つまらない女 🔥3
「明日の夜、体育館行くから
ジャージ持ってきて」
彼氏の基くんから、そう言われた。
「え?なにをするの?」
私が言うと、彼は答えた。
「近くの体育館で、
毎週スポーツをやってるんだよ」
「緩いやつだから、一緒に行こう」
私は、スポーツが苦手だ。
嫌いなわけじゃない。
けれど、あまりにもどんくさくて
いつも恥ずかしい思いをしてきた。
そして、なんとなく人も怖かった。
知らない人の中で、過ごすのも抵抗があった。
行きたくないな。
内心そう思った。
自分がいて、迷惑をかけるのが嫌だったし、
楽しめる自信もなかった。
「でも、私運動は苦手だから」
そう言うと、基くんは言った。
「苦手だと思うから苦手なんだよ。
そんなの誰も気にしてない」
「うーん」
「とにかく、シューズとジャージ持ってきて」
誘われたことを嬉しいと感じられない
私がダメなのかも。
行きたくないと思う自分は、
やっぱりどこかおかしいのかもしれない。
まずは楽しんでみることが大事なのかな。
なぜか、涙が出るほど行きたくなかった。
けれど、私は必死に自分を納得させた。
─────
翌週の火曜日。
相変わらず重い心のまま、
基くんに引きずられるようにして
体育館へ向かう。
ああ、怖い。
何かわからないけど、とてつもなく怖い。
体育館には老若男女
さまざまな人が集まっていた。
参加者は60代から小学生まで幅広く、
みんながゆるくスポーツを楽しむ場所だった。
そこには彼氏のお父さんもいた。
「え、お父さんもいるの?」
挨拶した方がいいかな、
基くんに言ったけれど「別にいいよ」と言われた。
彼氏のお父さんは、
別のコートでスポーツを楽しんでいて、
私にはあまり関心を示していないように見えた。
「じゃあ、楽しもう」
基くんは、そう言うと
お父さんのいるコートに走っていく。
えっ?
一緒にいてくれないの?
泣きそうになった時、
近くにいた年配の女性が声をかけてきた。
「ここで一緒にやろう」
堪らず、近くにいた年配の女性に伝える。
「あの、私運動が得意じゃなくて
迷惑をかけるかもしれません」
すると、その女性は優しく答えてくれた。
「気にしなくていいよ。
ここはみんな楽しむ場所だから。
気楽にやればいいの」
その言葉に少し安心し、
ぎこちなく輪の中に入った。
─────
私は、一生懸命楽しもうとした。
けれど、元々なかった運動神経が突然
良くなるはずもなく、
私は相変わらず、どんくさかった。
そこは、バドミントンのコートだった。
必死にラケットをふるった。
「ごめんなさい」
何度も謝った。
空振り、ネット。
シャトルを打っているつもりなのに
ラケットは何度も空を切った。
ああもう、なんでこんなに下手なの。
ほんと、何やってもダメ。
泣きそうになる。
でも、楽しむんだ。
精一杯やるんだ。
必死に動いた。
そして、笑った。
─────
「みのりさん、お願い!」
近くにいた女性に言われ、ラケットを振る。
パコン
ラケットにシャトルが当たる感覚。
そのシャトルは空を描き、
相手のコートへ落ちた。
「わぁ、やった!」
私は思わずその場で飛び跳ねた。
「やったね!ナイス!」
笑って周りの人が手を差し出してくれた。
パチン、とハイタッチをする。
嬉しかった。
─────
それからも、基くんは自分が行く時は
私を誘った。
私は、基くんから声をかけられた時だけ
参加した。
楽しみにはならなかった。
行くのはやっぱり怖かった。
それでも、緩く参加していた。
─────
そうして1年が経った冬の頃だった。
「今度の土曜日、慰労会があるんだって。
一緒に行こう」
基くんから言われた。
正直気が進まなかった。
「いや、でも」
「怖がるから怖いんだ。行った方がいい」
基くんはそう言い、私の手を取った。
私は自分の不安を押し込め、
言われるままに参加することになった。
─────
小さな会館で、それは開かれていた。
恐る恐る中に入ると、中には十数人の人達が
談笑していた。
すると、いつもの女性たちが
にこやかに迎えてくれた。
「来てくれてうれしい」
「よく来てくれたね」
その言葉で、この場に拒絶されていないのだと感じ、少しほっとした。
正面には、いつも声をかけてくれる女性が
二人座っていた。
私は基くんの隣に並んで座った。
すると、その女性たちは
基くんのお父さんに向かって言った。
「息子さんは、本当にできた子よね。
優しいしスポーツもできるし、自慢でしょう」
お父さんは笑って答えた。
「まぁ、こいつは確かにできた息子だよ。
すごいと思う」
私はその言葉に自然に頷いた。
その通りだと思った。
「息子さんにこんな可愛い彼女がいて、
本当によかったね。すごくいい子じゃないの」
その言葉に、胸がじんわりあたたかくなる。
そんなふうに言ってくれるなんて。
嬉しいな。
基くんと目を合わせ、微笑む。
「嬉しいです。ありがとうございます」
私は笑顔でお礼を言った。
そのまま、何気なく斜め前に座る
基くんのお父さんの方に目をやった。
するとお父さんは首を傾げていた。
口の端が歪んでいる。
「そうか?」
「こんな女、全然たいしたことない。
こんなつまらない女なんて、
結婚するかどうかも分からないな」
その瞬間、時が止まったように感じた。
基くんは苦笑いをしただけだった。
「またそんなこと言って」
女性たちは笑って返していた。
「あはは……」
私も笑って、お父さんを見た。
その時、お父さんは、笑っていなかった。
私は、自分の口が歪むのがわかった。
なにこれ。
何この状況。
苦しい。
『つまらない女』
その言葉が心に沈んでいく。
けれど、否定はできなかった。
「そうなのかもしれない」
私は、その言葉をそのまま飲み込んだ。
──────────
🫧この形の私

