私のいない買い物袋 🔥2
妹と母は仲が良かった。
実際のところはわからない。
でも、私にはそう見えていた。
二人はよく休みを合わせて出かけていた。
私も休みが合えば誘われることはあったけれど、どこかで感じていた。
母は、妹と出かけたいのだ、と。
妹といる方が楽しいんだろうな。
そんな、少し子どもっぽい気持ちが、心の奥で静かにくすぶっていた。
でも、それを口に出すのは幼稚で、恥ずかしいことだと思っていた。
その日、私は休みだった。
少し遅く起きて、一階で食べ物を探す。
トーストを焼き、ホットミルクを用意して、部屋に戻った。
しばらくすると、母の部屋の扉が開く音がした。
今日、休みなんだ。
そう思って、私は部屋の扉を開けた。
廊下で母と鉢合わせた。
「お母さん、今日休み?」
「うん、今日休みだよ」
その声に、なぜか微妙な温度を感じた。
――休みだと聞かれたくなかった、そんな響き。
私は言った。
「私も今日休みなんだけど。もしよかったら、一緒に出かけない?」
断られるかもしれない、とは思っていた。
でも、暇だったし、母と出かけるのも悪くないと思った。
母は少し困った顔をして言った。
「気持ちは嬉しいんだけど……今日は一人で出かけたくて」
その表情は、どこか申し訳なさそうで、少し嫌そうでもあった。
私は大げさなくらい明るく言った。
「いいよ、全然気にしないで。誘ってみただけだから」
本当は、少し悲しかった。
でも、母のうつむいた顔を見たら、
誘った自分が悪かったような気がしてきた。
「ごめんね」
母はそう言って、階段を降りていった。
私は部屋に戻り、トーストを食べ終える。
しばらくベッドに寝転び、携帯を触っていた。
すると、妹と母が出ていく音がした。
私も出かけようかな。
玄関に降り、扉を開けた時、違和感を感じた。
妹の車が、ある。
別に出かけたなら、車はないはず。
……一緒に出かけた……?
ちりちりと心が焦げていく感覚があったけれど、私はそのまま車を走らせた。
近くで飲み物を一本買い、適当に時間を潰した。
早めに家に戻ると、家には誰もいなかった。
テレビを見ながら、お菓子を食べる。
しばらくするとそれにも飽きた。
二階の自分の部屋に戻り、ベッドに横になった。
その時だった。
玄関で鍵を開ける音がした。
話し声がする。
ビニール袋の、がさがさという音。
階段を上がってくる足音と一緒に、声が聞こえた。
「ほんと、今日行って正解だったよね」
「可愛い服も買えたし」
母と妹の声だった。
私はベッドから起き上がった。
「れいちゃん、今日は付き合ってくれてありがとう。楽しかった」
「いいよ、また行こう」
――二人で、出かけていたんだ。
胸の奥が、すうっと冷えた。
感情的になるのは子ども。
怒るのは恥ずかしいこと。
笑って受け流さなければいけない。
そんな思い込みが、私の中には強く根付いていた。
でも、その瞬間、それは音を立てて崩れた。
私は部屋を出て、母の部屋へ行った。
母は買い物袋から服を出していた。
低い声で聞いた。
「今日……れいちゃんと出かけたの?」
「そうなのよ。二人とも休みでね」
「最初から、一緒に行く予定だったの?」
「たまたま一緒にいて、行こうかって話になっただけ」
私は声を荒げた。
「今日、私、誘ったよね。
一人で行きたいって断ったよね。
私、まだ家にいたよね。
なんで、その時、誘ってくれなかったの?」
言葉が止まらなかった。
「自分から誘ったのに断られて、
そのあと二人で出かけてて、
私は一人で過ごして……
すごく、悲しかった」
涙が出ていた。
自分でも、どうしてこんなに苦しいのか、わからなかった。
そこへ妹が出てきた。
「どうしたの……?」
私は、それ以上言えなかった。
その時の私は、
大人のように笑って受け流す余裕なんて、なかった。
母はため息をついた。
「何言ってるの。被害妄想でしょ」
「彼氏と遊ぶと思ったから声かけなかっただけ」
「そのあと、れいちゃんがいたから一緒に行こうって思っただけ」
「なんでそんなに責められなきゃいけないの」
そして、最後に言った。
「ほんと、あんたって相変わらず赤ちゃんみたい。
いい年して、恥ずかしい」
その言葉は、みぞおちに突き刺さった。
自分でも、幼い反応だと思っていた。
でも、他人の口から───母の口から言われる
「赤ちゃんみたい」は、何倍も痛かった。
妹は、ただ黙って私たちを見ていた。
困った顔をして。
――もう、やめよう。
私は小さく「もういい」と言って、
自分の部屋に戻った。
扉を閉めた瞬間、
さっきまでの声も、袋の音も、すべて遠ざかった。
私は、ベッドに潜り込み目を閉じた。
涙があとから溢れてくる。
何度も何度も、同じ言葉が頭の中で繰り返された。
「私は選ばれなかった」
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🫧この形の私

