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「チャレがや企画」参加小説<聞くべきところ>

朝から編集部は、いつもより少しだけざわついていた。
キーボードを叩く音の隙間から、誰かのため息や、コーヒーをすする音が混じる。そんな空気の中で、彼は呼び止められた。

「今日、一本お願いできる?」

編集長はモニターから目を離さずに言った。

「ロジウラーズカフェ。オープン1周年らしい。雰囲気だけじゃなくて、オーナーの想いとか、この場所がどうやって生まれたのかも伝えてほしい」

そう言われた瞬間、彼の胸の奥で小さく何かが鳴った。
“雰囲気だけじゃなくて”。その一言が、少しだけ重かった。

彼はノートとペンを鞄に放り込み、取材先へ向かった。
駅から歩いて十分ほど。人通りの多い通りを一本外れただけで、街は急に静かになる。観光案内には載らない。けれど、確かに人の生活が息づいている路地。

その奥に、目的のカフェはあった。

木製の扉は控えめで、看板も主張しすぎない。
「ここだよ」と声を張り上げる代わりに、「気づいた人だけどうぞ」と言っているようだった。

彼は深呼吸をひとつして、扉を開けた。

「いらっしゃい」

それだけの言葉が、店の空気に溶けた。

彼は決まった質問を投げた。家賃、客層、有名人の有無。
オーナーは苦笑いしながら「まだまだ勉強中です」と答え、
「ひとり客も意外と多い」と付け加えた。

取材は断片的だった。
それでも彼は、ノートを閉じたとき、どこかで「書ける」と思ってしまった。

編集部に戻り、記事を書く。
路地裏の静けさ。控えめな扉。落ち着いた空間。
破綻はなく、〆切も守った。

「ちょっと、来て」

編集長は赤ペンだらけの紙を叩いた。

「雰囲気はいい。でも、どこにでもある記事だ。
オーナーの想いは? この場所が生まれた理由は?」

言葉が出なかった。

「まだ書けていない。謝って取材をし直してこい」

誰も聞かない質問をすることが、どこかで“カッコいい”と思っていた。

だが分かっていた。
あれは、本来聞くべきところから目を逸らした結果だった。

彼はノートを開く。
苦笑いの奥にあった沈黙。
言葉にならなかった理由。

自分は、なんて愚かなことをしてしまったのだろう。

それでも思う。
すべてを書けなくてもいい。
この場所の“入口”だけは、書きたい。

路地裏で、今日も誰かが扉を開ける。
その一歩目に寄り添う文章を、今度こそ逃げずに書こう。

物語は、まだ続いている。

みくまゆたんさん&コッシ―さんの↓↓↓の企画に参加させていただき、

今回は

取材ライターで「ゼロフラ」を主宰されている渡辺まりこさんをモデルのトップ画像で僕がつくった【取材ライターなりきりゲーム】

で、それ聞いちゃう?っていう失礼な質問ルートを選んだ場合を小説にしてみました(笑)


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