「電源どこ?」で、プライドが崩れた日 🔥2
私は、親元から離れたかった。
ただ、それだけの理由で生きていた。
何がしたいとか、
どんな大人になりたいとか、
そんなことを考える余裕はなかった。
一人で生きたい。
逃げたい。
親から、離れたい。
それだけだった。
簡単には帰れない距離。
それが、何よりの条件だった。
────
私はパソコンの専門学校を出ていた。
理由は単純で、「パソコンなら親も納得するだろう」と思ったからだ。
実際には、アルバイトばかりしていて、
パソコンの知識はほとんどなかった。
それなのに、専門職に就いてしまった。
入社初日は順調だった。
研修も問題なくこなせた。
自分の意見を言うことは、昔から得意だった。
やれる。
私はそんな根拠のない自信に満ち溢れていた。
けれど、本当の試練はここからだった。
────
その翌日。
「会社の見取り図を作って」
そう言われて、私はパソコンの前に座った。
……固まった。
カチャカチャカチャ。
周りの新入社員たちは、
当たり前のように作業を進めている。
電源、どこ?
これ、どうやって入れるの?
探す。
ボタンらしきもの。
それっぽい穴。
ない。
見つからない。
汗が出てきた。
嫌な汗だった。
これは、致命的だ。
周りを見回す。
みんな、画面に向かい、
キーボードとマウスを使って、
黙々と何かをしている。
――うわぁ。
涙?
違う。
泣いてる場合じゃない。
え、まじでどうしよう。
指の先が冷たい。
頭皮が泡立つような感覚。
どうしたらいい?
必死に考える。
……いい案なんて浮かぶわけがない。
もう、いいや。
パソコンの会社に就職して、
パソコンの電源の入れ方が分からない。
これ以上の恥って、あるだろうか。
ない。
あるわけがない。
だったら、もう、なるようにしかならない。
私は思い切って、隣で作業している人に声をかけた。
「ごめん。パソコンの電源、どこだっけ?」
彼は、目を見開いた。
一瞬、口元が歪む。
そんなことも知らずに、ここに来たの?
その顔だった。
心が折れかけた。
でも、折れてる場合じゃない。
「ごめんね。教えて」
できるだけ軽く。
できるだけ丁寧に。
彼は、教えてくれた。
「ありがとう。
……分からなかったら、また聞いてもいい?」
そう言うと、彼は笑って頷いた。
「いいよ。OK」
本当に、ありがたかった。
教えてもらいながら、
私はなんとか作業を終えた。
できた。
「ありがとう」
隣の彼にそう声をかけた。
「どういたしまして」
そう言ってくれた。
────
できない自分が恥ずかしかった。
隠したい、見られたくない。
そんな気持ちも渦巻いていた。
それでも、ここから先は
そうすることでしか進めない。
何となく、そう思った。
私はひとつ決めた。
できないなら、
つまらないプライドなんていらない。
そんなもの、かなぐり捨てて、
「分かりません」「教えてください」と言おう。
その方が、ずっといい。
────
そのあとも、
私は何度も、同じように止まった。
分からない。
できない。
どうしたらいいかも分からない。
一旦、苦しくなる。
吐きそうになる。
かっこ悪い。
嫌だ。
見られたくない。
でも、やるんだ。
決めたでしょ、私。
そして、息を吸い、言葉を吐き出した。
「分かりません」
「教えてください」
私は、格好悪かった。
「私って、やっぱりダメなんだな」
昔の言葉が首をもたげる。
私は首を横に振った。
苦しくて、当たり前。
ダメなのも知ってる。
それが、私に残された唯一の強みじゃないか。
分からなければ、聞け。
そのまま、足を進めた。
一瞬でも止まったら、もう聞けなくなる気がした。
そして、次の日も会社に向かった。
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🫧この形の私

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この出来事を、別の視点で読む
▷ 私はなぜ追い込む形を作ったのか(考察・無料)
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