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派遣社員akoの場合|#69 会社からの鬼電

スマホが震えるたびに、
心臓がひゅっと縮む。
1回目。
「まだ大丈夫、きっと間違い電話」
という謎の希望的観測でスルー。
2回目。
「あ、これは会社だ。でも今は出られない」
と布団を頭までかぶる。
3回目。
「やばい、これは本気のやつだ」
と胃がきゅっと痛む。

そして4回目。
スマホが震えた瞬間、
私は観念した。
逃げ切れない。
布団の魔力でも守りきれない。
“社会”が私を捕まえに来た。
震える指で通話ボタンを押す。
声が出るかどうかも分からないまま。

「……はい、○○です」
自分の声が、
自分のものじゃないみたいに弱々しい。
電話の向こうから、
お局様の、あの落ち着いた、
でも確実に怒っている声が聞こえる。
「今、どういう状況?」
その一言で、
全身の血が逆流するような感覚になる。
怒鳴られているわけじゃないのに、
静かな圧がいちばん怖い。

私はとっさに、
反射的に、
条件反射のように嘘をついた。
「……すみません、ちょっと……お腹が痛くて……」
言った瞬間、
あ、やってしまった、と思う。
でももう戻れない。
言葉は空気に溶けて、
取り消しボタンなんて存在しない。

お局様は短く息を吸って、
少し間を置いてから言った。
「そう。分かりました。
今日は休んでください。お大事に。
ただ、連絡は始業前にお願いしますね。」
その“お願いしますね”が、
優しさなのか、
失望なのか、
判断できない。
でも、どちらにせよ刺さる。

電話を切ったあと、
私はスマホを胸に抱えたまま、
しばらく動けなかった。
嘘をついた罪悪感と、
休める安堵と、
怒られなかったことへの拍子抜けと、
全部が混ざって、
胸の中がぐちゃぐちゃになる。
布団の中で小さく丸まって、
天井を見つめる。
「……私、何やってるんだろう」
そう思うのに、
布団はあたたかくて、
現実は冷たくて、
私は今日も弱さに寄りかかって生きている。
でも、
それでも生きている。
それだけで、
今日はもう十分なのかもしれない。


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