クラフトジンは、なぜ柑橘と茶を使いたがるのか。
クラフトジン専門店「新宿蒸留」のオーナーバーテンダーとして、クラフトジンについて語るシリーズです。
前回:美味しい酒は作れる。でも、売れる酒は作れない。
人は味だけで酒を選んでいない。
だから作り手は悩む。
どうすれば、
まだ飲んでいない人に
この酒を伝えられるのだろうか。
その答えを探していると、
あることに気付く。
クラフトジンには、
柑橘と茶が多い。
柚子。
みかん。
橙。
緑茶。
クラフトジンを飲み歩いていても、
気が付けば何度も
同じボタニカルに出会う。
最初は、
単純に美味しいからだと思っていた。
でも、
バーで何百本ものクラフトジンを扱っていると、
少し違う景色が見えてくる。
「このジンは柚子を使っています。」
そう説明すると、
「美味しそうですね。」
という反応が返ってくることがある。
でも、まだ飲んでいない。
味なんて分からないはずだ。
それなのに、
美味しそうと思う。
これは、
よく考えると不思議なことだ。
柚子を使っているから、
美味しいと思うわけではない。
柚子という言葉を聞いた瞬間に、
爽やかそう。
和食に合いそう。
飲みやすそう。
そんな印象が頭の中に浮かんでいる。
でも、実はそれだけではない。
「柚子」という言葉は、
味だけを連想させているわけではない。
冬。和食。日本。
清潔感。上品さ。爽やかさ。
人それぞれ違うかもしれない。
でも、
柚子という言葉を聞いた瞬間に、
過去に経験した風景や香りまで思い出している。
人は「柚子味」を想像しているわけではない。
柚子という体験を思い出している。
つまり、
作り手は「柚子味」を借りているのではない。
柚子という体験を借りている。
ここで一つ気付く。
これはクラフトジンだけの話ではない。
人は酒の味を
知っているものに
置き換えながら、
理解している。
この考え方は、
酒だけに限らない。
「あの人は犬みたいな性格だ。」
と言われれば、
何となく人柄が伝わる。
「この映画はジブリっぽい。」
と言われれば、
世界観を想像できる。
人は、
知らないものを、
知っているものに
置き換えながら理解している。
クラフトジンも、
同じなのだと思う。
だから作り手は、
柚子。
茶。
山椒。
と、植物の名前を語る。
植物を売りたいわけではない。
その酒を伝えたい。
だから、
飲み手が知っている言葉を借りる。
私はずっと、ボタニカルは
酒の材料でしかないと思っていた。
もちろん、
それは間違いではない。でも、
ボタニカルとは、
その酒を理解してもらうための
「比喩」なのかもしれない。
でも、
一つ疑問が残る。
もしクラフトジンが、
比喩によって伝えられているのだとしたら。
作り手ごとに違う比喩だけで、
本当に酒は伝わるのだろうか。
次回は、その話を書いてみたい。

