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華と修羅が日常 — PRパーソンの告白|第十話 均衡の代償

テープカットの朝、沖縄・名護に知事も、大使も、カピバラも集まった。
やんばる自然動植物公園の誕生。
だが、その祝祭の裏には、別の力学が働いていた。


開園前夜


冬だというのに、風はやわらかかった。海沿いの道を夜風が抜け、ブーゲンビリアが塀の上から垂れている。本土からすれば、これが冬かと思うような長閑さだった。空は澄んでいて、星が近かった。

名護の町は、しかし、穏やかではなかった。米軍基地の開発を巡り、県民の感情は複雑に絡み合っている。賛成と反対が地層のように重なり、その上で人々の暮らしが続いている。それがこの町の、普通の日常だった。

その名護に、一つの公園が生まれようとしていた。

やんばる自然動植物公園。亜熱帯の気候を活かし、残された秘境を再現する。南米、中米、アフリカ、東南アジア、オセアニア。フラミンゴの湖、アマゾンのジャングル、アフリカのサバンナ、マダガスカルの入江、オセアニアの花鳥、サボテンの峡谷とパンパスの草原、リャマの森。一つひとつのゾーンが、別の世界だった。

株主には、県と名護市のほかに、沖縄の名だたる企業が並んでいた。第三セクターだ。その中で鳴海渉の目を引いたのが、二社だった。一つは北部製糖。サトウキビを基盤とする老舗で、かつての隆盛はすでに遠く、収量も採算も、じわじわと落ちている。もう一社は、東洋開発。本土の大手ディベロッパーだ。

鳴海は、その名前を頭の中に留めた。

記者発表


開園に先立ち、鳴海は県庁の記者クラブで記者発表を取り仕切った。

司会は篠宮真理に任せた。映像に合わせて公園の概要が紹介され、東都農業大学名誉教授の近藤順平園長が壇上に立った。

「亜熱帯の自然を、そのままお見せする。それがこの公園の理念です」

近藤の言葉は穏やかだったが、確信があった。記者たちのペンが動いた。

壇上の近藤を見ながら、篠宮は手元のメモに何かを書いていた。質問を整理しているのか、それとも別のことを考えているのか、鳴海にはわからなかった。元々新聞記者を目指していた篠宮は、記者会見の場になると、どこか空気が変わる。記者席を見る目が、どこか懐かしそうでもあり、鋭くもある。鳴海はその隣で、質疑の流れを読んでいた。

プレビュー


開園前日、メディアと旅行会社の企画担当者を招いたプレビューが行われた。篠宮が受付に立ち、招待者を迎えた。カメラを抱えた記者、手帳を持つ旅行会社の担当者が次々と入場してくる。

園内はまだ若かった。木々の間を人が流れ、緑はあるが、密度が足りない。南国の午後の光が、まだ背の低い梢の間から、真っ直ぐに差し込んでいた。

近藤が鳴海の隣を歩きながら言った。

「あと十年もすれば、見違えますよ」

鳴海は頷いた。十年後のこの場所を、少し思い描いた。

オープニングセレモニー


当日の朝は、雲一つなかった。知事が来た。市長が来た。園内に展示する動植物を提供した各国の大使も参列した。テープカットの瞬間、フラッシュが瞬いた。

鳴海は会場全体を見ていた。動線に滞りはないか。メディアの位置は適切か。通訳は機能しているか。すべてが同時に動いている。式典は滞りなく進み、来賓の言葉が続き、拍手が広がった。

これだけの顔が揃い、これだけの拍手が起きる仕事を、自分はやり遂げた。それだけは確かだった。

県民公開デー


翌日は県民公開デーだった。幼稚園の子どもたちが、列をなして入場してきた。招待された小学生の一団も続く。最初の歓声が上がったのは、フラミンゴの湖の前だった。だが、最も賑わったのは、予想外の場所だった。

マダガスカルの入江ゾーンのワオレムール。そして、アマゾンのジャングルゾーンのカピバラ。

どちらも、当時はほとんど名の知られていない動物だった。ワオレムールは縞模様の長い尾を持ち、大きな目でこちらを見返す。カピバラはその愛嬌で人を引きつけた。子どもたちが声を上げ、親が笑い、カメラが向く。

鳴海は、その様子を少し離れた場所から見ていた。フラミンゴでも、リャマでもなく、カピバラのところに人が集まっている。計算の外で起きることが、いちばん正直だと思った。バスケットで言えば、練習通りではなく、とっさの判断で入ったシュートだ。そういうものが、試合を決める。

半年後


客足が、伸び悩んだ。開園の賑わいは、半年もしないうちに落ち着いた。

赤字が続いていた。近藤に状況を尋ねると、答えはいつも同じだった。

「植物が十分に繁茂するには、十年はかかります。それまでは、見栄えが冴えないのは仕方がない」

植物は嘘をつかない。ただ、時間が必要なだけだ。しかし、経営は待ってくれない。バブルの熱気はまだ続いていたが、沖縄への観光投資の競争は、すでに次の段階に入っていた。

バーター


しばらくして、ある話を小耳に挟んだ。

東洋開発が、資金的にかなり支援しているというのだ。

鳴海は、立ち止まった。本土の大手ディベロッパー。リゾートホテル、ゴルフ場。沖縄での観光施設開発の競争は、当時すでに激化していた。行政と組み、地域の顔になる施設を押さえる。そういう動き方だ。

そうか。バーターだったのか。

あの株主名簿の並びが、別の意味を帯び始めた。

赤土


記者発表、プレビュー、オープニングセレモニー、県民公開デー。鳴海が取り仕切ったすべての場面が、その文脈の中にあった。

沖縄では、森が削られると地面が雨にさらされる。赤土が海に流れ出す。珊瑚礁が、静かに死んでいく。

その連鎖は、リゾートが建つたびに、どこかで起きていた。雨の翌日、海岸線に沿って走ると、海の色が変わっている場所がある。赤みがかった濁り。それが何を意味するか、この島の人間はみんな知っていた。

均衡


観光産業の振興と、守るべき自然。その両方を成立させる——公園はそう説明されていた。鳴海も、そう信じてここまで仕事をしてきた。

だが今は、少し違う角度から見ていた。

均衡とは、誰のための言葉なのか。そして自分は、その均衡を傾けた側に、いたのか。

名護の夜風が、また窓の外を抜けた。ブーゲンビリアが揺れる音が、どこかから聞こえた気がした。

(第十話 了)



【短編連作】華と修羅が日常 — PRパーソンの告白
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 海に浮かぶ街
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歴史青春群像小説『啄木の知らない戦争』
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