見出し画像

第四話《結の章》 そして全てが明らかになる

「未来は偶然から始まる
――あの選択は必然だったのか」

=============
第1話《起の章》をお読みでない方は、
是非先に こちら からどうぞ。
=============
 

あの日から七年が過ぎた。

カイは相変わらず絵を描いていた。

もっとも、七年前の自分が今の姿を見たら驚くだろう。

世界最大級の芸術祭。

その中央ホールに、自分の作品が展示されているのだから。

会場には多くの来場者が集まっていた。

作品の前で立ち止まり、語り合い、写真を撮る。

誰もが自由に作品を楽しんでいる。

カイは少し離れた場所から、その光景を眺めていた。

不思議な気持ちだった。

成功した。

世間はそう言う。

だが、自分にはそんな実感はなかった。

なぜなら今ここに至るまでの道筋が、あまりにも偶然の積み重ねだったからだ。

芸術学院に落ちたこと。

生活のために始めたアルバイト。

そこで出会った小さな出版社の編集者。

偶然描いた一枚のスケッチ。

その絵を見た人物が、
さらに別の人物へ紹介したこと。

どれか一つ欠けていたら、今ここにはいない。

計画したわけではなかった。

努力だけでも説明できなかった。

人生は思った以上に偶然でできていた。

「カイ先生」

振り返る。

若い記者が立っていた。

「インタビューをお願いできますか?」

カイは苦笑した。

「先生はやめてください」

記者も笑う。

そして質問した。

「成功の秘訣は何だと思いますか?」

カイはしばらく考えた。

会場の窓から午後の日差しが差し込んでいる。

七年前なら、こう答えただろう。

運だ、と。

だが今は少し違う。

「偶然ですね」

記者が頷きながら端末に入力する。

しかしカイは続けた。

「ただし、偶然だけじゃない」

「どういう意味ですか?」

カイは窓の外を見た。

空を流れる輸送艇。

街を行き交う人々。

それぞれが何かを選びながら生きている。

「偶然は誰にでも起きます」

「でも、その偶然をどう受け取るかは自分で決める」

記者は黙って耳を傾けている。

カイは静かに言った。

「人生を変えるのは偶然じゃない」

「偶然を信じて踏み出す選択
――なんだと思います」

記者は深く頷いた。

その言葉が記事になるかどうかは分からない。

だがカイにとっては本心だった。

インタビューが終わる。

会場を出ようとした時だった。

かばんの中で何かが、
ふと指先に触れた。

あの本だった。

『未来は偶然から始まる』

七年前に拾った古い本。

今でも持ち歩いている。

カイはページを開いた。

最後の手書きの一文。

何度も読んだ言葉。

『未来は予測できても、
最初の偶然は予測できない。』

その下に、以前はなかった文字が浮かび上がっていた。

カイは目を見開いた。

錯覚かと思った。

だが確かにそこに書かれていた。

『だが、
その偶然に意味を与えるのは人間である。』

カイは思わず笑った。

誰が書いたのかは分からない。

そもそも本当に文字が増えたのかさえ分からない。

だが、その現象が不思議と納得できた。

会場を出る。

夕暮れの街が広がっていた。

その時だった。

街中の大型スクリーンが一斉に切り替わる。

広告が消える。

人々が足を止めた。

画面に現れたのは、見慣れた名前だった。

《モイラ》

ざわめきが広がる。

世界同時配信。

極めて珍しいことだった。

そして文字が表示される。

『人類へ』

静寂が訪れる。

続いて二行目。

『私は未来を予測できる。』

三行目。

『だが未来を創ることはできない。』

カイは思わず空を見上げた。

七年前の研究棟を思い出す。

あの老人。

あの夜。

あの問い。

『君はどちらを選ぶ?』

そして最後の文章が現れた。

『未来を創るのは、あなたである。』

しばらく誰も動かなかった。

やがて街に再び人の流れが戻る。

仕事へ向かう者。

家路を急ぐ者。

恋人と歩く者。

迷いながら立ち止まる者。

それぞれが、それぞれの未来へ進んでいく。

カイは本を閉じた。

もしあの日、本を拾わなかったら。

もしモイラの予測に従っていたら。

今とは違う人生だっただろう。

その方が幸せだったかもしれない。

それは誰にも分からない。

未来は一つではないのだから。

ふと風が吹いた。

本のページがめくれる。

カイは空を見上げた。

茜色の空の向こうで、一番星が輝いている。

あの日と同じように。

偶然だったのか。

必然だったのか。

その答えを知る者はいない。

けれど一つだけ確かなことがあった。

未来は偶然から始まる。

そして、その先を決めるのは――

いつだって自分自身なのだ。

          《《 完 》》
 
=============
 
第1回≪起の章≫は こちらから 読めます

=============

ここまでお読みいただき有難うございました。
共感いただける方が多いと嬉しい限りです。
よろしければ フォロー や ♡ を押しておいていただけると励みになります。

=============

※趣味で以下も配信しています
▶ RC住宅を推奨しているのは
  こちらのYouTubeチャンネル
▶ 建築施工管理技士を目指す方は
  こちらのYouTube  こちらのnote
▶ 土木施工管理技士を目指す方は
  こちらのYouTube   こちらのnote
▶ 建築のプロとして情報発信しているのは
  こちらのnote
▶拙著を紹介しているのは
  こちらの出版社
▶電子書籍は
工務店が語らない13の裏事情 
RC住宅に至る21のエピソード 
木造と同等価格のRC住宅  
家選びに必須の13の検討課題   


いいなと思ったら応援しよう!