、具合が悪いはずだった青竜が俯いたまま白夜に話しかけてきた。彼の体を借りて、青竜ではないものが白夜に問いかけてきたのだ。声が違う。声の高い少年の声だ。
「真実ヲ、知ルノガ、怖クナイ?」
白夜は躊躇した。が、落ち着いて答えた。
(怖く………ないよ…)
「ダッタラ…オイデ…見セテアゲルヨ…真実ヲ……ソシテ…現実ヲ」
(うん……)
頷くと、それ以上声は聞こえなくなった。青竜が出した溜息が聞こえた。
シャーロット・ダグラス国際空港に着くと、すぐ予約したレンタカーに二人は乗り込んだ。白夜は数時間前の青竜の苦しんだ姿を思い出し、中心街まで公共交通機関を利用するように勧めたが、青竜は首を横に振った。
「大丈夫ですから」
頭痛はおさまったように見えるが、普段は冷静沈着な青竜があのように苦しむさまを久しぶりにみたので、白夜は胸が騒いだ。
「普段から頭痛もちなんですよ、でもあんなに痛かったのは初めてでしたが、あの外国人の女医さんが渡してくれた解熱鎮痛剤が効きましたよ、今は快適です」
街の中心部にあるホテルにチェックインした。
ホテルの部屋は並びで取られていた。白夜の部屋でとりあえずの計画をたてる。
「時差で体が疲れていると思われますので、今夜は夕食を食べたら、すぐに寝ましょう、明日、昼頃に起きて、のんびりと街を観光しましょう。アニカさんに会うのは…明後日です」
「わかった、青竜……。でも体、大丈夫?病院行くんだったら、俺、ついてくよ」
「大丈夫です、白夜様、ありがとうございます」
青竜はほほえむと、ホテルの窓の外の風景を見た。
「……」
一瞬だけ、青竜は首をかしげて外の風景を見入った。
「どうした?」
「いいえ……」
白夜の問いかけに青竜は首を横に振った。
「…すみません、電話を一本かけさせてください」
青竜はiPhoneを取り出すと電話をかけた。
すぐに相手は出た。英語だった。青竜も流暢に英語を話すと、最後は笑顔を浮かべて切った。
「アニカさんですか?」
「そうです、無事に着いてよかった。明後日会うのを楽しみにしていますと
言ってた」
(楽しみなような…怖いような)
白夜は背筋を正した。
「ねえ、青、夕食を一緒に食べにいこうよ」
「そうですね、何を食べたいですか…」
二人はホテルのカードキーを持つと部屋を出た。
「昴さんの弟さんと関係者の人が、シャーロットに着いたって」
アニカは夕食をほおばるリアムに言った。
誘拐された昴の双子の兄弟で、代理母であるアニカに引き取られたリアム
はもぐもぐと答える。
「え、今?来たい、来たいって言ってたのに、ずいぶんかかったね…確か初めて聞いたの三年前…」
「そうね、仕事が忙しかったらしいから」
リアムはデザートの切られたリンゴに手を伸ばす。
「行方不明になって21年か…もうさすがに仕事を後回しにしてまで探すほどでもなくなったんだろうなあ、生死不明っていってもね…」
「そうね、どこにいるんでしょうね」
アニカは遠い目をして言った。
「明後日来るそうよ、リアムは大学は休みだったわよね」
リンゴの切れ端を口にくわえながらリアムは叫んだ。
「え、俺いなくちゃいけない?」
「双子の兄弟のことですもの、それに、あなたの遺伝子上の弟さんが来るのよ」
アニカもリンゴを手に取った。
「昴さんがもし、真っ当に育ってたら、こんな顔になってたかもって、あなたの顔を見せてあげようかなと思っているのよ」
「あ、それは無理だ。俺、真っ当に育ってないじゃない。大学の成績もいまいちで留年して卒業できないかもしれないし」
アニカはリンゴをふるふると振って笑った。
「そうね、そういう意味では真っ当ではないわ。でも、こんな親の元に生まれて、グレもせず、育ってくれただけでも真っ当な息子だと思うわ」
「ママは人をおだてるのがうまいなあ、でも、写真でいいじゃない?」
リアムはぼそりとつぶやいた。
「なんだか…少し…怖いんだ……あのひとたち……」
アニカは不思議そうな顔をした。
「どうして?会ったこともないのに」
「会ったことがないから、なおさらだよ……ね、あさって、家には居るよ、別の部屋に隠れているから、一緒にいなくてもいい?」
アニカは溜息をついた。
「わかったわ、ただ、隣の部屋にいてね。呼ばれたら出てきてよ」
「うん……」
リアムは頷いた。

夢の中に出てきた青年。自分そっくりな20代半ばの白髪の青年。彼は偽物の弟に病院に閉じ込められ、「昴兄さん」と呼ばれていたと言った。
髪の毛が白髪になり、名前も忘れる記憶が混濁するほどの事故にあい、そして、隔離されて…。
彼はそう言っていた。
(やっぱり、あれって、俺じゃないか?未来の俺が、彼らに会えばこうなるって、警告してきてるんじゃないか?)
残りのリンゴを飲み込んで、シャワールームに行く。歯をみがきながら考える。
(怖いな……でも、怖いものみたさってのもあるな………)
リアムは明後日顔を合わせるであろう弟の姿を考えて少し震えた。
白夜と青竜はホテルから近場のレストランで遅めの夕食をとると、レンタカーに乗ってホテルに帰ろうとした。
「白夜様」
青竜はハンドルを握っていった。
「少し、このあたりを車で流していいですか?それともすぐにホテルに帰りたいですか?」
「いや、かまわないよ」
白夜は言った。
青竜はホテルに帰る道と逆の道を走りだした。
「あ、どこへ行くの?」
助手席の白夜は青竜を見た。
青竜はまるでなにかにとりつかれたかのように目線を動かし、ウィンカーを出して道を曲がる。
「これまでアメリカ出張は何度かありましたが、今回シャーロットは初めてです、でも…既視感がするんです」
「え……」
白夜は驚いた。
「白夜様に以前言いましたよね。私は小野田ホールディングスに16歳で入る前は、新宿の歌舞伎町のような治安の悪い街で路上生活をしていました。名前も忘れて、以前の記憶もないまま、そこで生活していたらしいです。なので、私は生まれてから、15歳くらいまでの記憶がごっそりありません…いや…時々、記憶らしい断片は思い出すことはありましたが、どこでどう暮らしていたのかははっきり思い出せていませんでした」
「記憶を取り戻したってこと?」
「いいえ…ただ…この街並みを見たことがあるな、歩いたことがあるなという程度です。記憶がすべて戻ったわけではありません」
青竜はまた信号を曲がる。
「確か…この先に小学校……」
レンタカーのガソリン車のSUVは軽いエンジン音をたてた。
ブレーキをゆっくりかけ、ハンドブレーキをかけて、青竜は車を降りる。
白夜も彼を追った。
大きな門の前に青竜はたたずんだ。
「…………エレメンタリースクール……小学校……あった……」
「青、ここに通っていたの?」
白夜が語りかけると、青竜は頷いた。
「この…門を…くぐっていたような…気がする……」
門がしまっていることをとても残念そうにしている青竜に向かって白夜は言った。
「明日…、明日学校に言ってみようよ、もしかしたら、当時を知っている人がいるかもしれないよ、青竜…」
「いいのですか?」
白夜は頷いた。
「いいよ。行ってみようよ」
青竜は嬉しそうな表情になった。
佇み、学校を見つめていた。
(白夜よ)
背後から白夜に守護霊の結城が語りかけた。
(昴より、あの眷属の過去の方が早くみつかりそうだな)
白夜は頷いた。
(それはいいことだね、結城)
結城は少し意地悪気に笑った。
(小学校で身元がわかり、家族に再会できたら、あの男は…日本に戻らぬかもしれぬな)
はっ、と白夜は我に戻った。
(それは…それは…困る………俺も父様も青竜を必要としている)
俯く白夜に容赦なく言った。
(確かに困るな……、だがもしこの立場になっているのが昴だったらどうする?)
白夜は顔をあげた。
(兄さんの周りの環境から昴兄さんだけを剥がして、日本に連れ帰るって、難しいかもしれない)
(だな)
結城は頷いた。
(わるいひとに ゆうかい されていた すばるは ぶじかぞくのもとに もどりました、めでたし めでたし では終わらないぞ、白夜)
白夜は拳を握りしめた。
(くそう…これも試練なのかな…負けたくない…負けたくないぞ…)
少し宙にういている結城の顔をにらみ返した。
そんな白夜の姿を不思議そうな顔をして青竜は見つめていた。
閉架書庫に眠るイーサン 03に続きます。

白夜に折伏されて眷属になったので、白夜に厳しい時は厳しいです。
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