「みのり、帰るよ」その声が一番好きだった
ピンクのボールを、上に放る。
高い天井に当たりそうになって、光の中でふわっと止まる。
遊戯室には夕日が差し込んでいて、
転がるボールがキラキラ光っていた。
「みのり、帰るよ」
────
保育園の終わり。
その時間は特別だった。
他の子たちが親と帰っていく。
私は、遊戯室でボールを投げる。
遊戯室には、大きな窓から夕日が差し込み、
転がるボールが光る。
上に放り投げたボールを目で追いかけた。
高い天井にピンクの丸が浮き上がり、キラッと輝く。
私だけが、自由に遊んでいい空間、時間。
特別な時間。
ピンクのボールが手に触れる感覚。
光に照らされた遊戯室の床の感触。
私は笑っていた。
遠くから、声がする。
「みのり、帰るよ」
お母さんの声。
「はぁーい!」
私はピンクのボールをカゴに置き、走っていく。
この瞬間が1番好きだった。
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おかあさんが、ここにいる。
そう思うだけで嬉しくて、舞い上がりそうだった
私は、祖母も大好きだった。
優しくて穏やかで、私を甘やかしてくれた。
でも、やっぱり一番大好きなのは、母だった。
母は、毎日忙しそうだった。
日常では、ほんの少しの寂しさを感じていた。
けれど、母がそばにいるだけで心が満たされる。
うれしい。
さみしい。
私は、嬉しさと寂しさの間を、静かに行き来していた。

