(鎌倉・聖地巡礼①)『椿ノ恋文』に誘われて。スタバ御成町店と、ニコニコパン
小川糸さんの『椿ノ恋文』を読み、「どうしても鎌倉に行ってみたい」という思いに駆られ、一人旅をしてきました。私にとって、物語の舞台を歩く初めての「聖地巡礼」です。
旅を終え、どのように報告しようかと悩みながら、仕事の忙しさもあり、なかなか向き合えない時間が流れていました。そこで、巡礼したスポットをシリーズでお伝えしようと思い至り、ようやくこうして机に向かえるようになりました。
巡った順にそって訪問した場所や、そこが『ツバキ文具店』シリーズでどのようなシーンであったのか。そして、そこで自分が感じたことなども含めて報告していきたいと思います。ご興味がありましたら、読んでいただけると嬉しいです。
最初は「スターバックスコーヒー・鎌倉御成町店」と「パラダイスアレイのニコニコパン」

朝4時台の始発電車に乗り込み、7時50分頃、鎌倉駅に到着しました。最初に、レンバイ(鎌倉市農協連即売所)を訪ね、その中にある「パラダイスアレイ」というパン屋さんへ向かいました。このお店の「ニコニコパン」を購入するのが今回の目的のひとつだったからです。

しかし、この時間はまだ営業開始前。このタイミングでの購入はできませんでしたが、お店の場所はしっかりと確認することができました。
私は電車などで出かける際、朝のうちに地元にあるカフェに入り、1時間ほどコーヒーを飲みながら自分時間を楽しむことにしています。
鎌倉駅前にもいくつかカフェはありますが、今回は目的の一つでもある『ツバキ文具店』に登場する「スターバックスコーヒー鎌倉御成町店」へ足を運びました。

駅から5〜6分ほど歩いたところにある「鎌倉御成町店」は、全国のスターバックスの中でもユニークな歴史を持つ店舗です。「フクちゃん」で知られる漫画家・横山隆一氏の邸宅跡地に建てられており、氏が愛した桜の木や藤棚、プールなどのある庭がそのまま残されています。
外観は旧横山邸をモチーフに景観に配慮した平屋造。店内は天井が高く、テーブルやソファも広々と配置された開放的な空間で、藤棚前のテラス席も素敵でした。ガラス越しに見える長閑な庭は、かつてここで文化人たちが集い、語り合ったであろう気配を今に伝えてくれます。新しい店舗でありながら、どこか懐かしさもある空間でした。

私は店内の二人がけの席に座り、ブリュードコーヒーを飲みながら、日記を書き、短時間の読書を楽しみました。周りのお客さんは私より年齢の高い方が多いように見受けられましたが、朝から熱心に勉強や読書をしている姿を拝見しました。その方々から感じられる「知的シャワー」もまた心地よいものでした。
作中で、主人公の鳩子(ポッポちゃん)は、長時間ひとりで読書を楽しみたいときにこの場所を訪れます。
実際にその空間に身を置いてみると、彼女がここを特別な場所に選んだ理由が痛いほどよくわかりました。高い天井と開放感のある店内、そして庭のプールや木々が織りなす静謐な空気は、日常からスッと心を切り離してくれます。代書屋として様々な人の想いを受け止める鳩子にとって、ここで庭の景色を眺めながら過ごす時間は、自分自身の心を整えるための大切な時間だったのかもしれません。
私は毎週末、地元のスターバックスで自分時間を楽しんでおり、そこは私にとっての「サードプレイス」になっています。地元のお気に入り店舗も良いですが、鎌倉御成町店のような雰囲気の場所にいつも来られるとしたら、どんなに楽しいだろうかと思いました。同時に、住む場所や身を置く環境が心に与える影響の大きさを感じさせられる機会にもなりました。
心がすっかり整ったところで、旅をすすめるため、再度レンバイの「パラダイスアレイ」を訪ねました。
今度は無事に営業が開始されていました。店頭で「ニコニコパン」を見つけた瞬間、思わず顔がほころんでしまいました。パンの表面にはその名の通り、愛らしい「笑顔(ニコニコマーク)」がしっかりと描かれていたからです。小説の中で読んで想像していた温かな情景が、目の前にポンと現れたような不思議な感動がありました。

実際に購入して食べてみると、良い意味で予想を裏切られました。
「アンパン」というとふんわりとした柔らかい生地を想像しがちですが、このニコニコパンは違います。フランスパンのように表面がパリッと香ばしく、噛み応えのあるしっかりとしたハード系の生地なのです。

その少し無骨で力強い生地を噛み締めると、甘酸っぱい「こし餡」が現れます。小麦の豊かな風味と、こし餡の優しい甘さのコントラストが絶妙で、噛めば噛むほど味わい深いパンでした。
このハードな噛み応えのあるパンを、作中のQPちゃんが嬉しそうに頬張っていたのかと想像すると、物語の解像度がぐっと上がった気がします。
柔らかなだけの優しさではなく、しっかりとした歯ごたえ(現実)の中に甘さ(愛情)が詰まっている。そんなところも、色々な事情を抱えながらも新しい家族の形を築いていく『ツバキ文具店』の物語そのものに似ているのかもしれません。
鎌倉の空気と小説の世界を同時に味わえる、特別な「ニコニコパン」。小川糸さんのファンの方はもちろん、美味しいパンを探している方にもぜひおすすめしたい一品です。
(鎌倉編②へつづく)
