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大きな絆創膏と、最後の乾杯

一人暮らしを終えるまで、あと一週間。

会社はすでに退職していて、
もう仕事に行く必要はなかった。

その頃、私は皮膚科に通っていた。
顔のニキビ跡を消したくて、レーザー治療を受けた。

その結果、私の左頬には、
大きな絆創膏が貼られていた。

外に出るときはマスクで隠していた。

別に人に会う予定もないし、
もう、誰にどう見られるかを気にする必要もない。
そう思っていた。

そんなとき、スマホが鳴った。
会社の後輩の、オカノくんからだった。

「忘れ物でもしたかな」

そう思いながら出ると、
仲間内だけなんですけど、と前置きした上で、
軽い調子でこう言われた。

「みのりさんと、みんなで最後の飲み会。
さようなら関西ってことで
飲みに行こうって話してるんですけど、来れます?」

さようなら関西。
なんじゃそりゃ。

ちょっと笑った。

私はもう退職している。
別に連絡をしなくても問題ない関係。

それなのに、
わざわざ私のために連絡をしてくれる。
その事実が嬉しかった。

仕事ができなくて、
迷惑ばかりかけたと思っていた。

でも、もしかしたら
ほんの少しだけだけれど、
「邪魔」ではなかったのかもしれない。

行きたい。
でも、頬の絆創膏が気になった。

正直に言った。
「今、人に会えない感じなんだよね。
ほっぺにでっかい絆創膏があって」

オカノくんは、少し笑って言った。
「また変なことしてるんすか。
まぁこのメンバー、気にする人いないっすよ。
“何その絆創膏”って言われるくらいだと思うんで、行きましょ」

さらに続けて、
「店、俺が予約しました。
焼肉じゃないです。肉はありますけどね」

この人本当に私のこと分かってるな、と思った。

メンバーを聞いて、
私は二つ返事で「行く」と答えた。

退職してから見るみんなは、
少し違って見えた。

それでも変わらず手を振ってくれる人たちがいて、
それが、どうしようもなく嬉しかった。

その日は、最初に言った。
「今日、ほっぺに絆創膏あります。
皮膚削ったんで。
気になると思うけど、突っ込まなくていいです」

突っ込まれるのは分かっていた。
でも、言わずにはいられなかった。

マスクを外すと、
「でっか!」
「想像以上やな」
そんな声が上がった。

でもすぐに、
「まぁ気にすんな」
「お前のほっぺがどうなってても関係ないわ」

その空気のまま、
私は肉を食べて、笑って、
本当に楽しい時間を過ごした。

そのあとカラオケに行き、
いつもの曲を歌った。

クマノさんは、
とんでもなく歌が上手かった。

クマノさんとデュエットするのも、
いつもの流れだった。

ちょうどその頃、
クマノさんは、結婚が決まっていた。

私は思いきり歌って、最後に言った。

「クマノさん、ご結婚おめでとうございます」

拍手が起きた。
クマノさんは、照れながら笑っていた。
「もうええわ!俺の祝いちゃうわ!」

それでも、私はちぎれるほど手を叩いた。
嬉しかった。

みんな、笑っていた。

オカノくんが、写真を撮ってくれた。

そこに写っている私は、
両手で頬を覆い、絆創膏を隠している。

でも、
涙が出るほど笑っている顔だった。

────

私はあの頃の時間を、
今でも時々思い出す。

苦しかった。
しんどかった。

消えたかった日も、何度もあった。
泣いている私は、想像もしなかった。

みんなに囲まれ、
お腹が痛くなるまで笑っている私を。


削れていても、
絆創膏を貼ったままでも、
笑える日は、あるのかもしれない。

──────────
🫧この形の私

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