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第二章 呼ばれた日


休職してから、
時間だけがあった。
仕事のない静けさの中で、
ずっと避けていた問いが
静かに浮かび上がってきた。
私は、何のために生きているのか。
私は、何故生まれてきたのか。
この命を、どう使うのか。
そんなとき、
コミュニティのイベントに参加した。
「自分の人生を生き切る」
その言葉が、胸に刺さった。
やりたいと思うことを、素直にやってみる。
気づいた瞬間から、動き始める。
シンプルなことだった。
けれど、それまでの私には
できていなかったことだった。

その日から、何かが動き始めた。
長年温め続けていたオラクルカードを、
作ろうと決めた。
出発前日に、相談の日が決まった。
夢ではなく、現実として。
そして——東京へ向かう日が来た。
翌日のイベントに合わせて、
前日に東京入りをする。
秋葉原で、オラクルカード制作の相談があった。
ずっと心の中にあったものを、
初めて誰かに話す。
言葉にした瞬間——
胸がいっぱいになった。
涙が出そうになった。
そして——
夢が、現実になりつつある感覚があった。
ずっと夢の中だけにあったものが、
言葉になった。
言葉になったことで、
この世界に形を持ち始めた。
夢で終わらせない。
動くことで、近づいていく。
そのことを、
初めて身体で理解した瞬間だった。
しかも——
こんなに素晴らしい方と
ご縁をいただけた。
私が望めば、
もっと良いご縁も近いかもしれない。
その期待感が、
胸の中で静かに弾けていた。
嬉しくて、嬉しくて、
どうしようもなかった。
不思議と、緊張はなかった。
むしろ——
やっと、ここまで来た。
そんな感覚だった。
相談を終えたあと、
その方が車で送ってくださることになった。


行き先は、小網神社。
車の中で、その方と話しながら向かった。
話題は、これからのこと。
オラクルカードのこと。
創作のこと。
その方の言葉が、
やさしく、的確で、
胸に真っすぐに届いてくる。
窓の外に、東京の夜が流れていく。
見慣れない街の灯りが、
どこか夢の中のように美しかった。
この人と出会えたことも——
導きだったのかもしれない。
そう、自然に思えた。
最初から、ここへ来ると決めていた。
導かれていたのか、
自分で選んだのか——
今となっては、
その境界が分からない。


想像していたよりも、ずっと小さな神社だった。
けれど、その前には長い列ができていた。
人、人、人。
この場所に、これほどの人が集まる理由を、
そのときの私はまだ知らなかった。
一度その場を離れ、
近くの店でランチをとることにした。
お店に入り、
メニューを眺めながら、
ふと思った。


こうして一人で東京のお店に入って、
ご飯を食べている。
それだけのことなのに——
なんだか、自分が変わり始めている気がした。
惰性の日々では、
こんな感覚はなかった。
動いたから、感じられる。
気づけば、自然とそう思っていた。
お腹が満たされてから、
ホテルにチェックインする。
荷物を置き、
ひとつ息をつく。
夕方、もう一度向かおう。
そう決めて、しばらく休んだ。


夕方、もう一度訪れたとき、
列はほとんどなくなっていた。
静かに、順番が巡ってくる。
本殿の前に立つ。
手を合わせた瞬間、
言葉が消えた。
何かを願おうとしていたはずなのに、
頭の中は静まり返っている。
ただひとつ、内側から浮かび上がってきた言葉。
「書かせてください」
それだけだった。
願いというよりも——
すでに決まっている流れを、
受け取るような感覚。
そのとき、
ほんのわずかに、
世界の輪郭が揺らいだ気がした。
まだ気づいてはいなかった。
ここが、境界だったことを。
参拝を終えたあと、
翌日乗る予定の駅を確認してから
ホテルへ戻った。
かなり歩いたはずなのに、
不思議と眠れなかった。
眠たくない、というのとは違う。
身体は疲れているはずなのに、
意識だけが、どこか別のところにある。


天井を見つめながら、
何かを考えようとする。
でも——何も浮かばない。
頭の中に言葉がない。
整理しようとしても、
そもそも整理する「何か」がない。
不思議な感覚だった。
空っぽ、というのとも違う。
満たされている、というのとも違う。
ただ——浮いている。
意識が、どこかふわりと


宙に漂っているような。
身体はベッドにあるのに、
自分がどこにいるのか、
分からなくなるような。
小網神社で何かが開いたのだろうか。
そんな言葉が、
頭の遠いところをかすめた。
でも、それを考える前に、
また意識がふわりと遠くなる。
朝方、ようやく少しだけ眠りに落ちた。
今思えば——
あの夜から、
すでに始まっていたのだと思う。
何かが、静かに動き出していた。
朝食をとりながら、
ぼんやりと地図を眺めていた。
そのとき——ふと気づいた。
靖国神社へ行けるかもしれない。
調べてみると、
翌日向かう予定の路線の途中に
九段下駅があった。
乗り換えも要らない。
ただ、途中で降りるだけ。
まだ少し早い時間だったけれど、
何故か急いで支度をして、
チェックアウトした。
最寄り駅まで、10分ほど歩く。
スマートフォンで地下鉄の乗り場を確認しながら、
ドキドキしていた。
改札を抜けると——


人が多い。
かなり、多い。
さすが東京だな、と思いながら、
九段下駅まで何駅あるかを
スマートフォンで確認した。
電車に乗り込む。
ホームも、車内も、
人、人、人。
神戸とは、密度が違う。
九段下駅に着いた。
今度は出口を確認する。


案内板を見ながら、
必死に方向を確かめる。
地下は、どこへ向かえばいいか
分かりにくい。
迷いながら、それでも進む。
やっと、出口を見つけた。
ほっとした。
コインロッカーに荷物を預ける。
身軽になる。
その軽さに、
呼吸が少し深くなった。


次回「命の流れの中に」はこちら👇


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