見出し画像

叶えられなかったのが自分だけだと知った日 🔥3

中学3年生。

小学生の頃、私はピアノや通信教材に夢中だった。

毎日オルガンに向かい、少しずつでも弾けるようになろうと必死だった。

漫画付きの教材を何度も読み返し、
ページの感触まで指先に覚えるほどだった。


でも母は、私の願いをいつも冷たく却下した。

「私はもう大人だから、そんなのはいらない」

泣かず、期待せず、ただすました顔で
毎日をやり過ごした。
私は諦めたつもりだった。

─────

── そんなある日曜日。

家に、大きな黒いピアノが運び込まれてきた。
電子ピアノではなく、
調律が必要な本物のピアノだった。

え……?
頭が一瞬、真っ白になった。

「れいちゃんと、ももちゃんが習うことになったからね。思い切って、新しいピアノを買ったのよ」

母はいつも通りの声で言った。
れいちゃんとももちゃん──私の妹ふたりの名前だった。

胸の奥を、じわっと熱いものが走った。
怒りなのか、悲しみなのか、違和感なのか、
自分でもわからなかった。

妹たちに新しいピアノが与えられる。
その瞬間、心の中で何かが真っ黒に渦巻いた。

「なんで私はダメで、ふたりはいいの?」

勉強で私だけが怒られ、妹たちは叱られなかった。

ゲームは妹だけ買ってもらい、
布団を畳まなかったときも私だけ叱られた。

小学生の頃、夢中になってオルガンを弾いても、
漫画付き教材を必死に読んでも、叶わなかった憧れ。

その積み重ねが、一気に胸の中で爆発した。

私は「ふーん」とだけ言い、立ち去った。

あのピアノには絶対触れたくなかった。
話題にするだけで、胸がひりひりと痛んだ。

────

数日後、偶然妹たちの部屋に入ったとき、
さらに驚いた。

机の上に通信教材の冊子がずらっと並んでいる。

真ん中の妹の机には教材がそのまま置かれ、
一つも手をつけていなかった。

え、二人ともやってるの?

私が漫画の部分を読んで「やりたい」と懇願した教材。
母に何度も頼んでも却下された、あの教材。

妹たちには簡単に与えられている。

ピアノは妹はOK、私はダメ。
通信教材も妹はOK、私はダメ。
何をやっても、怒られるのはいつも私だけだった。

胸の奥で何かが爆発した。
怒り、悔しさ、悲しみ、自己否定──ごちゃごちゃになった感情が全身に広がった。

階段を一気に駆け降り、台所の母に詰め寄った。
「ねえ、なんで二人は通信教材できるの?
私、あれやりたいって何回も言ったよね?」

母の目は冷たかった。
「あんたは続かないじゃない。
勉強だってまともにしないで怒られてばかり。
そんな子に、なんで好きなことをやらせてあげる
必要があるの?」

れいちゃんだって、やってない。
何が違うの、なんで私だけなの。

悔しさと悲しさで胸が押しつぶされそうだった。

小学生の頃に抱いた、叶わなかった憧れ。
あのときの輝きと希望が、
一気に絶望に変わった瞬間だった。

欲しかったのは、ピアノでも教材でもなかった。

ただ、誰かに「どうして私だけなのか」を説明してほしかっただけだった。

──────────
🫧この形の私

▷  ピアノを習いたかった頃の私の話
▷   通信講座を習いたかった頃の私の話
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
この出来事を、別の視点で読む

▷  親が語った理由と、私の気持ち(考察)
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

▶ ︎  次の出来事へ(進学校に行くと決めた日)

←  この章の目次へ【ひずみ】
←  この物語全体を読む【シリーズ一覧】

いいなと思ったら応援しよう!