【掌編小説】喫茶ピリオド
終わらない仕事そして終わらないモヤのようなものが私の中に募っておりというのも客先と最初言ってたことと話が違うみたいなことになって上司も自分の味方にはなってくれないしえー私が悪いの?という思いがぐるぐるとうずまき飲み込むしかないかーみたいなそんな別にいいんだけどちっちゃいトゲなんていうのは複数刺さるとちっちゃくても痛いんであってかといって会社やめるってほどでもないけどなんかちょっと嫌になったりしてお手洗いに行くふりをしてエイやっと会社を出てきてしまい行くあてもなくさまよっていてこんなことしてもどってきたらさらに仕事はたまる一方なんだろうなと思うとますます戻りたくなくなってきてしばらく歩き回っていたら1軒の喫茶店があって看板に書いてある「喫茶ピリオド」という名前とどこか懐かしい純喫茶に惹かれて入って行くとカランカランと音がしてマスターらしき男性に「いらっしゃいませ」と席を案内されて窓際の席に座るとメニューがあって「ピリオドコーヒーとみずたまクッキーのセット」というのが書いてあったのでそれを頼むことにしてしばらくすると湯気がたちのぼるコーヒーをマスターが運んできて席に置き軽く会釈してコーヒーに口をつけた瞬間
なんだろうこの感覚。
頭の中に雨が降ってきた。
それも強い雨足。
打たれているのにあたたかくて。
心地よくて。
気づいたら涙がとめどなく流れてきた。
悲しいわけじゃないのに。
何かを押し流すようだった。
慌ててハンカチで拭って。
コーヒーをもう一口すすった。
鼻にコーヒーの香りが抜けていく。
体中にあたたかさが広がる。
「おいしい」
思わずつぶやいてしまう。
近くに立つマスターが微笑む。
マスターは30代ぐらいだろうか。
天然パーマで切れ長の目が印象的だ。
少し不思議な雰囲気のなかなかいい男だ。
「みずたまクッキーもよかったら」
うながされて小さな皿のまるいクッキーを口に運んだ。
さっくりとかじる。
口の中でほろほろほどける。
やさしい甘さ。
なんだか、少し、時間が、ゆっくりと流れていく。
「ほろほろして、おいしいですね」
「でしょう。妻が焼いたんです」
「奥様が……」
奥様がいると聞いて、先ほどいい男だと思っていたことが、恥ずかしくなってしまう。それでもなんだか、頭の中に風が吹いて、全身で呼吸がしやすくなったように思えた。ゆっくりと深呼吸をする。
「丸と黒点が、戻ってきましたね」
マスターが切れ長の目を、さらに細めた。
「なんのはなしですか?」
思わずそんな言葉が出てきてしまう。
マスターは口の端を持ち上げてニヤっとした。
「ようこそ、喫茶ピリオドへ」
なんのはなしか、全くわからない。
だけど、自分が今ここで初めて「喫茶ピリオド」に、来たような気がした。
気づくと、30分ぐらいの時間が経っていた。さすがに会社に戻らないと。
立ち上がって、会計をする。
「また、おいでください。丸と黒点ならふんだんにありますから」
最後まで、なんのはなしかわからないまま、私は店を出た。秋風が目の前を駆ける。さっきより、会社に戻る足取りが軽い。仕事のことを思い出した。自分が悪くないなら、悪くないでいい。表面上謝っても、自分の気持ちまで、悪者にする必要はない。不思議とそんな気持ちになった。
どうしてそう思えるようになったんだろう?
そうだ。丸と黒点。句点と読点。
自分は「。」も「、」もなく、考えていた。
だからあんなに、呼吸がしにくくって、何も終わらないって思ってた。
そっか。
考えるのにも、「。」と「、」がいるんだ。
「丸と黒点が、戻ってきましたね」
マスターの声が頭の中に響く。
また、丸と黒点が足りなくなったら、「喫茶ピリオド」に行こう。
秋空には、ひつじ雲や飛行機雲が無造作に描かれている。
神様の、落書きみたいだな。
私は振り返ることなく、会社への道を歩いた。
(了ー1576文字)
読んでいただきありがとうございました。
「 #なんのはなしです珈 」に参加したい掌編小説を書きました。
私の作品を前から読んでくださってる方は、マスターの正体にお気づきかもしれませんね😏
読んでいただきありがとうございました!
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