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歩みを止めない 🔥3

接客の仕事についてから、
一年が過ぎていた。

忙しい部署に異動してからは、
仕事にも少しずつ慣れ、毎日が充実していた。

売り場をどう作れば商品が売れるか。
家に帰ってからも、
気づけば仕事のことばかり考えていた。

やればやるほど結果が出た。

売り上げが伸び、上司にも評価された。
忙しいけれど、楽しかった。

売り場は、若いスタッフが多かった。
冗談を言い合いながら働く空気も、
私には心地よかった。

そんなある日、課長に呼ばれた。

「来月から、元の部署に戻ってもらう」

頭が真っ白になった。

やっと楽しくなってきたところだった。
売り上げもやりがいも、
今の部署とは比べものにならない場所だ。

がっかりした顔をした私を見て、課長は続けた。

「そこでチームリーダーをやってみないか」

驚いた。
この一年の働きを、
ちゃんと見てくれていたのだと思った。

正しいやり方だったかは分からない。
それでも、こんな結果になるなんて。

「お前みたいに、楽しみながら
一生懸命やれるやつは、人の上に立った方がいい」

その言葉に、泣きそうになった。
人生で初めてもらった言葉だった。

元の部署には、私が入社した時のメンバーが
そのまま残っていた。

そこの店長は、私より年下の男性だった。

「自信がありません、お断りしたいです」
私は課長に伝えた。

「やる前からできないと言うな」
そう言われ、断る選択肢はないように感じた。

翌月、私は元の部署に戻った。

──────

「お久しぶりです。一年ぶりに戻ってきました。
分からないことも多いので、教えてください」

返事はなかった。
全員が、違う方向を向いていた。

それからも状況は変わらなかった。

挨拶をしても返されない。
その中でも特に20代の若い子はフンッと
そっぽを向く。

漫画やドラマ以外で、フンッとそっぽを向く人を
私は初めて目の当たりにした。

課長から頼まれたことを伝えると、
「あなたがやればいいんじゃないですか?」
笑みを浮かべそんな言葉が返ってくる。

それでも私は、挨拶だけは続けた。

無視されても、「おはようございます」と言い続けた。

仕事の内容は、以前いた部署とほぼ同じだった。

分からないことは店長や課長に聞きながら、
何とか回していた。

繁忙期が終わった頃、
このままではいけないと思った。
小さな部署で、スタッフは6人ほど。

私は勇気を出して言った。

「せっかくなので、
みんなで一度ご飯に行きませんか」

一人の若いスタッフは、
即座に「行きません」と言った。

それでも他の人たちは、
参加してくれることになった。

当日は、
それなりに楽しい飲み会になったように思った。

「ありがとうございました」
「お疲れ様でしたー」

みんな笑顔だった。

もちろん二次会の話など出なかったが、
それでも充分だった。

「一歩進めた」
私はそう思っていた。

──────

2週間後、清掃の人が声をかけてきた。

「あなた、大変よね」
そういうと、1枚の写真を見せてきた。

同じ店、同じ顔。
けれど、2つだけ違うところがあった。

一つ目は、いなかったはずの若い子が笑顔で
写っていること。

もうひとつは、そこに、私がいないこと。

「あなた抜きで、昨日飲み直ししたのよ。
先週はつまらなかったって、みんな言ってた」

目の前が真っ暗になった。

私はここに、いてはいけないのだろうか。
邪魔なのだろうか。

子どもの頃、
「いらない」と感じた記憶が、突然よみがえった。

吐き気がした。
めまいもした。

──────

それでも私は、会社に行き続けた。

苦しい時には、すぐに逃げない。
自分の中で、そう決めていたからだ。

相変わらず心は重かった。

ひとりでする、接客。
誰も私に近寄らない。

頑張らないと。
そう言い聞かせ続けた。

決意というほどの決意ではない。
これまで通りに、いつものように、
歩みを止めずにいる。

それだけだった。

──────────
🫧この形の私

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