無音の雪:日本とモネと北欧と【東京都美術館 スウェーデン絵画 北欧の光】
東京初雪!

2025年2月8日。かなりの勢い、さらになかなかサラサラで、都内にしては綺麗な雪に降られた。吹雪になった時間帯もあり、衆院選投開票日当日ということもかなりドラマチックな情景になったけれど、全体としてはしんしんと降る優しめの雪だったのではないだろうか。
日本の雪の絵というと、まず思い浮かぶのは円山応挙でしょう。屏風の本来の白地を生かすという、引き算の雪。東洋の余白文化からなる逆転の発想が、なんとも奥ゆかしい雪。最近見た中では東山魁夷《年暮る》も生活の中に降る温かさを描いた素敵な雪の絵。川瀬巴水の新版画による雪も、世界中で評価される日本の雪として思い浮かぶ。
「しんしん」という擬音にも現れる、文化的、内面的にも表現される日本の雪、静謐感を演出しているとはいいつつ、その表現は画家の技が光るリズミカルなもの。一方、スウェーデンやノルウェーと言った北欧の作家たちが描く雪は、そんな日本の雪景色とは違う姿を見せてくれる。
◯アンデシュ・ゾーン

まず、現在東京都美術館でやっている「スウェーデン絵画展 北欧の光、日常のかがやき展」からアンデシュ・ゾーン。同じく今展覧会の出展画家リリエフォッシュを描いたこの作品のように、北欧の雪はたっぷりとした量感があるものが多い。日本のように粒々が降ってくる様子ではなく、どさっとまとまってそこにある存在感。少し粘っこくもみえる。
◯エドワルド・ムンク

日本、東京とは違う雪を考えた時、スウェーデン絵画ではないものの、どうしても並べたかったこの絵!こちらは2024年のSOMPO美術館「北欧の神秘展」に出展されていたエドワルド・ムンクの《フィヨルドの冬》。このドロドロ感。東京では特に雪といえば水を多く含んでいるのでここまでの質感は見られない。地球の核から噴き出す溶岩のようにうごめく雪。
有名なムンクの「叫び」は、木星のようなおどろおどろしい空気の滞留の表現が特徴的だけど、そのムンク独特の表現雪バージョンと言ってもいい作品。ここまでのパワーを雪で感じたことはなかった!
◯カール=フレデリック・ヒル

つぎは、またスウェーデン絵画展からカール=フレデリック・ヒル《馬車のいる荒地の風景》。荒々しい筆致で大胆に描かれる雪と空。この作品は、質量感よりもその画面が捉えた広大さに驚かされるタイプ。これも圧倒的な自然がそばにあるスウェーデンならではと言えるだろう。文学・詩的雪に対する、事実雪。左隅にちっっちゃく描かれる三日月と、不気味な馬車もそれを引き立てている。
◯グスタヴ・フィエスタード

そして極め付けは、こちらのたっぷり雪景色!グスタヴ・フィエースタードの《冬の月明かり》は、こんもり描かれる雪の中に、月の輝きを反射するリズミカルな点描が付けられているのが印象的。ムンクの作品に通じるようなどろっとした脈打つ雪でありながら、また別の温度と感じさせる。東京ではなかなか見られない圧倒的な自然の景色。
東京の雪はとくに、含水量が多くベチャッとしているけれど、北欧は乾燥していてふかふかしているという。そしても北欧の方が結晶も小さく、だからまとまったきめ細かい塊のようになる。フィエスタードは完璧にその雪を画面に描く事に成功しているし、なんだか暖かそうとまで思ってしまう。
◯無音の雪

そして同じフィエスタードの《川辺の雪の夕暮れ》。キャプションの通り写実的なだけではなく、リズミカルに抽象化された水の波紋が描かれる作品。しかし、波紋の流れを追うと、そのパターンのは雪によって唐突に終わりを迎えている。見ようによっては、額の中に、またもう一つ雪の壁によって、絵巻物のような横長の画面が設けられているように見える。つまりこれは雪は水の流れ、リズムが、絶対に干渉する事のできない上位の存在として明確に描かれているととることができる。スウェーデン人にとって雪がどれほど圧倒的な存在なのかはもちろん、フィエスタードは雪の無音を表現したかったんじゃないか。
最初に挙げた日本の雪の情景は、静寂の中の雪を扱っている題材が多いものの、それは全くの音が無い状態とは違うってことがわかる。足音、動物の鳴き声、雪が木から垂れて落ちる音、月明かりにも音を感じるかもしれないし、自分の吐息を反映させることもできる。静かだけれど、詩的で、内面的な雪だから、余白があって、音が反響する空間がいくらでも存在する。
グスタヴ・フィエースタード(スウェーデン、1868〜1948) pic.twitter.com/eTafcNE7Wy
— 耽美なる絵画とモノ (@Estetism_jp) March 13, 2025
静寂も言葉の意味では物音のしない、という無音が含まれるけれど、空気の摩擦だとかそういうところまで、音を消すというイメージはない。対して、フィエスタードの圧倒的量感がある雪を見ると、全ての音を飲み込んで画面を雪だけで埋め尽くす迫力がある。余白がない、逆に全部白だし、やっぱりそもそも寒そう。白いのに何故か無の黒さも感じる。フィエスタードはその無音の雪を突きつめたのかもしれない。
◯印象派の雪
そんな感じで日本の詩的な雪と、北欧の事実の雪の違いを見てみたわけだけれど、現在東京ではもう一つ特別な雪の絵を見ることができる。

クロード・モネ《かささぎ》。日本の粒としての雪、北欧の塊としての雪ともまた違う、雪に反射する光を最大限に引き出す雪の絵。白を白として描かないモネの姿勢こそ、印象派ならではといった感じ。

1875頃
アーティゾン美術館のモネ展では、モネによる雪・氷の絵も数点、他にもシスレーやルノワールの雪も見ることができる。今、ますます寒い東京で、色々な雪を見比べてみても楽しいかも。
おわり
東京都美術館「スウェーデン絵画展 北欧の光、日常のかがやき」は4/12まで。
アーティゾン美術館「没後100年クロード・モネ展ー風景への問いかけ」は5/24まで。
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