【プロンプト・オブ・ハピネス】⑤
第二十四章 スウェーデンを調べる
スウェーデンの冬は、ほぼ半年にも及ぶ長い暗さが特徴だ。日照時間が極端に短くなるため、太陽がようやく姿を現した際には、スウェーデン人は何よりも日光浴を欠かさない。晴れた日には、寒さを凌ぐためにブランケットにくるまりながらも、テラスでお茶を楽しみ、できるだけ太陽の光を浴びようとするのだ。この瞬間は、彼らにとって特別な時間であり、日の光を感じることが至福の瞬間なのだと、調べれば調べるほど、その文化が愛おしく思えてきた。
そして、スウェーデン人と日本人との間には、お酒に対する考え方にも決定的な違いがあるらしい。スウェーデンの伝統的なお酒であるアクアビットは、40%近い高いアルコール度数を誇るという。しかし、スウェーデン人は顔色ひとつ変えずに、何杯でも飲み干せるというから驚きだ。このお酒に対する彼らの強さは、彼らの文化や精神性を象徴しているように思えた。
いろいろとスウェーデンのことを調べるたびに、その国への思いが日増しに募っていった。ワーキングホリデーの手続きやビザの申請など、準備が進むにつれて、私の心にはワクワクする期待が募ってくる。しかし、その中でも一番の目的は、やはりマヤに再会することだった。彼女との再会を思うと、胸が高鳴り、一日一日が、いや、一時間一時間が、待ち遠しく感じられた。彼女の笑顔を思い浮かべるだけで、私の心は幸福で満たされた。私は、もうこの国に恋しているのかもしれない。
第二十五章 出国
数人の友人と集まった時、一人の友人が切り出した。 「海斗、最近どうなの?就職とか進路とかさ」 大学受験に失敗し、漠然と浪人生活を送ると思われていた私に、彼らは心配と興味が入り混じった眼差しを向けている。 「あぁ、それな。俺、スウェーデンにワーキングホリデーで行くことになったんだ」
私の言葉に、友人たちは一様に微妙な表情を浮かべた。 「え、マジで?なんで急にそんなことになったの?」 驚きを隠せない声が上がる。彼らにとっては、あまりに唐突な話だろう。 「まぁ、いろいろあってさ、今しか行けないチャンスと思って」 私はマヤのことは内緒にして、曖昧に答えた。それは、私たち二人だけの、大切な秘密だった。 「ふーん、そうなんだ。海斗らしいかもなあ」 それを聞いて、みんなも納得したように頷いた。私の突拍子もない行動は、これまでも少なからずあったからかもしれない。 「そう?まぁ、北欧の暮らし、楽しんでくるよ」 そう言って、私は笑った。その笑みには、期待と、少しの寂しさが入り混じっていた。
準備は着々と進み、3ヶ月という審査期間を経て、ついにビザが降りた。すぐに往復の航空券を購入し、スウェーデンのストックホルム・アーランダ空港へ向かうことになった。
出発の日、母は空港まで見送りに行くと申し出てくれたが、別れの瞬間が悲しくなるかもしれないと思い、来なくてもいいと伝えた。玄関先で「行ってくるね」と告げ、母の心配そうな顔に背を向けた。
友人が父親の車を借りて、私を空港まで送ってくれた。 「1年後を楽しみにしててよ。お土産買って帰ってくるね。ありがとう」 友人にお礼を言って、搭乗ゲートへと向かう。振り返ると、彼らが小さく手を振っていた。
搭乗ゲートをくぐり、シンガポール航空の機内に乗り込む。午後5時の出発だ。目的地のストックホルム・アーランダ空港への到着は、現地の翌日の午後1時55分。このフライトは総飛行時間が28時間55分にも及び、途中2回の乗り換えがある、長旅だ。
私はすぐにマヤにそのことを連絡した。すると、彼女は喜び勇んで「迎えに行くよ!」と言ってくれた。待ち合わせ場所を改めて確認し、約29時間後に彼女と再会できることを、私の心は心待ちにしていた。成田空港での別れから、およそ4ヶ月近くが過ぎていた。その間、私たちは遠く離れて暮らしていた。それでも、時間が経つにつれて彼女への思いは強くなるばかりで、再び彼女の笑顔を見ることが、これほどまでに待ち遠しく感じられたことはなかった。窓の外の景色が、ゆっくりと遠ざかっていく。私の胸は、まだ見ぬスウェーデンの地と、そこで待つマヤへの期待でいっぱいだった。
第二十六章 スウェーデンに到着
シンガポールからの長いフライトを終え、飛行機はストックホルム・アーランダ空港に無事に着陸した。機内アナウンスに従い、ゆっくりと席を立つ。入国手続きを済ませ、重い足取りでゲートを出ると、そこには、約4ヶ月ぶりに再会するマヤがいた。
彼女は、人混みの中に私の姿を見つけると、顔いっぱいに花が咲いたような笑顔を浮かべ、一目散に駆け寄ってきた。そして、言葉を交わすよりも早く、私の胸に飛び込んできて深くハグし、そのまま唇にキスをした。
「来てくれてありがとう、会いたかった」
彼女の言葉が、耳元で響く。その瞬間、29時間にも及ぶ長い旅路の疲れが嘘のように消え去り、私たちは再び、確かに一緒にいるのだと実感できた。
「両親の家まで車で行こう。そこが私の実家だよ」
マヤはそう言って、私の手を引いて出口へと向かった。 「緊張しないで。みんなで待っているって言ってるよ。きっと喜んでくれるから」
彼女は私を安心させようと、笑顔でそう繰り返した。しかし、今頃になって、彼女の両親や姉たちと初対面だという事実に、私の心臓は、まるで初めてジェットコースターに乗る前のように激しく高鳴ってきた。
私はぎこちなく言った。 「そうだね」 声が、わずかに上ずった気がした。
彼女は私の表情を察したのか、再び笑顔で言った。 「大丈夫だよ。みんな、気さくよ」 それでも、私の口からは、ぼそりと本音が漏れた。 「それでも、緊張するよ」
すると、マヤは私の手を強く握り、勇気づけるように微笑んだ。 「一緒に行こう。きっと楽しいよ」
私は彼女が以前、それぞれの家族が好きなものを教えてくれていたのを思い出していた。そう、日本からのお土産が、私の緊張を和らげるパスポートになるはずだ。
「あれ?お土産、忘れちゃった?」 マヤが首を傾げた。私は、預けた荷物ではない、手荷物のバッグを指差した。 「いや、忘れてないよ。バッグに入れてある」 それを渡して、できるだけフレンドリーに振る舞えばいい。そう、単純に考えることにした。
つづく
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