嫌いな人に嫌われたくなかった頃
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
これは、大人になった私が
あの頃の出来事を振り返り、読み解く話です。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
私はモチノさんが嫌いだった。
嫌いというより、怖かった。
何が地雷なのか分からない。
さっきまで普通だったのに、
急に怒り出すことがある。
電話は途中でブチッと切る。
理不尽なことを言われることも多かった。
私の目には、
モチノさんが私を傷つけているようにしか
見えなかった。
褒められた記憶は、ほとんどない。
当時の私は、世の中をとても単純に見ていた。
好かれているか。
嫌われているか。
その二択だった。
だから、モチノさんのこともこう思っていた。
この人は、私のことが嫌いなんだろう。
けれど、モチノさんはいつも一定ではなかった。
ある日は笑いながら話しかけてくる。
「この間のテレビ見た?」
そんな何気ない会話をしてくる日がある。
そのたびに、私は少しほっとしていた。
ああ。
会話してくれるってことは、嫌われていないんだ。
またある日、モチノさんが私の机にお菓子を置いた。
「これ買ってきてん。食べてみ。
こんなん、あんまり食べたことないやろ?」
私は大げさなくらい喜んだ。
「ありがとうございます。
美味しいです。ほんとに美味しいです!
こんなの初めてです」
「せやろ?」
そう言って、モチノさんは笑った。
その人は、普段私を傷つけてもいた。
それでも私は、また安心していた。
ああ。
やっぱり私は、この人に嫌われていない。
今思えば、不思議な話だと思う。
─────
私は、その人のことを嫌いだった。
できることなら、関わりたくなかった。
仕事で必要なければ、距離を置いていたと思う。
それなのに、
嫌われたくはなかった。
ある日、本屋でこんな言葉を見かけた。
「自分の嫌いな人に好かれて、
意味があるんですか?」
意味があるだろう、と思った。
誰だって嫌われたくない。
嫌われるのはつらい。
嫌いな相手であっても、それは同じだ。
当時の私は、本気でそう思っていた。
─────
けれど、心の中は少し違っていた。
私はモチノさんに好かれたかったわけじゃない。
ただ、
嫌われていない証拠 が欲しかったのだ。
自分が安全だと思える証拠。
ここにいていいと思える証拠。
私は価値のない人間じゃないと思える証拠。
それを、相手から集め続けていた。
笑って話しかけてくれた。
お菓子をくれた。
少し優しかった。
そのたびに、
私は大丈夫。
嫌われていない。
そうやって確認していた。
仕事を辞める時、モチノさんは少しだけ親切だった。
私はまた、ほっとした。
ああ。
最後まで、嫌われてはいなかったんだ。
今思えば、私が本当に欲しかったのは、
モチノさんの好意ではない。
誰からも嫌われていない、という保証だった。
私はモチノさんだけじゃなく、
私以外のほとんどすべての人に対して、
嫌われていない証拠 を探しながら生きていた。
──────────
🫧この形の私

▷ この話の本編を読む
▶ 次の読み解きを読む(全てが私のせいになる世界)
← 大人になった私の視点|考察一覧
← ここに至るまでに何があったのか|本編一覧
