あの肉を、そのまま食べた日─ それが何かも知らずに
あれを食べたとき、
私は、それをただの「肉」だと思っていた。
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学校から帰ると、私はカバンを置き
一直線に台所へ向かった。
その日のテレビをつけ、食べながら何かを探すのが日課だった。
冷蔵庫を開け、自分の食べるものを物色する。
いつもなら袋麺や食パン、母が作った肉料理の
残りがある。
でも、その日はあまり良いものが見つからなかった。
「食べるもの、ないなぁ」
そう思って野菜室を覗いたとき、見慣れないものが目に入った。
ラップに包まれた、ピンク色の巨大な物体。
肉の塊だった。
ものすごく大きい。
長さは40センチほど、高さも15センチくらいある。
見たことのない、きれいなピンク色のお肉。
精肉店のショーケースに、そのまま置いてありそうな塊だ。
「これを分厚く切ってステーキにしたら、絶対おいしい」
私はそう確信した。
野菜室から取り出す。
おっ、結構重いな
ずっしりとした肉の重みを感じ、口元が自然にほころぶ。
重いけど、嬉しい重さだ。
調理台の上に肉を置く。
ラップをくるくると外すと、ピンクの塊が見えてくる。
肉に向き合い、正面から目測。
家族にバレず、尚且つ食べ応えのある厚み。
片目を閉じて、職人のように狙いを定める。
よし、あそこだ。
狙い厚さのポイントに一気に包丁を突き立てた。
切りにくかったが、何とか切れた。
恐ろしいほどの厚みだった。
その大きさに、私は満足した。
これにかぶりつく瞬間を想像してワクワクした。
食べたことがばれると怒られるかもしれない。
そう思って、残りの肉は念入りにラップで包み直し、元の場所へ戻した。
遠くから眺める。
減っているのは、あまり分からない。
大丈夫。
目の前には、見た事がないほどの
超厚切り肉が鎮座している。
フライパンに油をひき、火をつける。
ジュウ、という香ばしい音と匂い。
「いい時間だなぁ」
テレビをつけ、しばらく焼く。
裏返すと、いい感じに焦げ目がついていた。
待ちきれない。
皿と箸を用意する。
フォークとナイフなんていらない。かぶりつけばいい。
冷蔵庫から塩胡椒を出し、少し濃いめにかける。
足りなければ醤油でもかけよう。
焼き上がった肉を皿に滑り込ませ、こたつへ運ぶ。
一口かじる。
ほぅ。
ため息が漏れる。
なんて美味しいんだろう。
噛む度に、肉汁が溢れ出す。
中は、刺身のようだ。
お皿の上の、かじりかけのお肉を確認した。
憧れのステーキみたいだった。
「上手に作れた」
そう思いながら、巨大な肉にかぶりついた。
中はほとんど火が通っていなかったけれど、レアでおいしいと思った。
ガツガツ食べて、あっという間に完食。
絶対にバレたくなかったので、お皿と箸、フライパンを念入りに洗う。
台所と居間の窓を全開にし、空気を完全に入れ替えた。
普段拭きもしないのに、布巾で丁寧に拭いて、元通りに片付ける。
窓を閉めて、匂いの確認。
よし、分からない。
その後、こたつに座ると、満足してテレビを見ていた。
やがて、親が帰ってきた。
「今日はお肉にしようかな」
「親戚から、いいお肉をもらったんだよ」
——あれか、と思ったけれど、黙っていた。
私は母の方を見ずに答えた。
「楽しみ」
それだけ言うと、テレビに集中した。
あまり言いすぎると、ステーキの件がバレてしまいそうで、黙っていた。
手伝ってと言われ、妹と一緒に台所へ行く。
母は豚肉を角切りにし、キャベツ、もやし、人参と一緒に炒めていた。
お肉はそのままがいいのに。
内心そう思った。
絶対、ステーキにした方がおいしい。
もう一回、あれが食べたい。
私は初めて見るような顔で言った。
「すごいお肉だね。美味しそう。
野菜は野菜で炒めて、お肉はステーキにした方がよくない?」
すると母は、少し呆れた顔で言った。
「あんた、分かってないね。これ豚肉だよ。
中まで火を通さないと、お腹に虫が湧くんだよ」
血の気が引いた。
これって、豚肉なの?
……ステーキって、豚肉はダメなの?
私は豚と牛の区別なんてついていなかった。
肉の塊=ステーキ、という認識だった。
「お腹に虫が湧く」
その言葉に、強烈な恐怖を覚えた。
でも、「さっき、超厚切りにして、ほぼ生で食べました」とは言えず、黙っていた。
急に、お腹のあたりがもぞもぞする気がした。
お腹の中に、何かがいるかもしれない。
でも、私はそれを誰にも言えなかった。
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🫧この形の私

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