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嫌いな人に嫌われたくなかった頃

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これは、大人になった私が
あの頃の出来事を振り返り、読み解く話です。
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私はモチノさんが嫌いだった。

嫌いというより、怖かった。

何が地雷なのか分からない。

さっきまで普通だったのに、
急に怒り出すことがある。

電話は途中でブチッと切る。
理不尽なことを言われることも多かった。

私の目には、
モチノさんが私を傷つけているようにしか
見えなかった。

褒められた記憶は、ほとんどない。

当時の私は、世の中をとても単純に見ていた。

好かれているか。
嫌われているか。

その二択だった。

だから、モチノさんのこともこう思っていた。
この人は、私のことが嫌いなんだろう。

けれど、モチノさんはいつも一定ではなかった。

ある日は笑いながら話しかけてくる。

「この間のテレビ見た?」
そんな何気ない会話をしてくる日がある。

そのたびに、私は少しほっとしていた。

ああ。
会話してくれるってことは、嫌われていないんだ。

またある日、モチノさんが私の机にお菓子を置いた。

「これ買ってきてん。食べてみ。
こんなん、あんまり食べたことないやろ?」

私は大げさなくらい喜んだ。

「ありがとうございます。
美味しいです。ほんとに美味しいです!
こんなの初めてです」

「せやろ?」

そう言って、モチノさんは笑った。
その人は、普段私を傷つけてもいた。
それでも私は、また安心していた。

ああ。
やっぱり私は、この人に嫌われていない。

今思えば、不思議な話だと思う。

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私は、その人のことを嫌いだった。
できることなら、関わりたくなかった。
仕事で必要なければ、距離を置いていたと思う。

それなのに、
嫌われたくはなかった。

ある日、本屋でこんな言葉を見かけた。

「自分の嫌いな人に好かれて、
意味があるんですか?」

意味があるだろう、と思った。

誰だって嫌われたくない。
嫌われるのはつらい。
嫌いな相手であっても、それは同じだ。

当時の私は、本気でそう思っていた。

─────

けれど、心の中は少し違っていた。

私はモチノさんに好かれたかったわけじゃない。
ただ、
嫌われていない証拠 が欲しかったのだ。

自分が安全だと思える証拠。
ここにいていいと思える証拠。
私は価値のない人間じゃないと思える証拠。

それを、相手から集め続けていた。

笑って話しかけてくれた。
お菓子をくれた。
少し優しかった。

そのたびに、

私は大丈夫。
嫌われていない。

そうやって確認していた。

仕事を辞める時、モチノさんは少しだけ親切だった。
私はまた、ほっとした。

ああ。
最後まで、嫌われてはいなかったんだ。

今思えば、私が本当に欲しかったのは、
モチノさんの好意ではない。

誰からも嫌われていない、という保証だった。

私はモチノさんだけじゃなく、
私以外のほとんどすべての人に対して、

嫌われていない証拠 を探しながら生きていた。

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🫧この形の私

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