チンタララジオ体操
私の勤めていた会社には、毎日午後3時になると「ラジオ体操」の時間があった。
大の大人がオフィスで一斉に身体を動かすのは、どうにも気恥ずかしい。
私は毎日、嫌そうに、やる気のない動きで適当にやり過ごしていた。
そんな私に気が付き、人事課長に「ちゃんと体操をするように」と繰り返し注意を受けていた。
私がそう言われてしっかり体操するわけがない。
そこで私は太い柱の陰に隠れ、課長の視線を遮りながら、誰にも見つからないようにチンタラと手を回し、屈伸したふりをする。
そうやって毎日をすぎていたのだが・・・
死角は思わぬところに存在した。
当時、会社の裏手では新しいビルの建設工事が進んでいた。
もちろんうちの会社での施工だ。
ちょうど私のいた3階の高さには、工事の作業員たちがいた。
そして、柱の陰に隠れたポジションは、その建設現場からチンタラ体操が「丸見え」だった。
ある日の3時、ラジオ体操の音楽が鳴り、私がいつものように柱の陰でチンタラ体操を始めると、外から何やら賑やかな声が聞こえてきた。
「おい、ちゃんとやれー!」
「手が伸びてないぞー!」
振り変えると、現場の3階デッキに作業員たちが集まり、ニヤニヤしながらこちらを見ている。
どうやら私の「本当にやる気のないラジオ体操」が、現場で働く彼らのツボに入ったようだ。
それからというもの、3時になると現場の作業員が一斉に会社側に集まってくるようになった。
外からの熱烈な(?)ガヤがあまりに騒がしいため、ついに人事部長がやってきて窓の外と私を交互に見て、チクリと言い放った。
「mugiくん、ずいぶん現場で人気者だなぁ……」
毎日3時になるのが恥ずかしくてたまらなくなった私は、現場事務所に行くことにした。
プレハブの現場事務所へと突撃した。
「3時に集まってヤジるのやめて!人事部長にまで嫌味を言われたんだから!」
私のような一見チャラチャラした姿のOLが現場事務所へ行くと、皆面白がって出てきた。
そして迎えた、翌日の3時。
ヤジも聞こえない、見ても集まっている様子はない。
よかった、と胸をなでおろした瞬間。
振り向くと、3階デッキに一斉に皆走ってきて、等間隔できれいに整列し、私のいる会社側に向かって、ものすごくキレのいい「ラジオ体操第一」を始めたのである。
騒ぐことはなくなったが、無言で私に「正しいラジオ体操」のプレッシャーをかけてきていた。
仕方なく、その日から少しだけ、真面目に腕を伸ばすことにした。
壁に耳あり、現場に目あり。
(今時の子、「壁に耳あり、障子にメアリー」と思っていると聞いたな。欧米か?!)
3時のラジオ体操って建設会社あるあるだったのだろうか……。
今更ながら疑問に思う。
*ラジオ体操は『かんぽ生命』から始まったみたいですね*
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