美味しい酒は作れる。でも売れる酒は作れない。BARで見たクラフトジンの現実。
クラフトジン専門店「新宿蒸留」のオーナーバーテンダーとして、クラフトジンについて語るシリーズです。
前回:クラフトジンBarを始めてわかった。「ジン好き」は思ったより少ない。
美味しいジンほど売れる。
完成度の高いジンほど評価される。
たぶん多くの人もそう思うだろう。
もちろんバーを経営するいまでも、
美味しさは大事だと思っている。
ただ、実際に200種類以上の
ジンを扱うようになって、
一つ気付いたことがある。
美味しい酒は作れる。
でも、売れる酒は作れない。
今でも、その答えは分からない。
お客さんは
味を知らないまま
注文している
考えてみれば当たり前の話だ。
お客さんは注文する時点ではまだ飲んでいない。
つまり味を知らない。
知らないものを味で選ぶことはできない。
それなのに、売れるジンと売れないジンがある。
これはよく考えると不思議な話だ。
同じくらい美味しいのに、
出方が違う
世の中には、
本当に美味しいと思う
クラフトジンがたくさんある。
香りの構成が綺麗なもの。
飲み飽きないもの。
個性が面白いもの。
どれも自信を持って
おすすめできる。
でも実際の現場では、
出るジンと出ないジンがある。
もちろん味の差が
全く無いとは言わない。
ただ、それだけでは説明できない。
私自身、
「なぜこっちの方が出るんだろう」
と思うことが何度もある。
「美味しい」は
意外とウリにはならない
私自身、これは本当に意外だった。
お客さんに
「このジンは香りのバランスが良くて」
「後半の余韻が綺麗で」
と説明しても、反応が薄いことが多い。
一方で、
「北海道の蒸留所なんです」
「店主が元○○なんです」
という話の方が反応が良いこともある。
もちろん味は大事だ。
でも、最初の興味は
別の場所から生まれることが多い。
人は酒を飲んでいるようで、
酒だけを飲んでいない
例えば、
「地元のジンなんです」
というだけで注文が入る。
旅行先で見たことがある。
住んでいたことがある。
ラベルが気になった。
名前が面白かった。
そんな理由で
選ばれることも珍しくない。
そして飲んでみて、
「美味しいですね」となる。
味は大事だ。
でも、味で選ぶのではない。
興味を持ったから飲むだけだ。
良い酒を作ることと、
選ばれる酒を作ることは違う
私はバーを始める前から
クラフトジンを作っているけれど、
お店を出す前とは
明らかに考えが変わった。
良い酒を作れば
自然と選ばれると思っていた。
でも今はそう思わない。
ここが面白いところでもあり、
難しいところでもある。
クラフトジンの作り手は、
どうしても味や製法の話をしたい。
ボタニカル、蒸留方法。
香気成分、余韻。
でも、お客さんは
必ずしもそこから入ってこなくて。
もっと手前にある、
興味や共感や物語から入ってくる。
味はもちろん大事だ。
おいしくなければ次は無いし、
人にも薦めない。
つまり、
美味しいだけでは選ばれない。
ただ、選ばれた酒が
美味しくなければ残らない。
という状態が自然とできあがる。
だから作り手は悩む。
どうすれば、まだ飲んでいない人に
興味を持ってもらえるのだろうか。
どうすれば、この酒の魅力を
伝えられるのだろうか。
人は酒を飲んでいるようで、
実はその背景ごと飲んでいる。
そのことは少し分かってきた。
でも、じゃあ何を語れば人は興味を持つのか。
どんな物語が人を動かすのか。
その答えは今でも分からない。
そして、
その試行錯誤は
クラフトジン業界
そのものにも表れている。
次回は、その話を書いてみたい。

