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『VIVANT』は経理ホラーである 13年の実務家が読み解く“誤送金の恐怖”

TBS日曜劇場『VIVANT』第1話で、私が最初に震えたのは砂漠ではなかった。

丸菱商事で発覚する大規模な誤送金である。

物語の発端は、丸菱商事の社員・乃木憂助(堺雅人)が、バルカ共和国のGFL社へ送金した資金だった。本来は1000万ドルを送るはずが、実際にはその10倍、1億ドルが送金されてしまう。

日本円にして約140億円——会社の巨額の金が、突然海外へ飛んでいく。

もちろん、ドラマとしてはここからが本番だ。乃木は誤送金された金を取り戻すためにバルカ共和国へ向かい、やがて公安、別班、テント、国家、家族をめぐる巨大な物語へ巻き込まれていく。

しかし、実務で13年ほど経理に関わってきた人間からすると、『VIVANT』は国際諜報ドラマである前に、経理ホラーだったのだ。

1. 経理実務における「3大恐怖」

経理の仕事のうち、お金を動かす仕事(支払い)には、いくつかの恐怖がある。

一つ目は、支払遅延である。

払うべきお金を、期日までに払えない。これは単なる事務ミスでは済まない。取引先への信用を失うし、場合によっては債務不履行にもなりうる。

二つ目は、資金ショートである。

支払予定に対して、銀行残高が足りない。銀行残高以上の支払いを行おうとして、送金エラーになる。給与、取引先への支払い、税金、借入返済などが絡めば、現場の緊張感は一気に高まる。

そして三つ目が、誤送金である。

必要以上の金額を払ってしまう。あるいは、全く別の口座にお金を送ってしまう。

支払遅延は「間に合わない恐怖」、資金ショートは「足りない恐怖」だとすれば、誤送金は「出してはいけない金を出してしまう恐怖」である。

『VIVANT』第1話の事件は、まさにこの誤送金にあたる。

2. 会社のお金はどう送られるのか

ここで少しだけ、会社の送金の流れを整理したい。

社内で、「この取引先に、この金額を払ってよいか」という支払申請がある。請求書や契約書、支払先、金額、口座情報などをもとに、上司や経理・財務部門が確認する。

その情報は、基幹システムや会計システムに登録される。基幹システムとは、会社の取引やお金の流れを管理する業務用アプリのようなものだ。

大企業であればSAPOracleを使っていることもあるだろうし、自社向けに作り込まれた業務システムを持っていることもある。

重要なのは、会社の中で承認された支払情報が最終的には銀行に渡せる形の送金データ(CSVなど)に変換されるという点である。そして法人向けネットバンキング等にデータを渡し、銀行に送金指図を出す。

『VIVANT』で問題となるのが、この“つなぎ目”だ。銀行に届く前の会社側の正規のデータがハッキングによって汚染され、10倍の金額に書き換えられていたと考えられる。

銀行から見れば、正しい権限と形式で「1億ドルを送れ」という指図が来たように見える。

だが、銀行は契約書の中身まで読んで、「本当は1000万ドルのはずですよね」と判断してくれる存在ではない。

3. ハッキングだけで140億円は飛ばない

そこで重要になるのが、内部統制である。

つまり、誰か一人のミスや不正で、会社のお金が勝手に動かないようにする仕組みである。

たとえば、入力者と承認者を分ける。支払申請をする人と、銀行に送信する人を分ける。高額送金には追加承認を入れる。取引先の口座情報を変更するときには、別の承認を必要にする……などなど。

特に大事なのが職務分掌だ。これは、一人に権限を集中させないことである。

単に「財務担当の〇〇がシステムを改ざんしたから140億円が飛んだ」というだけではない。もし、会社側の送金処理が改ざんされていたのだとすれば、それを検知できなかった内部統制の問題でもある。

どうして丸菱商事は、銀行に送る直前のデータを、誰も確認しなかったのか——?

本来であれば、承認された支払内容と、銀行に渡す最終送金データを突合する必要がある。ハッキングされたデータを、正しいものとして通してしまう組織があって、初めて事後が起きるのだ。

4. 『VIVANT』は“正規の業務フロー”の崩壊を描く物語

『VIVANT』は、やがて公安、別班、テント、国家、家族をめぐる大きな物語へ広がっていく。

だが、第1話の入口は、会社員なら誰でも想像できる「仕事で取り返しのつかない事故」だった。

経理の現場で本当に怖いのは、会社の金が「正規の業務フロー」を通って飛んでしまうことだ。

『VIVANT』は、会社の内部統制が音もなく崩れていくというホラーなのである。


※本稿は、Amazonアフィリエイトを含みます。

※シーズン2のレビューはこちら。

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