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さがらあつこ・さげさかのりこ『美術館にもぐりこめ!』


絵本のむつかしさと面白さ。

美術館を題材にした絵本について、先日いくつか記事を書いたのですが、色々と発見がありました。

絵本という表現方法は、制限が多いです。
まず対象年齢が低いので、難解な専門用語は使えないし、前提にできる知識も限られています。
そもそも文章の量が限られている。何十何百ページと、活字で埋めるのとはわけがちがう。何を取り上げて何を省くのか、選んだ素材をどこまで掘り下げるのか、非常に難しい。
そもそも美術館・博物館なんて、広げること、掘り下げることが存在意義みたいなもの。取捨選択して単純化して簡潔になんてのは、それに真っ向から反すること。

ではどうするか? というところで、その絵本の特徴が強烈に出てくる。そう感じました。

絵本だからと遠慮しない!

こちらの本は、絵本のフリをしていますが、ガチな美術館本でした。展覧会の開催がメインですが、美術館というものの歴史まで踏み込んで、情報量はものすごく多いです。
一般的な絵本がどれくらいの情報量なのか、理解しているわけではありませんが、展覧会をやるのに輸送の専門スタッフが計画を立てます、なんていう話をサラリとやるのは、絶対に、一般的な絵本とは情報の解像度が違うと思います。

文章は簡潔でわかりやすいのですが、そんな風に一文ごとに未知の世界が出てくる。それに、絵本のメインである絵にも、古今東西の美術作品がさりげなく忍び込ませてあって、絵も文章も、解読をし始めたら永遠に終わらなさそうです。

一つのテーマに絞っても大変!

美術品の保護と修復に特化した絵本。しかも、特に詳細に取り上げるのは紙の絵画作品と、絞り込んでいます。でも絞り込んだはずなのに見開きいっぱいに、修復の道具がズラーッと並んだり、紙などを食べる虫がズラーッと並んだりしました。
広がりを避けて一部分に絞っても、その先で広がってしまうという、知識がもたらす底なし沼の感じが、生々しく伝わってきました。

その一方で、この絵本では、冒頭で絵画が盗まれるという、ドラマチックな掴みがありました。発見されたその作品が、盗難中に痛んでいた。それを修復する上で「修復というのは、どんな風に行われるのか?」が語られる、という、しっかりしたお話がある……と見せかけて、実は最後、さあこれから修復士しよう! さてどうなる、というところで……

お話はキレイに終わってはいませんでした。だけど、だからこそ保存・修復は過去現在未来とつながっていくものなのだ、という表現になっていました。

むしろ学習絵本としてはこちらが王道?

この『美術館にもぐりこめ!』は、福音館書店『たくさんのふしぎ』シリーズの傑作選。独身中年のオッサンでも知っているブランド。学習絵本としては王道中の王道ということになるのでしょうか。

小学校中学年から。この学習絵本もそんな感じですね。
だいたい『ハリー・ポッター』から『かいけつゾロリ』シリーズあたりの読者層なので、むしろ絵本というイメージで見ない方がいいのかな。
この本も、いかにもドジな感じの三人組の泥棒が、美術館に忍びこんで、色々な部屋を見て回るというお話。
先に紹介した二冊に比べると、実に素直な構成で、最初に読むには、こっちの方がよかったかもしれない。

起。

美術館の建物に忍び込む泥棒三人組。
建物のお洒落さや、公園のように緑の多い環境が、さっそく素敵なんだけど、お宝のコトで頭がイッパイな泥棒たちの眼には入らない。
事務所や図書室で「ここは本当に美術館なのか?」と不安になったところで、展示室にたどり着く。しかし何も飾られておらず、ポツポツと壁にメモが貼ってあるだけ。そこに「美術品輸送」と書かれたトラックがやってくる。

承。

展覧会が開催されるまでのアレコレで、企画立案をどうするか、搬入や設営の様子、空調や警備などの施設といったものが、見開き絵解きで紹介されます。
「作品の数が90点で、絵の幅と間隔の合計が150メートル。だから150メートルぶんの壁面を作らなければなりません」「今回の企画展の会場は、つねに温度23度、湿度60%にしています」
等々、書きこまれた解説が妙に具体的なのが生々しい。

転。

それに追尾するように、スタッフの紹介がされるのだけど、新しいスタッフが登場するたびに
「受付のプロ!」「看視のプロ!」
なんて派手なテロップが出るのも面白い。
「そうじのプロ!」
の仕事の紹介など、
「展示室の中ではそうじ機は使いません。空気といっしょにチリを排気してしまうからです」
「展示室の中では水を使いません。かならずからぶき」
「使っているのはガラスせんいでできたタオル。けばがとばない」
等々、細かく解説されます。

結。

最期は展覧会が無事に開催されて、こんなに悪い事できないなと反省した泥棒たちに、学芸員のお姉さんが
「せっかくだから鑑賞していってください」
とニッコリ笑う。泥棒たちが最初に見つけるスタッフも彼女なので、実質ヒロインといったところ。
途中、唇に指をあててナイショの仕草をしながら、
「秘密の部屋をご案内しましょう。収蔵庫です。ないしょですよ、どろぼうには」
などというシーンもある。全ては彼女の手のひらの上だったという事でしょうか。

「公共」は、どのように支えられているのか?

芸術や文化に興味のなかった泥棒たちが、すっかり美術のトリコになる。大きな変化のはずなのに、それが全く自然で、当たり前のように起きる。
個々の美術品について、あるいは芸術について、特に何が語られているというわけでもないのに、この説得力は、どこから来るのでしょう?

これはやはり、美術館という場所を大切にしている人々の姿が、しっかりと伝わっているからではないでしょうか。

この本に協力された方々として、平塚市美術館、世田谷美術館、東京国立博物館、目黒美術館などのミュージアムの他にも、ヤマト運輸や日本通運も名前が挙げられていました。

自分が目にするモノの一つ一つが、どれだけ多くの人によって届けられているのか。それは美術館に限った話ではありません。他のさまざまなインフラやサービスにも通じる、社会の仕組みとして、学びの入り口になる一冊でした。

個人的メモ。

平塚市美術館について検索したら、その館長をなさっていた草薙奈津子氏の本も読みたくなってしまった。山種美術館の館長もされていたとか。すごいなあ。

特にこの本が良さそうだったんだけど、品切れ……
どうしようか考え中。

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