通帳を並べた日 🔥1
この頃から、私たちの間には
少しずつ結婚の話が出始めていた。
付き合い始めた頃から、
私と基くんは「恋人」というより、
家族のようだった。
一緒にいることに理由はいらなくて、
結婚という形にも、特別な覚悟は必要なかった。
ただ、私は彼より年上だった。
「いつか」ではなく、
「そろそろ」を考える年齢だった。
そして、その話が現実になろうとしたとき、
一つだけ、はっきりしていることがあった。
私には、お金がなかった。
車の修理費が重なり、
それまで積み上げてきたものは、きれいに消えていた。
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私は、基くんに言った。
「結婚式どうする?」
私たちは通帳を持ち寄り、
テーブルの上に並べた。
二人で黙って見つめたあと、
「あ、これは」
無理だった。
二人のお金を合わせても、
結婚できると思える金額には、
到底届かなかった。
給料は安い。
現実的な話をすればするほど、
未来が遠のいていくようだった。
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「オッケー。これからだ」
基くんは、1枚のパンフレットを私の前に置いた。
「これで貯めよう」
それは、毎月積み立て型の結婚式共済だった。
ふたりで加入し、
コツコツと積み立てを始めた。
一人三千円ずつ。
たった三千円。
けれど、それが私たちにできる精一杯だった。
一年後には結婚できるかもしれない。
そう思わなければ、
前に進めなかった。
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私は、どうしても結婚式がしたかった。
贅沢がしたいわけではなかった。
友達を呼んで、
ちゃんと祝ってもらう。
自分が、ここまで生きてきたことを、
一度きちんと肯定してもらいたかった。
人付き合いは得意ではない。
それでも、
イベントを考えるのは好きだった。
段取りを組み、
準備をして、
誰かが笑ってくれる瞬間を想像するのが、
好きだった。
だから、そのためのお金を稼ごうと、
必死に働いた。
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父のご飯作りをやめて、
生活は少し上向いたように思えた。
けれど、結婚の話が出てからまた元通りになった。
父にお金を渡すと、
残るお金はわずかだった。
その中で、
車を維持し、
自分の食事を用意し、
結婚資金も貯めなければならなかった。
何かを削れば、
何かが足りない。
どこを切っても、
痛みが出た。
結婚したい気持ちは、確かにあった。
彼と一緒に生きたいという気持ちも、
本物だった。
私は決めた。
結婚する。
そのためなら、
何でもする。
そして私は、
また、ごまかしながら生きることを選んだ。
家に入れるお金を少しずつ調整し始めたのだ。
父に渡していた生活費。
月10万円の給料のうち、
3万7千円。
払ったふりをして、
2〜3か月渡さないこともあった。
父は深く追及しなかった。
たまに、
「今月持ってきたか」
と聞かれることはあった。
私は笑顔で嘘をついた。
「何言ってるの、渡したよ」
誤魔化すことには慣れていた。
そうでもしなければ、
生きてこられなかったからだ。
それでも、
毎月ギリギリだった。
結婚は、はるか遠く、
まだ未来は見えなかった。
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同時に、私の中では別の考えも浮かんだ。
転職した方が、
早いのかもしれない。
もっと給料のいい会社へ行けば、
結婚も少し近づくのではないか。
けれど、その考えは、
いつも途中で止まった。
「ほら、大したことなかった。」
「いなくなってくれて清々した。」
そう言って笑う人たちの顔が、
頭に浮かんだからだ。
どんな理由があっても、
今辞めたら、
逃げたことになる。
私は、歯を食いしばり、働き続けた。
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🫧この形の私

