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母のために、私のために──受験期の心の選択 🔥1

中学校3年生になり、受験の時期がやってきた。

この頃は誰かにいじめられたり、
親に激しく叱られたりすることはもうなかった。

2年生のときに私を攻撃した女の子たちも
別のクラスになった。
日々はそれなりに穏やかだった。

仲のいい友達も数人いて、教室の片隅で笑い合う時間は、それなりに楽しかった。

でも、心の奥にはまだ傷が残っていた。

小さな無視や冷たい言葉の積み重ねが、
私を少しずつ人間不信にしていた。

「どうせみんな私のことなんて嫌いなんだろう」
「誰も私のことをわかってくれない」

ふとした瞬間に、そんな考えが心に浮かんだ。
将来の夢も希望も、私にはなかった。

ただ、高校生になったら青春っぽくて楽しそうだな、という漠然とした憧れだけはあった。

家には妹たちもいて、私立に行かせる余裕は無い、と言われた。
私自身も特に行きたいとは思わなかった。

────

友達は近くの商業高校を受験する人が多かった。
「あなたの成績なら商業高校で大丈夫」と先生に言われた。

勉強は嫌いだし、別に目標もなかった。
商業高校でいいかなと、ぼんやり考えていた。

ある日、母が私に尋ねた。
「高校はどこを受けるつもりなの?」

「友達も商業高校に行くし、先生も大丈夫って言ってたから、商業でいいかな」

母は少し黙って考え込んでから、静かに言った。
「進学校が いいと思うよ。行けば?」

その瞬間、心の中で何かが弾けたような気がした。

そうかもしれない。
何故かそう思った。

お母さんが、そう言うなら。
お母さんが喜ぶなら。

正直、進学校に特別な魅力は感じていなかった。

制服が商業より少し可愛い。
それだけの理由で、私はいつの間にか「進学校に行きたい」と思うようになった。

先生からは、合格は五分五分と言われた。

────

それから、私は勉強を始めた。
毎日朝9時から夜12時まで、台所のテーブルで
ひたすらノートに向かった。

鉛筆の音とストーブのパチパチという音だけが静かに部屋に響く。

必死だった。落ちる訳にはいかなかった。
そのまま机に突っ伏して寝てしまうこともあった。

勉強をしている間も、心のどこかで問いかける自分がいた。
「本当に私は、進学校に行きたいのだろうか?」

いや、母が喜んでくれるなら、私は頑張ろう──そう思いなおした。

受験当日、緊張で手が震えた。
答案用紙の紙の手触りや、鉛筆の軋む感触が今でも思い出せる。

思ったよりできた。
いつも苦手な数学。
自己採点では、低く見積っても94点。
理科も90点の自己採点だった。

合格発表の日、結果発表を見に行く間、
緊張で、吐きそうだった。
定員が減らされ、受かるかどうかギリギリだった。

── 私は合格していた。

胸の奥がじんわり熱くなる。偶然かもしれない。
でも、努力が形になった証だと思った。

その一方で、心の片隅で疑問もあった。
「私は本当に進学校に行きたかったの?」

母のために頑張ったのか。
自分のために頑張ったのか。
理由はよくわからなかった。

でも、合格した瞬間、頑張った自分を少しだけ誇れた。

────

「お母さん、合格したよ!」
駅の公衆電話から、自宅にいる母に電話をかけた。
早く伝えたかった。

「わぁ!すごいね、みのり!やったね!!
おめでとう!」

今まで聞いたこともないような、明るい声だった。

自宅に帰ると、母は私の手を取り、
私の合格を喜んでくれた。
私は、母の笑顔を見て、それだけで胸が熱くなった。
頑張ってよかった。心の底からそう思った。

母は笑顔で言った。

「ほんとに良かったね!
進学校に行くってあなたが言った時は、お母さん正直落ちると思った。本当はダメだと思ってたんだよ。
でも受かってよかった。
お母さん、あなたが落ちる夢を何度も見たの。

落ちて泣くと思って、夜も眠れなかったよ。」

私の目は左右に揺れた。動揺した。
心で何かがしぼむ感覚があった。

落ちると思った…?

確かにギリギリの合格だったかもしれない。
でも、それを今言う必要があったのだろうか。

「……あー、うん。ありがとう。」

口ではそう言ったけれど、心の奥には小さな違和感が残った。
喜びの後ろに、わずかに痛みのようなものが忍び込んでいた。

それが何なのか、自分でもうまく言えなかった。
母は、続けた。

「さて、これからだよ。
もっともっと勉強頑張らないと。
あなたが行くって決めたんだからね。
進学校は、ついて行くの大変だよ。
みのりは勉強する習慣が身についてないから。」

すっかり心が重くなった。

だけど、何が重くしてるのか私には分からなかった。

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🫧この形の私

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この出来事を、別の視点で読む

▷  なぜ私は喜べなかったのか(考察)

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▶ ︎  次の出来事へ(美味しかったあの肉の話)

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