見出し画像

【人間関係、キャリア】 まわりの5人の平均値 [第56回]

前回の記事では、目先のノイズに惑わされることなく、暴落の先にある人類の進歩や自分自身の未来を信じるマインドセットについてお話ししました。

未来を信頼し、自分の軸を持って「今」を生きようとするとき、私たちは自ずと、日々の多くの選択を自らの手でコントロールし始めることになります。その選択のメスは、時間の使い方だけでなく、日々の「人間関係」にも向かうことになります。

「自分のまわりにいる5人の人間の平均値が、現在の自分である」

ビジネスの世界などでよく耳にする、有名な言葉があります。自分が付き合う人間の質が、知らず知らずのうちに自分の思考や習慣を形作っていくという意味です。

この記事を読まれている皆様は、今、ご自身の「近くにいる5人」に誰を思い浮かべるでしょうか。今回は、私が日々の生活を整える中で行き着いた、現代における人間関係の棚卸しについてお話しします。

1. 質を維持するための「付き合いの断捨離」

かつての私は、医局の仲間や同僚たちと頻繁に連れ立って飲みに行き、深夜にタクシーで帰宅するような生活を当たり前のように送っていました。しかし、コロナ禍に自分の将来と真剣に向き合ってからは、私の行動様式は大きく変わりました。

一人のプロフェッショナルとして、目の前の手術の質を高め、同時に限られた家族との生活の質を向上させること。この2つに自分の時間を「選択と集中」させるようになったのです。

もちろん、時には同僚たちと楽しく飲みに行くこともありますが、本当に必要と思えること以外の付き合いは断るようになったのです。年齢が上がるにつれて同僚が自然と減っていったことも重なり、気づけば職場でプライベートも含めて深く付き合う人の数は、劇的に減少していきました。

その代わりに増えたのが、一人で手術動画を何度も見直し、本を読み、ビジネス系あるいは金融系のYouTube動画を通じて、人生や社会の仕組みについて能動的に学ぶ時間です。

2. 孤独がもたらした「確かな資産」

世間では、職場の人間関係が希薄になることを「孤独」や「孤立」としてネガティブに捉える風潮があるかもしれません。しかし、このように他者と比較せず、自分に必要な仕事に100%集中するある意味”孤独”な環境は、私に思いがけない大きなリターンをもたらしてくれました。

私の場合は、手術手技を研鑽すること、組織内におけるロボット手術の普及、そして若手医師への指導です。

淡々と自らの技術を磨き、家計のシステムを愚直に動かし続けた結果、自分なりに満足のできる手術技術と、将来に対する大きな不安がなくなる程度の資産の見通しを得ることができたのです。

また、教授選という、人に頼ることはできない孤独な戦いも経験することができて、敗れはしましたが自分の力を出し切り、結果にも納得する事ができました。

しかしある日、ふと立ち止まって周囲を見渡したとき、私は奇妙な現実に気がつきました。

今の私の職場で、プライベートの悩みや未来のビジョンを深く語り合えるような人間は、先ほどの「5人」もいなくなっていたのです。

もちろん、私には古くからの大切な友人たちや、過酷な時代を共に生き抜いた医学部の同期たちがいます。彼らとは今でも家族同様の深い信頼関係で結ばれていますが、実際に顔を合わせるのは年に数回程度です。それは「いつも物理的に近くにいる」というよりは、「どれだけ距離が離れていても、本質的な部分で深く繋がっている」という感覚に近いものです。

3. デジタル時代における「思考の同期」と、次なる選択

自分の輪郭を理解するために、日々影響を受けている5人を必死に思い浮かべようとして、ようやく一つの真実に辿り着きました。

今の私のすぐ近くにいて、私の思考に最も強い影響を与えているのは、職場の人間ではなく、読んでいる本の著者や、画面の向こう側でいつも見ているYouTuber(クリエイター)たち、思考の整理に使っているAIだったのです。

かつて私がお金の仕組みを学び直し、インデックス投資の第一歩を踏み出す契機をくれた存在や、思考の余白の作り方を教えてくれる先人たち。彼らこそが、今の私の価値観を支える無形の「メンター(指導者)」であり、現代における私の「近くにいる5人」そのものででした。

現代における人間関係の「近さ」とは、もはや物理的な距離や、同じ組織に属している時間の長さだけで測るものではありません。自分がどのような言葉を浴び、どのような思想に触れ、誰と「思考を同期させているか」の純度によって決まるのです。

なんとなく参加する馴れ合いの飲み会に時間を消費するくらいなら、物理的には孤独であっても、画面越しに世界中の一流の知性と時間を共有する方が、遥かに人生のタイパ(タイムパフォーマンス)は向上します。私たちは、デジタルの力を借りることで、自分の周りの5人を、いつでも、自分自身の手で自由にデザインすることができるのです。

しかし、この人間関係のデザイン(棚卸し)は、一度完了すれば終わりというわけではありません。

私自身、手術手技の向上と生活の基盤作りという、この数年間に掲げてきた目標は達成しつつある事を感じます。だからこそ、これからは、これまで目標達成のために敢えて手放してきた最新の医学研究情報などにも改めて触れていきたいと考えています。ステージの変化に合わせて、インプットの源泉、つまり自分の「周囲の5人」を新しく選び直す必要がある、と今は感じています。

最後に

長い人生の後半戦において、安定した安心感を保ち続けるためには、周囲の環境に受動的に流されないための「盾」が必要です。

もし、職場の人間関係が狭くなることに焦りや寂しさを感じそうになったときは、一度ご自身のインプット(情報の質)を棚卸ししてみてください。

無理に周囲に合わせる必要はありません。あなたが今日、画面越しに受け取った有益な知恵や、あるいはこれから新しく選び直していく最先端の知性こそが、あなた自身の未来の基準(平均値)を作っていきます。

誰の思想の近くで、どのような歩幅で歩んでいくか。その主導権(人生のハンドル)をしっかりと自分の手に握り直すことこそが、これからの時代を生きる私たちに、等身大でブレない心の平穏をもたらしてくれるはずです。


いいなと思ったら応援しよう!