買えない私が、選んだ虹色の飴 🔥4
小学校5年。
学校が終わるとすぐに、仲良しのマミちゃんと、
ユミちゃんの席に行く。
「今日遊べる?」
「もちろん!」
マミちゃんとユミちゃんと私。
3人並んで、いつもの道を歩く。
その通りには、一軒の文房具屋さんがあった。
私たちは、扉を開け、中に入っていく。
それも、いつもと同じルートだった。
店内には、おばちゃんが1人。
正面がショーケースになっていて、
色々な文房具が置かれていた。
そして、ショーケースの右側。
そこに私たちのお目当ては、あった。
駄菓子だ。
────
「今日はこれ、コーラガム!」
マミちゃんが、見せてくれる。
「いいね、それ美味しいよね」
「私は、これ!」
ユミちゃんは、
ソースカツの袋を抱きしめるようにして笑った。
「えー!すごい。今日はご馳走だね」
私はぴょんぴょん飛び跳ねた。
「みのりちゃんは?」
聞かれて、一瞬言葉につまる。
私は笑顔で言った。
「あまり欲しいの、ないや」
3人で店を出た。
────
文房具屋の横にあるベンチ。
3人でそこに座る。
私は、2人が今日の"戦利品”を堪能するのを
眺めていた。
顔は、ニコニコしていた。
「今日の理科の授業、先生面白かったよねぇ」
ユミちゃんがぱあっと顔を輝かせる。
「あ、あの実験のときでしょ!」
「その後の3人で実験した時の、バネ!もうお腹ちぎれるかと思った!!」
言いながら、3人で大爆笑する。
「これ、食べる?」
マミちゃんがコーラガムを
小さくちぎって、私とユミちゃんに差し出した。
「そうだね!甘いのと、辛いのでちょうどいいね」
ユミちゃんが言って、ソースカツを小さくふたつ、ちぎる。
手の中には、小さくちぎられた
ガムと、ソースカツ。
私の横では2人が「おいしいね」と笑っていた。
私はソースカツの欠片を口の中に入れた。
サクッ
甘辛いソースの味。
噛み締めた時の衣のサクサク感。
噛むと、味がぎゅっと出てくる。
それは、ほんの小さな欠片だったけれど、
大切に噛み締めた。
「うわぁ、ソースカツおいしいね」
私は大袈裟に騒いだ後、ガムを口に入れる。
甘い。
噛むごとにぎゅっとコーラの味が溶けだす。
「ありがとう」
私は2人に言った。
「みのりちゃんも買えばいいのに」
ユミちゃんが言う。
「いや、私はほんのひと口でいいんだ。
お菓子はそんなに食べないんだよね」
背中に、変な汗のようなものが滲んだ気がした。
口の中に残る、味が薄くなったガム。
それを口の中でたぐり寄せ、
歯に当てて噛み続ける。
足の指をぎゅっと丸めた。
────
その日の夜。
仕事から帰宅した母の背中に話しかける。
「お母さん」
「私、駄菓子買いたい」
「20円ください」
母は振り返ると、うんざりした顔で言った。
「はぁ?何言ってんのあんた。
勉強もまともにしないくせに」
「でも、ユミちゃんと……」
言いかけた時、被せるように言われた。
「買い食いなんて、不良みたい。
あんたには、ガッカリ」
私は、それ以上何も言えなかった。
────
その次も、そのまた次も。
同じだった。
お菓子は買えず、お金も貰えない。
私はいつも、外側だった。
────
みんなに、返したい。
私も、渡したい。
喜ぶもの。
そろばんの日。
ひとりで歩く道。
いつもの文房具屋の前を通る。
何気なく店に目をやる。
その時、私の視線が止まった。
虹色。
色とりどりの綺麗なあめ玉が おひさまの光にキラキラ輝いて見えた。
わぁ、きれい。
思わずガラスケースに駆け寄る。
――これを、みんなに渡せたら。
想像した。
マミちゃんや、ユミちゃん。
私。
みんなの笑顔。
いいな。
でも、どうやって買おう。
しばらく店の前で立ち止まる。
その時。
手に持っている、そろばんのカバン。
月謝袋。
それが目に入った。
自分で食べるつもりはなかった。
ひとつ残らずみんなに配る。
その時の私の頭の中には
同じ言葉がぐるぐる回っていた。
貰ったものを、返さないと。
恩返ししないと。
お菓子を恵んでもらう私から、
お菓子をあげる私。
貰うだけじゃない、返す私に。
────
夕日に茶色い袋が明るく見えた。
私は文房具屋のドアを開けた。
カラカラカラ……
そのあめ玉は、小さな袋に入っていた。
手に取る。
やっぱりキレイ。
値札を見る。
200円。
高い。
けど。
私はその場で月謝袋から1000円を取り出し、
袋をカバンにしまった。
お店の人にも、気づかれたくなかった。
普通に買いに来た子。
そんな顔をした。
「これ、ください」
1000円札とあめ玉をカウンターに置く。
おばちゃんは、いつもの笑顔だった。
「いらっしゃい、200円ね」
────
翌日。
いつものように3人で歩く。
「今日はね」
「マミちゃんとユミちゃんに
プレゼントがあるんだ」
「え?なになに?」
2人は嬉しそうにこちらを向く。
「いつものとこでね」
文房具屋の前を通り、いつものベンチへ。
そこで、私はランドセルから取り出した
虹色のあめ玉の袋を開けた。
夕日に照らされて小さな虹色がきらきら光って、 袋の中で、まるで宝石みたいに並んでいる。
「わあ!」
マミちゃんが目を輝かせた。
ユミちゃんと、マミちゃんが手を伸ばし、 あめ玉を受け取る。
「たくさんあるから、みんなで食べよ」
そこにいた同級生にも、分けた。
袋が空になるまで。
ユミちゃんやマミちゃん、
今までお菓子をくれた子には
たくさん渡した。
みんな、喜んでくれた。
いつの間にか、私の周りには
たくさんの同級生たちが集まっていた。
「みのりちゃん、ありがとう!」
ユミちゃんとマミちゃんも楽しそう。
「私はオレンジ味だった」
「私、イチゴ!」
「キレイ」
マミちゃんが、太陽にあめ玉を透かす。
私の目にもキラキラと光って見えた。
────
「みのりちゃん、食べないの?」
マミちゃんがあめ玉で頬を膨らませながら
首を傾げる。
「私はいい、それよりみんなに食べて欲しくて!」
笑顔で返した。
結局、全てのあめ玉を人に渡した。
空になった袋を見つめる。
私は袋を握りしめて、笑顔で空を仰いだ。
そして、みんなと別れたあと、
空の袋を、駅のゴミ箱にそっと捨てた。
────
その1週間後の夜。
家の電話が鳴った。
母が電話を取る。
「はい、お世話になります。はい、はい。
……え?
月謝は持たせましたが」
その言葉にドクン、と心臓が跳ねる。
聞かなくても、何の話か分かった。
「はい、はい、分かりました。
ありがとうございます」
母は静かに受話器を置いた。
「みのり」
ゆっくり振り向く。
そこには、怒りに満ちた母の顔があった。
こたつの向こうには、父がいた。
言わないで、やめて。
「あんた、そろばん行ってないの?」
「あと、月謝払ってないって言われるんだけど、
どういうこと?」
私は、ノロノロと立ち上がった。
「どういうことだ」
父が睨む。身がすくむ。
「言え!!!」
父の恫喝に、飛び上がる。
観念した。
「お菓子を、買いました……」
涙が溢れる。
父がまくし立てた。
「それは泥棒だろうが」
「泥棒はな、犯罪だ」
「一度やった人間は、またやる」
「だから、お前は——」
「犯罪者なんだよ」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
泣きながら、
目の前にあるアコーディオンカーテンのゆらゆらが目に入る。
黄色い。
シミがある。
考えている訳でもないのに、目に入る。
その先に、母のあきれた顔があった。
「やっぱりね」
「お母さん、そうなると思ってた」
泣いていた視界が黒く歪む。
犯罪者。
やっぱり。
私の目の上に鉄の塊が落ちたような衝撃。
目の奥が黒くくぼんでいく感覚。
思考は止まり、
そのまま闇に落ちた。
────
翌日。
泣きはらした目で、学校へ向かう。
歩きながら、あのベンチのことを思い出す。
飴を渡したときの、みんなの顔。
「ありがとう」の声。
あのあめ玉は、残っていないのに
少しだけ甘い香りがした。
あの日。
私の手の中から、あめ玉がなくなっていく。
誰かに渡すたびに、自分の立っている場所が
少しだけ変わる気がした。
最後に、私の手元には空の袋だけが残った。
それを見て、私はほっとした。
今も覚えている。
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🫧この形の私

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