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青い薔薇

おば、父、母、そして義祖母の荷物が
ぎゅうぎゅうに詰め込まれたタンスに囲まれて、
私は毎日寝起きしていた。

好きな空間ではなかった。
幸せでもなかった。

隣の妹の部屋に比べると、
ずいぶん殺風景で、
自分の居場所がない部屋だった。

私はこの家を”自分の家“だとは
思っていなかった。

ただの、夜に寝る場所。
そう言い聞かせていた。

タンスに囲まれた空間。
ベッドも、絨毯も、すべて私のものではない。

その中で唯一、
自分のタンスがある一角だけが、私の領域だった。

腰ほどの高さのタンス。
その上に、一人暮らしの時に使っていたラグを敷き、
ガラスのオーナメントを飾る。

ささやかな、私の空間。

─────

ある年のクリスマス。
私は、当時の彼氏「基くん」とデートをしていた。

基くんは、自由で軽い。
近くにいると、私の心も軽くなるようだった。

手をつないで、街を歩く。
何も買わなくても、どこへ行かなくても、
二人でいるだけで楽しかった。

つまらない話をして、
イルミネーションの中で大笑いする。

帰りの車の中、基くんが言った。

「プレゼント、迷ったんだけどさ」

そう言って差し出されたのは、
一輪の青い薔薇だった。

青い薔薇なんて、
この世に存在しないはずなのに。

彼は青が好きだった。
私も、彼には青が似合うと思っていた。

いつの間にか、
青は二人の中の「特別な色」になっていた。

染料で染められたのだろう。
茎も葉も、花びらも、深い藍色だった。

「すごくきれい。ありがとう」

私はそう言って、
その花に顔を近づけた。

「大切にするね」

幸せな気持ちのまま、家に帰った。

どこに飾ろう。
部屋を見渡し、
私はタンスの上の壁に、そっと吊るした。

毎朝それを見て、
仕事に出かけた。

帰ってきて、また眺めた。

それだけで、十分だった。

─────

年が明け、正月になった。
家は親戚で溢れ、
にぎやかな日々が続いた。

正月が終わり、
親戚が帰り、
家に残ったのは義祖母だけだった。

その日も仕事を終え、私は帰宅した。

階段を上り、
自分の部屋のドアを開けた瞬間、
息が止まった。

タンスは斜めに動かされ、
オーナメントは床に散らばり、
布団は乱れ、
引き出しは開け放たれていた。

部屋の中のものが全て巻き上げられ、
足の踏み場がない。

強盗が入った後みたいだった。

足を一歩、部屋に入れる。

音がしない。
頭が真っ白になる。

他の部屋を確認した。
母の部屋も、妹の部屋も、物置も、異常はない。

荒らされているのは、
私の部屋だけだった。

部屋に戻り、立ち尽くす。

そのとき、
タンスの下に落ちている
透明なフィルムが目に入った。

しゃがみ込み、震える手で
そのフィルムを手に取った。


青い薔薇だった。


花は砕け、
茎は折れ曲がっていた。
床には粉々になった薔薇の花の破片が
散らばっていた。

息が震え、
涙が、勝手に落ちた。

どう見ても、
元には戻らなかった。

涙を拭くと、
私はそれを拾い上げ、
そっとタンスの上に置いた。

呆然と部屋を出ると、
義祖母が階段を上がってきた。

「……おばあちゃん、
私の部屋がすごいことになっているんだけど」
私は声を必死に絞り出した。

「ああ、探し物があって。
見つからなかったんだけど」

……えっ?

「これ、おばあちゃんがやったの?
嘘でしょ」

それしか出てこなかった。

義祖母は迷惑そうな顔をして言った。
「あんたがものを置いてるせいで、
私のタンスが開けられなくて
本当に苦労したんだから」

私は頭に血が上るのを感じた。

「私の部屋、ぐちゃぐちゃになってるんだけど!
なんで勝手に入ったの!?」

「彼氏からもらったバラの花が壊れてる!
なんでそんなことしたの!?」

最後の方は、泣き声になっていた。

すると祖母は少し怒ったように言った。
「あんたの部屋が汚いからでしょう。
良い年の女があんな汚い部屋の中で
恥ずかしくないのかね」

もう言葉が出なかった。

何か言いたいけれど、
喉まで出かかった何かは出てこない。

私は階段を駆け下り、
荷物をつかみ、
家を飛び出した。

向かったのは、基くんのところだった。

──────────
🫧この形の私

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