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ケケケのトシロー 第二部(2)

ヤンキーのカズに絡まれ老人狩りにあったトシローはキダローという不思議な術を使う男と知り合う。彼は悪霊退治を使命にもつケケケの妖術使いだった。非力で情けなさ100%のトシローは、最初はキダローの強さに惹かれ行動を共にし彼から妖術を学ぼうとするが、キダローがカズの仲間をゴキブリに変え抹殺したことからその非情さに疑問を持つ。一方不帰橋と呼ばれる場所が昔から悪霊が蘇る場所であり、そこをキダローと共に護っていたフキさんが悪霊により命を落とす。そこから悪霊どもの攻勢が始まった。命を助けたことでトシローを慕っていたカズも音信不通になり、トシローは彼を追って反社組織権藤会本部へ走る。そこに待っていたのはサトーという人間の姿を借りたキダローと因縁のある網乾左母二郎の悪霊だった。キダローの正体もわかり、仲間である瀬戸内海小豆先生と共に戦い勝利を手にする寸前のところでサトーはカズに乗り移り逃走。そして妻、真由美が連れ去られそうになるのを間一髪のところでキダローとトシローは真由美を助けたが網乾らの悪霊の総攻撃により三人は絶対絶命のピンチを迎えた。そしてキダローは自分の身を盾にしてトシローと真由美を救い、自らは悪霊共々大爆発を起こし消えたのだった。

第一部のあらすじ

 第二部(1)はこちらから

 新たな出会い 2


(本文2335文字)

「大丈夫?」
ランちゃんの言葉に俺は頷き、羽織っていたジャケットの袖でこぼれた気持ちに仕舞いをつけた。
「ああ、ごめんな。恥ずかしいなあ、ええ歳して」
「全然そんなことないよ。それ、何なん?」
「これか? これはな『錫杖』しゃくじょういうねん。ほら、お坊さんが托鉢なんかで歩いてる時に持ってはる杖の頭の先についてるやろ? 見たことないか?」

「ああ、そう言えばそんなんついてるね」
「あれのな、先っぽだけがこれやねん。これは手に持ってシャラーンとやるねん」
 俺はランちゃんに見せようと錫杖を一度振った。

 しゃくっと歯切れよく音を鳴らしたその時、周りの空間が震えたように感じた。ブルブルと錫杖の音が伝搬するような感じだ。するとランちゃんの後ろの方、丁度マンションの入り口付近に人の形をしているがそれ自体は透明で空けて見えるような何かが慌てて逃げるのが見えた。なんや? まさかあいつらの生き残りか?

「いやや、なんか後ろのほう寒いわ」ランちゃんが肩をすくめて振り返る。
「ランちゃん、なんか今、感じた?」
「うん、なんかいやな感じ。今朝起きた時も、夢見がなんか悪くて冷や汗かいてた」
「あんた、霊感みたいなのって信じる?」唐突だが気になって訊ねてみる。
「あ~、私ね、結構そういうの強い体質かもしれない」
う~サブっと言いながらランちゃんは腕組みをする。この子は感じやすい子なんやと思う。ん? ちょっと表現が厭らしいか。勘違いすなよ。

「それ、おじさんの探し物やったんでしょう?」
「うん…… 俺の知り合いのもんやった」
「え~、なんか意味深な言い方やめてくださいよ」
 ああごめんと言って俺は空を見あげた。
キダロー。お前の意志は俺が引き継ぐ。俺が奴らを倒すからな。くっ~~カッコええ…… 俺……。

「あの、おじさん? 何ニタニタしてんの? 泣いたりニタニタしたり忙しいしキモイよ」ランちゃんはそう言ってへの字の口でおまけに眉間に皴を寄せた。

「あ、そう……」俺は再び項垂れる。いや、こんなことしとる場合やないぞ。これを持って小豆先生(瀬戸内海小豆)のとこへ行かな。

「ランちゃんありがとう。またこのお礼はするからな。おっちゃん、ちょっと行くとこあるから」
「そんなんええよ。またね」
ランちゃんは微笑んで踵を返しマンションの中へ駆けて入った。ああ、エエ娘やなあ。ウチの娘もあないに優しかったらなあ。言うとらんと、早く先生とこ行かな。俺も着替えて出かけよう。

 家に戻って手洗いうがいをする。珈琲でも飲みたいが今は先生が先。着替える為に寝室の扉を開けようとしたら先に扉が内側から開く。
「何してはったん? さ、行きましょか」

「え…… まゆみ?……」俺の目の前に現れたのは和装の真由美だった。
 縮緬の五つ紋の黒留袖、裾模様には着物柄には珍しい大鷲が羽ばたく。帯は通し亀甲柄の染帯。髪を綺麗に纏め上げ、ここ何年も見ていないかもしれない品のある感じのお化粧…… あれ? 既視感…… あ、岩下志麻……

「あの、訊いてもいい?」
「何でしょう」
「そんな着物…… どうしたん? そんなん持ってた?」
 俺の問いに真由美は口元を左手で隠しながらホホホと笑う。ホホホ? ホホホってなんやねん。あんたはいつもアーハッハッハーやろ。
「これね、今まで着てないですもの。(ですもの~?)これは母方の祖母から頂いた着物でね。大事な時に着なさいと」
「大事な時って、あんた俺と一緒になってから一度も着た事ないですやん」
「だって大事な時ですもの~ホホホ」
「ほな、今日は大事な時なんですかー?」なにが「ですもの~ホホホ」じゃ!!

「先生のところへ行くんでしょ?」真由美はスンとした表情でそう言う。
「え、それはそうやけど、あんたも行くの」
「姫にあんたとは言葉が過ぎませんか」
「いや、確かに姫らしいけどやで、それはあんたの先祖がそうであって……」俺の言葉を遮るように岩下志麻はすすっと前に踏み出し鼻先2㎝まで顔を近づける。「ひ・め・で・しょ?!!」
「はい。左様でございます姫君」

「では参りましょう。あなたもお着換えになって。1分で」俺は54秒で着替えて真由美と共に外へ出る。

「あら、オオツカさん え、なに? 今日誰かの結婚式? ご主人はいかれへんの? え、奥さんだけ?」隣りの北島さんの奥さんがまた、おらんでもええのにエレベーターのところで掃き掃除をしていた。そうか今週は当番や。
「いえ、違いますの。主人と一緒に少しお出かけしてまいります」
 真由美は丁寧にお辞儀をして丁度止まったエレベーターに乗り込む。
「はは、どうも、行ってきます」俺は愛想笑いで同じく乗り込む。扉が閉まりきるまで北島さんは小首を傾げこちらを覗いていた。

「真由美…… あ、姫……あのな」エレベーターの中で俺はさっきの錫杖のことを話そうとする。

「わかってる」真由美は短く返答した。
「ええ? わかってるって何を?」
「トートバックの中。入ってるの、キダローさんの持ちものでしょ」
「え? ああ、そう。そうやねん。あの時キダローが振ってたやつ」
「それを拾ったんでしょ? 朝から探して」
「うん」
 真由美は全てお見通しのようだ。さすが『里見氏』の血を引き継ぐ姫。これは冗談抜きで認めなくてはならないな。

「それ、売れる?」 売るんかい!!
「売るか!!」
「冗談です。先祖代々のものを粗末にはできません」
「ええ?……」
エレベーターを降り、外へ出て二人で歩く間にそんな話をしていた。

「ウチも信じられへん出来事やった」
 真由美はポツリとそうこぼす。
「ごめんな、怖い思いさせて」
「でもそれは運命なんやろねぇ」
 そう真由美が言った時、俺達は不帰橋の袂まで来ていた。まだ潰れたままのフキ時計店が橋の向こう側にわずかに見えている。

 
 続く



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