もう、大丈夫なはず 🔥3
実家に帰れば、きっとやれるはず。
そう、やれるはずだった。
ガラガラとキャリーバッグを引きずる。
数年ぶりの我が家。
古巣の実家に戻ってきた。
長居するつもりはなかった。
数ヶ月もすれば結婚して、またここを出ていく。
そう、根拠もなく信じていた。
当時付き合っていた彼とは、
結婚の話が出ていないわけではなかった。
でも、いつ結婚するのか、
帰ってきていいのか、
具体的な約束は何ひとつなかった。
それでも私は、勝手に帰ってきた。
まあ、そのうち結婚するだろう。
周りも「結婚するんでしょ」と言っていたし、
私自身も、はっきり言われなくてもそうなる気がしていた。
─────
少しだけ、何かを期待したのかもしれない。
けれど、私が帰ってきても
彼は何も言わなかった。
ないの?
あ、そうなの?
拍子抜けした感じはあった。
けれど、別に今すぐ結婚したいわけでもない。
まぁいいか。
とりあえず、会えるし。
私は、実家で暮らすことにした。
自分の心や体が"一人暮らし”仕様に
なっていることには全く気づいていなかった。
昼まで寝て、昼から深夜まで友達と遊ぶ。
そんな生活を繰り返した。
私にとってそれは普通のことだった。
一人暮らしの時は、何も言われなかった。
私も大人になったし、
親もきっと変わっただろう。
状況は、軽くなっているはずだった。
そんな楽観的な気持ちで玄関を開ける。
「ただいまー」
玄関で声をかけると、奥から声がする。
「おかえり」
父と母。
下の妹。
全部想像通りだった。
─────
「どの部屋を使うんだ?」
父が聞いてくれた。
「えー、どうしようかな」
私が言うと、笑いながら返してきた。
「お前が関西にいる時に使ってた部屋は、
ダメだからな」
「なんで?」
「父さんの部屋にしたから」
以前、私が一人暮らしで帰省した時に使っていた、
玄関が別になっている離れの部屋。
あの部屋は、父が使っていた。
「あの部屋はダメだぞ。
もう、お前の部屋じゃないから」
「えー、残念」
遊びに出るのに便利なのに。
まあいいか。
どうせ長くいるつもりはない。
私は、空いている部屋に
適当に荷物を入れた。
─────
それから数日。
父が、以前のように
不機嫌になることもなかった。
何か言われることもない。
怒鳴られることも、責められることもない。
車がなくて、働いていないから収入がない。
それは不便だった。
けれど、仕事にも疲れていた。
すぐに働きたいという気持ちには
なれなかった。
「前の会社から離職票が届かないんだよね」
そんなことを言いながら、働かずに過ごした。
「遠いところだと、離職票ってすぐ来ないみたい」
「そうなの」
母はそれだけ言って、
特に何も突っ込んでこなかった。
結婚しなくても、
このまま、しばらくここにいても
大丈夫かもしれない。
そのうち、ゆっくり働けばいい。
そう思い始めていた。
─────
――もう、大丈夫なはず。
そうやって自分に言い聞かせる。
私は少しずつ、
「戻ってしまった場所」に馴染み始めていた。
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🫧この形の私

