【プロンプト・オブ・ハピネス】⑧
第三十三章 Maja(マヤ)の涙
マヤの実家から戻り、マヤの家に帰ってシャワーを浴び、ソファでくつろいでいると、後ろから突然、温かい腕が私を包み込んだ。 「海斗は、不思議な人よね」 マヤが、私の肩に顔を埋めるようにして言った。
「何?どうしたの?」 私が尋ねると、マヤは深いため息をついて答えた。 「あなたがそばにいると、すごく穏やかな気持ちになるの」 その言葉に、私は首に回された彼女の腕を握りしめながら、静かに答えた。 「そうなんだね、それは嬉しい」
しかし、次の瞬間、彼女の大きな瞳から、ぽろぽろと涙が溢れ出した。 「また、あなたとお別れしなければならないと思ったら、1年後がとっても寂しい」 その声は震え、私の心にも、同じような寂しさがじわりと染み渡った。 「考えたくないけど、寂しいよね」 私は彼女の頬を伝う涙を、そっと指で拭った。
「マヤと一緒にいると、とても落ち着くんだ。ご両親もすごく良くしてくれるし、お姉さんたちもとてもいい人だし、カフェの店長も親切にしてくれるし、スタッフたちともフレンドリーになれた」
しみじみと私は語った。その時、私の頭の中に、まるで稲妻が走ったかのように、一つのひらめきが生まれた。それは、この寂しさを打ち破るための、確かな希望となるアイデアだった。
「今のワーキングホリデーのビザが切れたら、いったん日本に帰り、色々なことを整理して準備をする。そして、今度は観光ビザでスウェーデンに戻ってきて、マヤが通っている大学に入学手続きをして留学ビザを発給してもらう」
私は、頭の中で組み立てた計画を、そのまま口にした。マヤは私の言葉を聞いて、泣きながら、そして笑っていた。涙と笑顔が混じり合ったその表情は、私にはとても愛おしく見えた。 「すてきなアイデア!あなたは実行力があるから、本当に楽しみにしているわ」 彼女はそう言ってくれた。もう彼女の瞳から涙は消え、そこには輝く希望が宿っていた。
第三十四章 ヨーロッパの旅の計画
マヤの大学の長期休みを利用して、私たちはヨーロッパを旅行する計画を立てた。お互いに行きたい国をピックアップし、旅のプランニングは私に一任された。スウェーデンから南下し、まずスペインへ。そこからフランス、そしてイタリアを訪れることにした。
1日目:バルセロナ ストックホルム発バルセロナ着の直行便。フライト時間は約5時間で、フライト料金は4000円程度と、驚くほど手頃だった。バルセロナではまず、サグラダ・ファミリアとグエル公園のセットのガイドツアーを計画した。優先ツアーに申し込むことで、長蛇の列を避け、ガイドに案内してもらいながら、ガウディの緻密な図像や込められた意味を楽しむ。グエル公園は、エウゼビ・グエイ伯爵とアントニ・ガウディが作り上げた特別な場所で、1900年から1914年の間に建造されたという。その後は、カサ・バトリョやカサ・ミラも訪れ、ガウディの独創的な建築を堪能する予定だ。
2日目:美術館と観光 午前中はピカソ美術館へ。ピカソの若い時期の絵画が多く展示されている場所だ。午後はカタルーニャ美術館へ。バルセロナ最大規模の美術館で、特に11世紀から12世紀のロマネスク美術は圧巻だという。夕方からはランブラス通りを散策し、カフェやショップが軒を連ねる活気ある雰囲気の中で、ショッピングと食事を楽しむ。夜は、Spotifyカンプノウ・スタジアムで、スペインリーグのFCバルセロナの試合を観戦する。
3日目:パリへ移動 翌日、バルセロナからパリへ直行便で約2時間のフライト。パリでは2日間をかけて、ルーヴル美術館で美術の宝庫に浸り、モンマルトルの丘でパリの町並みを満喫する。エッフェル塔や凱旋門を眺めながらのんびり過ごし、セーヌ川クルーズも体験する。夜は、オペラ座でシャガールの「夢の花束」を鑑賞し、ノートルダム大聖堂も訪れる予定だ。
6日目~10日目:ローマ、フィレンツェ、ベネチア パリ発ローマ着の直行便で約2時間。そこからイタリア国内を鉄道で移動し、ローマ、フィレンツェ、ベネチアでの観光を計画した。コロッセオ、フォロ・ロマーノ、ヴァチカン市国、ウフィツィ美術館、ドゥオーモ、サン・マルコ広場など、見どころは尽きない。
この綿密なプランをマヤに確認すると、彼女は目を輝かせ、心から喜んだ。私たちは早速ツアー会社に行き、出発日と旅行プランを伝えた。後日、ツアー会社から、旅行日程と費用に関する詳細な連絡があった。10日間で一人あたり60万円の旅費がかかるという。
「旅費は2人分、僕が出すから」
私がそう言うと、マヤはすぐに首を振った。 「それは悪いから、自分の分は自分で出すわ」 しかし、今回の旅行は私が彼女を連れて行きたかったので、私は譲らなかった。 「スウェーデンで泊まる場所を提供してもらい、お母さんのカフェで仕事までさせてもらっている。それに比べたら、この旅行代は、一人で生活することを考えたら安い金額だよ」
私がそう言うと、彼女は渋々ながらも納得してくれた。マヤは興味津々の表情で、ふと口を開いた。 「ねえ、18歳の海斗がどうしてそんな大金を持っているの?」
私は思わず笑みを浮かべ、彼女の目を見つめながら答えた。 「18歳の時に証券会社の口座を作って、母から自分の大学費用はこれで稼ぎなさい、と言われて、20万円をその口座に入れてもらったんだ」 驚きを隠せない彼女の表情を見て、私は続けた。 「今では口座残高が500万円近いんだ」 「海斗、あなたはすごいね!」 マヤは心底驚いた様子で言った。
大学受験に落ち、進むべき道が見えずにさまよっていた私。未来に何が待ち受けているのか、何をすべきか、模索する日々だった。そんな中で、マヤに会いたい一心で、スウェーデンにワーキングホリデーでやってきた。そして今、彼女に未知の土地で暮らす場所や働く場所まで提供してもらっている。母からの勧めで始めた投資が、幸運なことに利益を生み、今や500万円にも迫る資産となっている。だが、その未来はまだ見えない。成功するか、それとも失敗するか、誰にも分からない。しかし、私は今、確かに希望を手にしている。
第三十五章 スペインバルセロナへ
旅行会社にお金を支払い、旅行の日程表や予約していた航空券、オプショナルツアーのチケットを手に入れた。準備は全て整った。私たちは、新たな10日間の旅に出発した。
最初の目的地はスペインだ。バルセロナに到着すると、私たちはガウディ建築の壮大さに圧倒された。サグラダ・ファミリアの荘厳さ、グエル公園の夢のような色彩、カサ・バトリョやカサ・ミラの奇抜なデザイン……。そのどれもが、想像をはるかに超える感動を与えてくれた。ピカソ美術館では、若き日のピカソが描いた作品群を鑑賞し、その才能の片鱗に驚嘆した。カタルーニャ美術館では、荘厳なロマネスク美術に触れ、歴史の深さを感じた。カタルーニャ広場からランブラス通りを歩けば、その活気ある雰囲気に包まれ、バルセロナに来たという実感が沸々と湧いた。
そして、旅のハイライトの一つ、Spotifyカンプノウ・スタジアムでのFCバルセロナ対セビージャFCのサッカー公式試合観戦だ。満員の観客が送る地鳴りのような声援に、私たちは圧倒された。スタジアム全体を覆うそのエネルギーを、体全体で感じ取った。
「ねえ、海斗、スペインでの旅行、本当に楽しかったね」
マヤが私の手を握りながら言った。私は微笑みながら答えた。 「本当に楽しかったよ。ガウディの建築には感動したし、ピカソ美術館で若いピカソの作品を見て、その才能には心底驚いたよ。それに、カタルーニャ美術館のロマネスク美術も素晴らしかった」
「カタルーニャ広場からランブラス通りを歩くと、バルセロナに来たって気分になるんだよね。私、あそこが大好き」 マヤが嬉しそうに言った。
「そうだね、本当に素敵な場所だった。それに、スタジアムでのサッカーの試合も最高だった。観客のエネルギーを感じて、すごく興奮したよ」 私は熱く語った。
スペインの旅を終え、次の旅先であるパリへの飛行機の中で、私たちの楽しい会話は尽きなかった。マヤと出会ったのは、確かに偶然だった。しかし、その偶然が私たちを、こうして一緒の旅路へと導いたのだ。私にとって、どこへ行こうと、何をしようと、マヤと一緒にいることは幸福の絶頂だった。彼女と共有する時間は、喜びと発見に満ち、幸福感が心を包む。彼女にこの感情を分かち合うと、彼女も全く同じように感じていると言った。
スウェーデンでの日常は心地よく、穏やかで幸せな時間が流れる。だが、旅先で彼女と同じ景色を目にし、同じ感動を分かち合うことは、また格別だ。新たな地を歩みながら、私たちは驚きと感動に満ちた瞬間を共有する。そこには、日常の喜び以上の魅力があり、私たちの絆を一層深く、確かなものにしていくのを感じた。
つづく
いいなと思ったら応援しよう!
はぁ、はぁ……っ! お願い、です……!
『怪獣の腹の中で』を……どうしても、私の手で「紙の本」にしたいんです……っ!
あなたの、そのサポートが……本の、一ページに、なります……っ。
はぁ……応援、してくれませんか……っ?