保健体育の先生だった私が「生理休暇」を妊娠するまで知らなかった話
白状します。
私は16年間、中学校と高校で保健体育を教えていました。体のこと、健康のこと、働くことと健康の関係。教える側の人間でした。
その私が、生理休暇という制度をちゃんと知ったのは——妊娠したときでした。
社会人になって、5年以上たっていました。
妊娠をきっかけに、母性保護の制度を調べたんです。産前産後休業、育児休業、通院のための時間……そのページの並びに、「生理休暇」がありました。
「え、あったの?」
保健を教えていた私が、です。
今日は、この「知られていない休暇」の話をします。
第1話:知らなかったのは、私だけじゃない
なぜ私は知らなかったのか。理由ははっきりしています。当時の私には、生理痛がなかったから。
生徒の生理痛が重い子に寄り添ったりはしてきましたが、自分自身は「とりあえず薬を飲んで仕事」と思ってきました。
学生のころは、生理痛でしんどいからと保健室に行く子を、羨ましく思ったくらいです。
少し眠い。腰がだるい。その程度でした。だから「生理で休む」という発想自体がなく、制度を探す理由もなかった。誰かが使っているのを見たこともありませんでした。
調査を見ると、これは私だけの話ではありません。
生理休暇を取らない理由に「制度があることを知らなかった」と答えた人が約1割います(※1)。そして勤め先の規模によって、そもそも制度が見えるかどうかも変わります。従業員1,000人以上の会社では約7割が「生理休暇がある」と認識している一方、9人以下の会社で4人に1しか認識していません(※2)。
1947年、労働基準法に書かれた権利です。それから約80年たって、「存在を知らない」人がまだいる。制度は、知られていなければ、ないのと同じです。
第2話:出産後、私の生理は別人になった
話は続きます。
出産のあと、私の生理は変わりました。あんなに軽かった生理痛がひどくなったので。
頭痛、腹痛、発熱……生理前の1週間から終わるまで、約2週間、月の半分を生理の不調に悩まされることになったのです。
これ、実は珍しいことではありません。出産や年齢を境に、生理の重さが変わる人はたくさんいます。「私は軽いから関係ない」が、ずっと続くとは限らないのです。
ひとつ添えておくと、生理痛が急に重くなった場合は、子宮内膜症や子宮腺筋症などの病気が隠れていることもあります。「体が変わったな」と感じたら、婦人科で相談してみることも大切です。
そこで私は、妊娠時に覚えたあの制度を、初めて使うことになりました。
使い方は、自分なりにこう決めていました。「半日頑張ろう。半日は、休もう」
午前中の授業はやりきって、午後は休ませてもらう。丸一日休むほどではない、でも一日中は無理。そんな日にちょうどよかった。
——ここで、意外と知られていないことをひとつ。生理休暇は、会社によっては半日単位・時間単位で運用されている場合があります(※3)。「1日休むほどじゃないから」とためらっている人こそ、勤め先の制度を一度確認してみてください。
す
第3話:使えない理由は、体ではなく「空気」
さて、前回の記事で書いたとおり、生理休暇の取得率は0.9%(2020年度・※1)。
なぜ使われないのか。調査がはっきり教えてくれています(※4)。
「男性上司に申請しにくい」……61.8%
「利用している人が少ないから申請しにくい」……50.5%
「休んで周囲に迷惑をかけたくない」……36.2%
見てください。「生理が軽いから必要ない」が1位ではないんです。使えない理由は、体の問題ではなく、職場の空気の問題。
労働組合のアンケートでは、職場に生理への理解が「ない」と答えた人が6割にのぼります(※5)。さらに、生理休暇を有給にするか無給にするかは会社の判断に任されていて無給としている企業も多いのが現状です(※2)。「無給で、しかも言い出しにくい」——使われないのは、当然かもしれません。
自由記述には「痛み止めを飲めば働ける」という声もありました(※4)。それは強さでもあるけれど、「薬でしのぐのが当たり前」の職場と、「つらい日は休めるのが当たり前」の職場、どちらを娘たちに残したいか、という話でもあります。
い、
第4話:名前を変えたら、取得が2倍になった会社
ここから、希望の話です。
ある会社は、生理休暇の名前を「エフ」に変えました。申請するときに「生理です」と言わなくていい。しかも対象を生理に限らず、更年期の不調などにも広げた。すると、取得日数が2倍になりました(※6)。
ほかにも、「ウェルネス休暇」として男女とも使える形にした食品メーカー、「Her Day Leave」と改称して社内イベントで理解を広げた会社F休、M休、エル休……各社が工夫を始めています(※6)。
名称や制度設計を見直し、周知を重ねたことで、取得が約2倍になった。
ここから分かるのは壁になっていたのは制度そのものだけでなく、「生理」と口に出しにくい職場文化でもあったということです。80年前に作られた立派な制度は、令和の工夫でようやく息を吹き返しつつあります。
おわりに——「知らなかった」を、次の世代に引き継がない
私の反省はひとつです。
保健を教える立場だったのに自分の体に必要になるまで、制度に出会えなかったこと。そして思うのです。生理痛がない人こそ、知っておいてほしい。体は、出産で、年齢で、ある日変わるから。
そしてもうひとつ。この記事を読んだあなたが管理職なら、部下に「そういう制度があるよ」と一度言葉にするだけで、あなたの職場の「言い出しにくさ」は確実に下がります。使うかどうかは本人が決めること。でも知っているかどうかは、周りが変えられるのです。
娘たちが働き始めるとき、「生理休暇?ああ、普通に使ってるよ」という職場になっているといい。
そのために今できるのは、まず、この制度の名前を食卓で口に出すことかもしれません。
あの日の保健の授業では時間が足りなかった話を、これからも少しずつ書いていきます。
る、た、
出典
※1:生理休暇の請求率0.9%・取らない理由…厚生労働省「働く女性と生理休暇について」 https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001150877.pdf
※2:企業規模による認識差・有給/無給の現状…東京都「働く女性のウェルネス向上委員会」調査 https://www.women-wellness.metro.tokyo.lg.jp/questionnaire/05/ /日本の人事部 https://jinjibu.jp/keyword/detl/1447/
※3:半日・時間単位の運用…厚生労働省の解釈では暦日単位に限らず半日・時間単位での運用も差し支えないとされる(実際の運用は各社の規定による)
※4:取得しない理由の調査(男性上司に申請しにくい61.8%ほか)…労働政策研究・研修機構(JILPT)ビジネス・レーバー・トレンド2022年12月号 https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2022/12/k_03.html
※5:職場の理解「ない」6割…神戸新聞(労組アンケート) https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202209/0015637337.shtml
※6:企業の名称変更事例(エフ休で取得2倍ほか)…神戸新聞 https://www.kobe-np.co.jp/news/economy/202404/0017597926.shtml /東京都・企業の取組事例 https://women-wellness.metro.tokyo.lg.jp/examples/21/
※体調がつらい場合は我慢せず、婦人科の受診もご検討ください。
分。す、
人はた「
暇「
