見出し画像

岩みたいだね 🔥2

一人暮らしをして初めての給料。

誰かが言っていた。
「働いたら、一番最初の給料は
恩返しに使わなきゃならない」と。

誰が言っていたのかは覚えていない。
そうした方がいいかもしれない、私は思った。

就職した年の12月。

私はデパートに向かった。
感謝していたという気持ちは薄かった。

「私、ちゃんとしてますよ」
そういうアピールをしたい気持ちが強かった。
今までの私とは違う、そう言わせたかった。

義祖母にはえんじ色と濃いピンクの模様のシンプルなひざ掛け。
祖母には淡いピンクやベージュとくすんだモスグリーンの入った厚手のひざ掛け。
祖父には小さな小銭入れ。

順調に選べたのはここまでだった。

────

問題は父と母。

お酒?
いや、重い。

その時、頭に浮かんだ。

「頭が痛いわ」
「最近手が痺れる」
顔をしかめる母の顔。

「そうだ、枕を贈ろう」

低反発で高級なブランドの枕。
1つ1万円。
それを2つ購入した。
正直かなり無理をしたけれど、なんとか買えた。

年末年始、
私は夜行バスで揺られながら荷物を抱えて実家へ。

枕2つ、厚手のひざ掛け2つ。
大荷物だった。

しかし、重さよりも誇らしい気持ちの方が強かった。

────

地元に戻り、祖父母にプレゼントを渡した。
二人はとても喜んでくれた。
その笑顔を見て、私は満足した。

大人になった。
私はちゃんとしている。

────

義祖母の家に行き、ストールを渡した。
「えらい、ありがとう」そう言われた。
それは、義祖母の最大級の褒め言葉だった。

これまで、義祖母に褒められることは少なかった。

そんな義祖母が私を褒めた。
満足した。

────

「ただいま」

「これ、プレゼント」
父と母に枕を渡す。

私が肩こりで病院に行った時に使って感動した枕。

「お前が
親にプレゼントをしようと思うようになるとはな。大人になったなぁ」
父はそう言って笑った。

私は鼻が高かった。
立派な大人になった、そう思えた。

「枕かぁ、使ってみるわ」
母はいつもの顔をしていた。

────

次に実家に帰ったのは翌年の年末年始。
あの時から1年が経っていた。

祖父母の家に行くと、
祖父と祖母は大喜びしてくれた。

祖母は部屋からストールを持ってきた。

「これ、暖かいわ。大事に使ってるよ」
そう言ってくれた。

祖父も、ズボンのポケットから
小銭入れを出して見せてきた。

「ほら、じいちゃんは、いつも持ってるんだぞ」

嬉しかった。

────

その翌日。

義祖母の家に向かった。
椅子に座った義祖母は私のためにお茶入れてくれた。

ふと、祖母が座っていた椅子を見ると、
ピンクのストールがかけられていた。

「おばあちゃん、これ使ってくれてるの?」
私が聞くと義祖母は頷いた。

「これはいい。あったかいから毎日使ってるよ。
いいものをくれたね」

義祖母は、
誰かのために機嫌を取るような人ではかった。

義祖母も、本当に気に入って使ってくれている――
その事実が、何よりも嬉しかった。

────

そして、実家に戻る。

家の押し入れを覗くと、枕が転がっていた。

「これ、気に入らなかった?」
私が聞くと、母は眉を顰めて言った。

「これ、冬になると硬くなって寝られないの。
岩みたいだね。
これ使うと体が痛くなる」

あげなければ良かったな、と思った。
「ごめんね。病院で使った時は良かったから」

その枕は自分の家に持ち帰った。

眠る時、頬に当たる枕の感触。
心がチクチクする。

岩みたい。

.........岩みたい、か。

私は黙って目を閉じた。

──────────
🫧この形の私

▶  次の出来事へ(帰省と新緑と青い空)

←  この章の目次へ【社会の洗礼】
←  物語全体を見る【シリーズ一覧へ】

いいなと思ったら応援しよう!