【プロンプト・オブ・ハピネス】⑥
第二十七章 Maja(マヤ)の家族
マヤの両親が住む家へは、空港から車でしばらく走った。途中、車窓から見えるスウェーデンの風景は、日本のそれとは全く異なっていた。広々とした森と、湖が点在する、豊かな自然が広がっている。
家に到着すると、その大きさに私は目を見張った。芝生の広い庭があり、北欧らしいシンプルながらも洗練された、絵に描いたような一軒家だ。玄関のドアが開くと、マヤの家族が、まるで私たちの到着を待ちわびていたかのように、全員で出迎えてくれた。
「ようこそ!」
温かい声で迎えてくれたのは、マヤのお父さんだった。背が高く、立派な髭を蓄えた、見るからに温厚そうな男性だ。お母さんはすらっとしていて、マヤによく似た、とても美人な方だった。そして、二人のお姉さんたちも、それぞれに魅力的な容姿を持っていた。
「待っていましたよ、海斗さんのことを。家族全員であなたの到着を楽しみにしていました」 お父さんが笑顔でそう言ってくれた。
緊張しながらも、私は礼儀正しく挨拶を交わした。日本から持ってきたお土産をそれぞれに渡すと、皆が本当に喜んでくれたことに、私は内心ほっとした。
そして、家族全員で食卓についた。ダイニングルームは広々としており、テーブルの上には、豪華なスウェーデン料理がずらりと並べられていた。食卓では、皆が楽しそうにおしゃべりをしながら、美味しい料理を堪能した。家族の温かい賑わいの中で、マヤがどんな環境で育ってきたのかが、少しずつ理解できてきた気がした。
食事が終わると、女性たちが協力して食卓を片付け始めた。その間、私は彼女のお父さんとリビングで話をすることになった。 「将来のことはどう考えているんだい?」
お父さんが、ソファに座る私に優しく尋ねてきた。私は少し考え、正直に答えた。 「今は、まだ考え中です。この1年間、スウェーデンで過ごして、新しい文化や習慣を学びたいと思っています。そして、帰国後に自分が本当にやりたいことを見つけたいと思っています」
すると、ちょうどお母さんも片付けを終えてやってきた。 「あなた、よかったら私のカフェで働いてみない?」
思いがけない誘いに、私は喜びを隠せないまま、その申し出をすぐに受け入れた。異国での初めての仕事だ。そこにマヤとお姉さんたちも加わり、皆で楽しく談笑を楽しんだ。
その時、玄関のチャイムが鳴り、一人の女性が訪ねてきた。マヤが日本へ旅行に行くはずだった友人の一人だという。彼女は、自分の体調が急に悪くなって旅行に参加できなくなり、マヤを一人で日本に行かせることになったことを申し訳なく思っていたらしい。私の話を聞いて、彼女は安堵した様子で「感謝しています」とお礼を言った。
「気にしないで、当たり前のことだよ」
私は笑顔でそう返した。すると、マヤが突然、歌を歌うことを提案した。彼女の一番上のお姉さんがピアノの前に座り、優雅な音色を奏で始めた。その伴奏に合わせて、マヤが歌い出した。彼女の歌声は、日本のカラオケボックスで聴いた時と同じく、いや、それ以上に、家族の温かい空間の中で輝いていた。日本では考えられないほどのアットホームで、音楽に満ちたひとときが流れた。
夜も更け、マヤが、私の疲労を気遣うように言った。 「海斗は長いフライトで疲れてるだろうから、そろそろ私の家に戻る」
すると、お母さんが優しく尋ねた。 「1週間はゆっくりして、来週あたりからどうかな?」 私の仕事の開始時期についてだ。 私は「よろしくお願いします」と、深々と頭を下げた。 「詳しいことはマヤに言っておくから」 お母さんはそう言って微笑んだ。
私たちは、ご馳走になったことと、楽しい時間を過ごせたことに感謝を伝え、両親の家を後にした。玄関で、マヤの友人にもお土産を渡すと、彼女もまた笑顔で感謝を述べてくれた。私たちは、夜の冷たい空気の中、マヤの住む家へと向かった。
第二十八章 Maja(マヤ)の住む家
マヤの実家から大学に通うには少し遠いので、彼女は一人暮らしをしていた。この家も父親の所有だという。マヤは私をその家へ招き入れると、まるで秘密を打ち明けるかのように、笑みを浮かべながら話し始めた。
「1年も一緒に住むんだから、隠し事はしないね」
案内された部屋の扉を開くと、そこにはまるで映画の世界のような光景が広がっていた。壁沿いに並べられた複数のモニターが、まるでハッカーの秘密基地のように光を放っている。中央には高性能なパソコンが鎮座し、無数のケーブルが蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。
幼い日々、マヤは夢中でパソコンに向かっていたという。彼女の世界は、キーボードのクリック音や、コードの入力によって彩られ、父親からの学びが彼女を導いていった。幼少期からプログラムの作成や、さまざまな技術に触れ、彼女はその才能を驚くほど早く開花させていったのだ。中学に入る頃には、マヤは周囲を驚かせるほどの技術者へと成長していた。彼女の手にかかれば、パソコンの世界は彼女独自の舞台となり、その技量はハッキングの領域にまで及んでいた。それは彼女にとってただの趣味ではなく、未知の領域への探求心が彩った、飽くなき冒険だったのだ。
その光景に目を奪われながら、私は驚きと興味が入り混じった複雑な感情に包まれた。私も小さい頃からパソコンに親しみ、父から様々なことを学んできた。そんな私にとって、この部屋はまさに夢のような存在だった。
マヤが私の驚いた表情に気づいて、優しく問いかけてきた。 「ねえ、どうしたの?驚いた?」
私は微笑みながら答えた。 「少し、驚いたけど、マヤの意外な一面が見られて良かったよ。この1年間一緒に過ごす日々は、日本で旅行した時よりも、もっとエキサイティングで楽しい時間になると思うよ」
彼女も笑顔で、「そうだね、楽しみだね」と言った。彼女の意外な才能に触れ、私の心は感動と幸福で満たされた。
「大学の専攻も情報処理とプログラミングなんだね。それに、彼女の歌声は、プロを目指すのに値するほどの歌唱力を持っている」
自然な感嘆の言葉が、私の口をついて出た。 「美人で素敵で、しかもこんな才能を持った女性と1年間一緒に暮らせるなんて、幸せだ」
私は独りごとのようにつぶやいた。すると、マヤは私の言葉に、嬉しそうな表情で返事をした。 「え?本当に?とても嬉しいわ」
彼女の笑顔が、部屋全体に幸せな光をもたらした。 「私もね、こんなに優しくて、一緒にいて楽しい人と出会ったのは初めてよ。海斗と会えなかった4ヶ月間、毎日、あなたに会いたいと思っていたの。そして、あなたが会いに来てくれたこと、本当に嬉しいわ。私の心の中は幸せでいっぱいよ」
その日は、4ヶ月ぶりの再会を祝い、私たちは彼女の広いベッドで愛し合った。彼女の温かな肌とともに過ごす時間は、まるで時間が止まったかのように感じられ、長旅の疲労感と、心地よい幸福感に包まれて、私たちは深い眠りに落ちた。
朝の静寂が、彼女の広いベッドを包み込んでいた。心地よい眠りから覚めると、私はまず、彼女の美しい寝顔をじっと見つめた。その穏やかな表情は、幸せな夢を見ているようで、私も心から幸せを感じた。
今日は彼女と一緒に、必要なものを買いに行くことに決めていた。パソコン、iPad、洋服、そして彼女に日本の美味しい料理を味わってもらうための食材。また、彼女が学校に行っている間に、一人で動きやすいように自転車と、そして何よりも楽しみだったギターも手に入れたいと思っていた。どれも、彼女との日々をより豊かにするためのものばかりだ。
彼女が目を覚ました時、私は興味津々で、彼女がどんな朝食を取り、一日をどのように過ごすのかを知りたくてたまらなかった。そして、私は、彼女の生活にできるだけ影響を与えず、彼女のリズムに合わせて過ごしたいと心に決めた。一緒に住むことで、彼女の快適な環境を損なわないように、細心の注意を払わなければならないと感じた。彼女の機嫌や状態を観察し、彼女にストレスをかけず、常に寄り添うことが、この共同生活を楽しいものにするために不可欠だと思った。
第二十九章 ショッピング
朝の光が窓から差し込み、部屋を優しく照らす。彼女が目覚め、優しく「おはよう」と言ってくれた。私も微笑みながら「おはよう」と返し、彼女の頬にキスをした。
彼女はベッドから起き上がると、何の躊躇もなく裸のまま浴室へと歩いていった。その自然な姿に、私の心は少しだけざわめいた。シャワーを浴び終わった彼女と入れ替わるように、私もシャワーを浴びる。その間、彼女は朝食を作ってくれていた。
テーブルには、ライ麦パンにハムとチーズをのせたシンプルなサンドイッチ、マッシュポテト、そして温かいコーヒーが並んでいた。スウェーデンのパンは美味しいと聞いていたので、とても楽しみにしていた。一口食べると、素朴ながらも風味豊かな味わいが口いっぱいに広がる。食事をしながら、私はマヤとの共同生活がどんなものになるのか、彼女の食べ物や生活習慣を肌で知ることが、何よりも楽しみだと感じた。
モーニングを楽しんでいると、マヤが「今日はどうするの?」と尋ねた。 「よかったら、買い物に行きたいから、付き合ってくれないか」 私がお願いすると、彼女は笑顔で快諾してくれた。 「ねえ、今日は何を買いに行くの?」
マヤが私に尋ねた。私が買い物のリストを頭の中で整理しようとすると、彼女は微笑みながら、思わぬ提案をしてくれた。 「じゃあ、パソコンとかiPadは、使っていないのがあるので、それを使えばいいよ」 その言葉に、私は感謝の気持ちでいっぱいになった。 「スマートフォンは、日本でSIMロックを外してきたから、現地で新しいSIMを入れてもらえば、今使っているiPhoneが使えるってこと?」 私が確認すると、マヤは頷いた。 「そうそう、その通りだよ」
私たちは、**ソルナ・チェントラム(Solna centrum)**というショッピングモールへと向かった。そこでランチを食べてから、洋服や、憧れのギター、そして日本の料理を作るための食材を買い揃えた。
「自転車はネットで買うことにしたんだ」 私がそう伝えると、マヤは笑顔で賛成の意を示してくれた。生活に必要なものが次々と手に入っていく。
その後、私たちはABBA博物館とストックホルム宮殿に立ち寄って、短い観光を楽しんだ。マヤが、まるで日本のガイドのように、それぞれの場所の歴史やエピソードを教えてくれる。そして、日が傾き始めた頃、マヤの家へと戻った。
夕食は、私が腕によりをかけてお好み焼きを作った。ソースの香ばしい匂いが部屋中に広がる。二人で「美味しいね」と言い合いながら、大阪で食べたお好み焼きの味を懐かしんだ。日本での旅の思い出と、スウェーデンでの新たな生活が、こうして一つになっていくのを感じた。
つづく
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